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14.寂しい花火 ぱち、ぱち。 納涼を告げ、爆ぜる火薬。 火の陰影は闇夜に映る白い顔を、より虚空に作り上げる。 小さな化学反応が齎す、橙色の炎。 一色統一の炎色反応は簡素で、しかしこの空気には何にも勝る情緒だった。 あぁ奇麗だ。 火影が彩る夜の艶やかな静寂、冷え始めた頃の清廉な空気。 白い肌に映る炎が、奇に艶麗で。 笑めば程よく佳麗な見目をしていながら、一つも綻びを見せない清冽な表情。 怒気を孕んでなお艶美な顔であるのに、勿体ない。 情緒の欠片もない一般家庭の小さな庭。 小さな庭で唯一日本の情緒に合うものと言えば、小さな縁側程度のものだ。 彼も情緒などのために花火を散らせているわけではない。 自宅の勝手知ったる庭で、不機嫌な顔で。 その背後の縁側に座り込み、膝に頬杖をついている田島もまた、不機嫌な顔だった。 さっきからずっと背中を向けて、黙々と線香花火を続けている後ろ姿をじぃ、と睨みつけている。 放置されてもう、30分。 本来ならもう、河川敷で行われている花火大会に行っているはずなのに。 ここに来るまでに寄り道してしまったのは、本当に悪いと思っているのだが。 二人きりで出かけるのは久しぶりだったし、相当自分も舞い上がっていた。 それなのにどうして、途中でトモダチとはち合わせて、話しこんでしまったのか。 本当は早くここに来たくて急いで急いで家を飛び出したのに、つい寄り道をして。 で、拗ねている。 寄り道した分急いで来たつもりだったけど、ダメだったらしい。 泉の家のインターホンを鳴らして、泉が出てくれると思ったらお母さん。 ―――孝介ねぇ、一人で花火してるのよ。 しまった、とは思ったが一応上がらせてもらって。 後ろにいるのは気づいてるくせに、こっちを振り向きもしない。 遠くでどん、と低い音。 連発し、立て続けに響く轟音は、花火大会が中盤に差し掛かった頃の定番。 本当なら今頃、人波に煽られながらもあの中にいたはずなのに。 むす、とした顔を浮かべてみても、今度の今度は彼も相当怒っているらしい。 まったく無表情な時に限って、その内の怒りは計り知れないから、怖い。 大体のことは流してくれるのに、こうゆうのに限って。 「…泉…。」 「………。」 「泉ぃ……。」 「………。」 「いーずーみー…。」 「………。」 完全に無視。 これは相当キレている。 こんな酷く機嫌を損ねている泉は、初めて見た。 普段ゲージが上がりやすいくせに、でも、上がったらすぐ下がるのに。 意気消沈。 呆れすぎたのか、怒りすぎて疲れてるのか。 ―――嫌、われた。 ふ、と過っていく嫌な考え。 ふるふると頭を振って振り払おうとしても、上手くいかない。 小さく見える後ろ姿を見ていると、決定づけされているようで。 こんなにほっとかれているなんて、もう、そうと言ってるようにしか―――。 ぐしぐしと顔を拭って、冷えた背中をじっと見つめて。 こっち向いて。 声が届かない。 ぱちぱちと火薬の弾ける音。 遠くに聞こえる打ち上げ花火の音が、今ではもう煩わしくて。 どんどん目頭が熱くなる、馬鹿、自分が悪いのに。 泉ならこれくらい、許してくれる、と。 泉だって、許してくれないこともあるのに。 泉が怒らないなんて確証なかったのに、寄り道なんてして。 馬鹿、馬鹿。 懐かしの同級なんかより、よっぽど大事な選択を間違えて。 ぐし、ぐし。 顔を擦る。 お願いだから、こっち向いて。 花火ばっかり見てないで。 「…誰だったの、あれ?」 「…え…?」 「オレ、見たことねー奴らだったから。」 「あ…え…中学ん時の、知りあい…。」 「ふぅん。」 なんで泉が知ってる。 寄り道の理由、話してすらいないのに。 「遅いから、心配になったんだよ。」 「…あ…。」 「仲良さそうにしてたじゃん。」 「…っ…。」 「一緒に行かねぇの?」 「…っ行かない…!」 「――――…そう。」 息苦しくなって、合わせた前を軽く叩く。 弱い叩き方じゃ全然足りなくて、ただ昂ぶりを助長させるだけで。 絞めた腹も慣れなくて苦しくて、言葉の一つが重すぎる。 目尻にたまった涙がボロボロ零れて、手で拭ってももう足りない。 慣れない袖を捲し上げて、ごしごしこすっても、消えない。 一つ一つの重たい言葉に、押し潰されて、圧迫されて、すぐにもう、爆発してしまいそう。 袖をあげると、視界が全て覆い隠されて何も見えない。 ぱち、ぱち。 ふ、と音が消える。 しゅ、と静かな音がして、跳ねるような水の音。 からん。 からん。 零れる滴を消しきってしまうのに、顔すらも上げれない。 かつ、と、石が鳴る。 足もとの方。 腕が取られる。 強くもない引きにあっけなく引き剥がされて、空気に触れ。 しゃがみ込んで見詰め込む、冷たい黒い、瞳と瞳。 隠せなくなった濡れた頬を、つぅ、と指が撫ぜていく。 冷たい指先、頬も冷たいから、温もりの感覚は麻痺してしまった。 止まらない涙を辿るように目元へ、溜まった水分を弾く。 熱いはずの目元が、冷たい指に辿られて冷えた。 冷たかった双眸に、唐突に灯が射す。 「浴衣、似合ってる。すげ、可愛い。」 「…ぅ…っ…?」 「意地悪ぃことしすぎたな、ゴメン。」 冷え切ったはずの顔が、唐突に綻ぶ。 困ったような謝り方じゃもう、心の内がわからなくなって。 「な、ん、なんで…っ!」 「来ねぇんじゃねーかって思ったら、ちょっと鬱入った。」 片膝を縁側に預けて、頭を抱え込まれて。 冷たい体が、少しだけ、温かい。 「…、オレが、寄り道したから…。」 「もうすんなよ、オレんが大事なら。」 「…しねー、飛んでく。」 「花火、行く?」 「…も、いい。」 「そ、オレもこっちがいい。」 ぱち、砂利の弾ける音。 合わせ目をゆっくりと、指が辿った。 寂しい花火―――弾ける音は何でこんなにも切なかったのか。 END これから二人は間違いなくランデブーでしょう(古っ どうも男前にし損ねた模様です、浴衣田島を泣かせたかった…ふ(ぇ 泉は自分のせいで田島に泣かれると真っ青になっちゃうといい、すげぇ取り乱せばいい。 内心パニクっても絶対顔には出さないのが泉。 |