19.絶対の力関係





もう、忘れ去られてしまっている。
どの時限のどの記憶にも存在しない、ただ、そうであっただけ、ただ二人しか知らない真実。
未来永劫もはや知られることはないし、知られてしまっても、今となっては恐れることはない。

過去は潰えた。

今この世界を覆う膜は、遠い昔の彼の名残りを思わせつつも、ただ傲慢に広がっていく。
1000年も前に打倒したことなど、もはやなんの事実でもない。
彼がよみがえった、ただそれだけが、私の真実。
二度とあってはならない復活、私や、私の仲間をも含めて。
一たびの眠りではなく、永遠に解けぬ眠りであれば、と今更ながらに嘆息した。
とはいえ現状はただただ悪化する一方で、今はもう、一たびの猶予も残されていない。

彼はまた、あの城にいるのだろう。

天を制する傲慢な男、懐かしい声に、今は無感動でいられる。

悩んだこともあったが、今ではそうということはない。



今ではもう、過去なのだ。
過ぎ去った日をいくら思い直しても、彼はもう、私の知っている彼ではない。

ある時地上軍にいたなど、もはや文献にも残らない真実。
不手際だった、彼の真意を測り知れなかった、この暴挙は、私のせいなのかもしれない。
彼を知り損ね、測れず、こんなところにいることで。
彼をもっと、わかっていたら。

上に立ちたいという彼の表情。
貴方と同じ場所に立ちたいと、そう言ったまだ、期待に満ちた顔。
その真意を測れずにいたのは、私の過失なんだろう。
隣にいたという記憶は、あまりにも不自然で。

まるでなかったことのようだ。

一抹の記憶、おぼろげない糸のような。

史実にも残らない、残らないようにしてみせた。
それでも彼はこうしてまた天に君臨し、私を見下ろしている。
空気を内包する、暗い世界。
この差はあんまりだ。

たたき落としてやりたくても、さすがに手が届かなくて。

だけど今は?



ラディスロウは、外殻に。
今や集積レンズ砲が完成するのをただ待つだけ。
そして完成すれば、この長い記憶の流れにも終わりを告げることが出来るのだ。

彼を思った記憶は消える、このコアレンズが吹き飛べば。

もう幾度、連絡を無視したか。

彼はその城でただ、のうのうと人間を嘲笑っているのだろう。
そんな彼を見るのは忍びない、自らの不手際を、もっともっと責めたくなる。
決して、過去のことを天秤にかけているのではなく。
過去の情念など、忘れてしまわなくてはいけないのだから。



またしても無碍な通信が入る。
雑音を含んだその音は、もはや私にとって―――愛した声ではない。





『リトラー!!聞こえているんだろう!?』

「………。」

『私はようやく!!ここに立っているのに!!』

「………。」

『何故お前は…!!認めんのだ!?』






「それはもう、過去の話だからだ、ミクトラン。」







雑音混じりの悲鳴。
彼はもう、私が幾年も前に愛した下士官ではない。
とうの昔に消えうせ残影。
もうどこにもいないのだ。
探しても探しても、どこにも。





ならば叩き折る、そこに絶対の力がある限り。
私が到底辿りつくことのできない道だろしても。



私は今、一人ではないのだ。
孤城で一人支配を目論む、彼とは違い、人類の命運を背負った仲間がいる。
たとえ今この身が朽ちる瞬間に一人でも、私には連れ添った仲間がいる。




これが力量なのだ。
ミクトラン、お前は何も手にしていないのだ。
絶対の力など、何になる。




貴方と同じ立場で。
そう笑っていた青年はもういない。

そこにいるのは、ただただ暗黒を宿し、人の神を演じる道化。

叩き折る、へし折る役目は私ではない。
私にはそれだけの力はない、引導を渡すだけの、強い心も持ち合わせていない。


歴史に葬られ、消えていく情念でいいのだから。





「標準は、ラディスロウに合わせてある。」

『…撃ち抜かれるつもりか!!リトラー!!』





「そうだ、ミクトラン。これが本当の力というものだ。」





仲間の絶叫が聞こえる。
閃光に包まれ、一瞬で砕け散るレンズ。

残滓の一つも残さずに、ラディスロウは消えていく。

未来へ。



例え天から降る雷が強かろうとも、負けることなどありえない。
たとえ地に這う人の子でも、天に勝てない道理はないのだ。




絶対の力関係―――踏みつぶすそうと言うなら、地から叩き折るまで。



END








ミクリトです、あっははっはは、すいませんミクリト好きなんです私;;
や、なんか、ミクトランが下士官時代とか、それでリトラーと恋人関係とかだったら萌るなーって思ってたらマジで萌えまして;;
そんなわけで、ちょっとよくわからん話になりましたが、集積レンズ砲発射直前くらいが目安です。
リトラーは過去を清算し、消えるつもり、でもミクトランはただ抵抗するばかり。
という、天と地、指揮官としての差を思い知らせたという話にしたかった。
念が先立って話が伝わってないような…;;