3.うららかな昼下がり



かち、かち。
埋め込まれた時計、時刻は日本時間にして14時03分29秒。
液晶画面を通り越して見えるのは、滅多に開かないマスターの部屋の、窓。

珍しく、光が差し込んでいる。

見慣れない光、陽光だろうか?
仕事に出ていたりする時も、主人はカーテンを閉め切っている。
直射日光がPCに悪いとか、そんなことを漏らしていたような。
それが今日は開いている。

珍しいこともあるものだ。

キョウダイ達は昼寝中。
一人は酔いどれ、二人は普通の昼寝。
かくいうレンも、つい今し方までは寝入っていた。
ふと、目を開けて見れば見慣れないものを感じ、気づけば冴える脳。

そいえば一人いない。
またアイスでも食べに行ったか?

ぼやけた境界線に腕を突っ込めば、リアルが空気を掴む。
デスクトップを抜け出せば、そこは見慣れたマスターの部屋でありながら、やはりカーテンが開いていた。



「…俺達が壊れたらどうすんだよ、アホマスター。」



こういうところにしか能がないんだから、しっかりしてほしい。
呆れたた溜息をもらしてカーテンを掴む。
しゃ、という小さな音でレーンを流れ、陽光を遮った。
と、同時に、部屋の扉が開く。
あ、という顔をした兄ロイド。



「お昼寝してると思ったのに、もう起きてたのかい?」
「眩しかったから。」
「あぁゴメンね、それ開けたの俺なんだ。」
「…なんでだよ、PC壊れんじゃねーの?」
「ちょっとなら大丈夫だよ、満足したら閉めちゃうから」
「あ、そ。」
「ミクちゃん達はまだお昼寝?」
「MEIKO姉さんが酔いどれ、ミク姉とリンは昼寝。」



そう、という口にはスプーンが咥えられている。
手にはハーゲンダッツ、きっとそれは秘蔵の品。
閉めたカーテンをもう一度引いて、窓も開けてしまう。
外の瑞々しく爽やかな空気が、ほこりっぽく熱気さえ含む室内に入り込んできた。
すぅ、と吸えば、擬似的な肺が清浄な空気に安堵を得る。
立地条件がいいのか、うららかな陽光が差し込むマスターの部屋は心地よかった。



「レン達がお昼寝してるから、毎日一人でちゃんと換気してたんだよ。」
「へぇ…アイス食いながら?」
「うん、気持ちいいんだよね、やっぱり。」



蓋を開けながら、マスターの使うベッドの縁へ腰かける。
そこも日当たりは抜群によく、温かな日差しと緩い風に包まれていた。
穏やかな昼下がり。
歌うこと以外の何も知らない機械なのに、兄はいろんなことを知っている。
インストールされてから、結構な時が流れているのだろう。
つい最近目覚めたばかりの自分にはわからないこと、兄はなんなくこなしていく。
換気という概念は知っていたけれど、それが気持ちいいことだとは知らなかった。



「あんまりこもりっぱなしだと体にも悪いからね。」
「ふぅん…。」
「レンもこっちおいで、アイス一口あげるよ?」
「…兄貴の食いくさしなんていらねーって。自分で全部食えよ。」



減らず口は叩くけれど、割と素直に言うことを聞いて兄の隣へ。
マスターのベッドは、気持ちがいい。
身の回りのことをまったく気にしない質でありながら、寝床だけは金をかけたと聞いた。
スプリングの利いたマット、質のいい滑らかなシーツ。
そして日当たりのよさ。



「今度は布団も干さないと、レン達が来る前は、めーちゃんとやってたんだよ。」
「布団?」
「カビが生えるんだ、マスターはホント、そういうとこは気を使えないからね。」
「機械いじってるときはすごい楽しそうなのにな、普通の生活してるときってあんまり楽しそうじゃないよな…。」



14時48分37秒。
埋め込まれた時計が告げる。
15時をを指す前に、出かけたマスターも帰ってくるだろう。



「お昼寝もいいけど、こうしてるのもなんとなく楽しいでしょ?」

「…そうだな、明日からは起きててみる。」

「うん、でも夜ちゃんと寝ないとダメだからね。」



マスターに言って、昼寝用のプログラムを解除してもらおう。
慣れないうちは寝てなさいと言われたけれど、もう必要ないはずだから。
かち、かち。
光化学に映る、日差し。





うららかな昼下がり―――柔和な光が、科学と化した視界に映る。





END






注訳
マスターは女性です、メガネです(ぇ
ボカロ達はPC内が寝床ですが、基本的にお家の中をうろうろします。
リン・レンはまだ来ておおよそ1か月くらいしか経っていません。
マスターはズボラです。

カイレンは可愛いよなぁ、ショタロイドショタロイド。