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1.優しい指先 「リオン、髪伸びたね。」 右目を覆い隠す髪を、梳くようにさらさらと撫でていく。 「好きでのばしているわけじゃない。事が終われば切りに行く。」 「やっぱちゃんと切ってるんだ、俺なんかぼさぼさだから。」 「…お前がそれでいいんなら、それでいいんじゃないか?」 「リオンはどっちがいいと思う?」 不意に額をかすめるように指が動く。 くすぐったい、緩やかな動き。 いつしか髪をいじる指は横髪をすくように移動する。 じれったい動きに身を捩れば、時折動きを止める。 「…長いとくすぐったい、掠めたとき。」 「んー…じゃあ切ろうかなぁ。」 「切らないでいい、切ったら誰か分からんだろう。」 似合う似合わないんじゃないんだ、と小さくこぼす。 意地張りな言葉だとわかっているくせに。 そうと零せば、間の抜けたような「わかった?」。 髪をたどる指は正直だ。 どこまでも温かい指。 剣を握るから、どうしても厚みの出てくる指先。 撫でていっても固いのに、触れる瞬間だけなぜこんなにも柔らかいのだろう。 「どっちが好き?リオンは。」 「…なぜ僕が選ばねばならん。」 「リオンが好きなのに合わせたいじゃん、ね?」 ばさばさに伸びた毛先、手入れなんてほとんど為されていない。 跳ねくれ返った髪を辿る。 嫌いじゃないさ。 「―――面倒なら、のばしておけばいいだろう?」 「そっか、じゃあそうする。ありがとな、リオン。」 指先が触れていれば、どんな隠し事も通用しない。 彼の指先はただ温かいだけではないから。 伝わっていればそれでいい。 この指は裏切らない。 ぬぅ、と伸ばされる指々は、今まで何度重圧を持ちかけてきただろう。 抑えつける手、求める手。 望む手、壊す手。 暗闇から伸ばされる指はどれも、僕を壊すためのものだったのに。 かとあれば気を緩ませるために、ほんの一瞬だけ甘えをくれる残虐な指だったか。 取り巻くものは皆、地位を、名誉を。 父ですらも、奪うがために伸ばす指。 指は剣の切っ先と、数寸の違いもない。 甘えを教え、慣れしむ頃、裏切りを与えて抑え込む。 そうして何度も、壊されてきたのに。 こんな指は知らない。 どれも冷たさに満ち満ちた指しか向けられていなかったのに。 こんな指ほど信じられない。 何度も振りほどいたのに、今まだここにある。 この指は裏切らない。 それが母の抱擁にまで似る、温に満ちた先。 子をあやす、そんな動作とはかけ離れている動作にありながら。 母が今も健在であれば、こんな触れ合いを母子のそれと実感することができたのだろうか。 または、父の愛に似たものと、感じることができたのだろうか。 どこまでも、“くれる”指先。 決して求めない、奪わない。 等価交換すらも求めず、ただただ温もりを分け与える。 僕らは血が繋がっているわけでもないのに。 その繋がりすら、擬似とわかっているのに。 それでも与える、彼は僕から何も奪わない。 欲せば欲しただけのものを、ただこの指先にのせて。 髪を撫でていた指は、まどろみを誘う緩やかな早さを一定に保つ。 「リオン、眠い?」 「…ん、…眠く、は…。」 「寝てていいよ、ちゃんと起こすから。」 すぐに目蓋の上を撫でていく。 薄ら開いた目を閉じさせれば、またそれは髪の上の定位置へと帰っていく。 目が覚めてもきっと、彼はそこにいる。 優しい指先―――君の指先が掠めていく瞬間が、あまにりも幸福で。 END テンポよく行きたいなーということで、あえてダラダラ書かない選択をしました。 お題なんで!(ぇ リオンは頭を撫でられる一挙動だけで、命の選択を強いられてると思ってると思います。 坊ちゃんの周りは物騒なので、何かにつけてつけ狙われる→駆け引きに使われたりする。 奪う指しか知らなった坊ちゃんにとって、スタンは与え愛しか知らないという。 スタンが髪切ったらカイルになるよなぁ。 |