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夢もあったんだ、大きな大きな。 辿りつけないほどの大きな夢も、きっと手に入ると思っていたから。 ただただ、追いつけると思っていた。 世界はただ、優しいものだと思っていたから。 僕が僕であること 毎日は何処までも平凡で、報われない何かで構成されているなんて。 気付いてしまって、知らなければよかったと何度も思っていたような気がする。 夢を忘れてしまったことに、後悔はない。 適応するということは、世界においての絶対条件。 満員電車で堂々と、夢を語る人間がどこにいる? その電車に身を預けた瞬間に、薄れていく向上心。 平穏な毎日とは何か、そんな簡単なことすら頭から抜けていく。 叶わない夢を追い続けることは、あまりにも外れているから。 そうして達観したオレは、今も忙しさに追われて、愛想笑いに追われている。 やらないといけないことばかりに追われて。 高校になってからは、ずっと考えていた野球部に入った。 もちろん、やりたかったからで後悔はない。 副主将になって、忙しさも増して、でも、嫌だなんて、思ってなかったと思う。 頼られて、嬉しくないことは、なかった。 課題に追われて、部活に追われて。 時間が過ぎていく中で、それはすごく幸せな時間だったと思っている。 最愛の人を見つけて、ともに過ごしていく時間。 無碍な時間の流れの中で、立ち止まっていていたいと思うことも、何度かあったけど。 卒業して、大学に行って。 別々の道、それでもオレ達は離れず、今も一緒にいられている。 そうして時間が過ぎていく中で、忙しくて、お互いに会おうって、言いだせなくなって。 ただ多忙という単語に塗りつぶされて、メールにも電話にも、応対できなくて。 何してるんだろう、そんなことを考えながら、時間は過ぎる。 取り戻せないまま、ただしんみり。 そんな苦い時間を、ようやく取り戻すように昨日、電話が着て。 久しぶりに会おうよ、って。 いつもと変わらない、明るい声。 もしかしたら、別れよう、なんて。 そんなこと、言われることを恐れて、連絡出来なかったオレに、すごくすごく明るい声で。 嬉しかった、でも、せっかく二人で会えるのに。 教材の入ったかカバン、もう直、中間考査だから、なんて。 会ってまで勉強するの?オレ。 なんで、こんなに切羽づまってるんだろう。 どうしてこんなに、あせらなくてはいけないんだろう。 「栄口ーっ。」 「あ、水谷…!久しぶりっ。」 ぶんぶんと手を振る、恋人の姿に駆け寄って。 他愛のない話で時間を潰して。 今何してるとか、大学ではどうだとか。 部活の帰りによく一緒に通った道、よく行ったコンビニ。 水谷の家までの距離、今も昔も変わらない。 休日なのにスーツ姿の、早足の、サラリーマン。 遠目に眺めて、振りかえれなくなるくらいの、変な圧迫感。 暑いくらいの陽光が、白い風景が、別の世界。 平穏ってなんだっけ、変な疑問。 浅はかで儚かったけど、壮大な夢を持っていた―――。 水谷の部屋は、相変わらずだった。 好きな音楽を聴くための大きなコンポ、動いていない家具。 流行りのCD、オレも好きな歌手の。 オレの記憶のままの姿に、なんとなくの感動が胸を占める。 窓辺にある小さな鉢植えもそのまま、小さな緑の葉が、今も茂っている。 「あれ、まだ置いてたんだ?」 「んー…?あぁ、クローバー?捨てるわけないじゃん。」 知ってる、そんなの。 分かり切った反応が嬉しくて、ついつい笑みがこぼれる。 しんみりとしていた心に、ふわ、と陽光が灯るように。 窓辺のクローバー、四つの葉を伸ばして、瑞々しく。 葉に触れる、柔らかな枝葉、輝かしい白い線。 卒業前に芽吹いた四つの葉は、オレの上げた鉢植え。 店先で見つけた、小さな茎。 四葉が咲くからと言った店主の言葉に、即答でくださいと言ったオレ。 受験を目前に控えて、何か水谷の力になれることを探していた。 四葉のクローバーといえば、十字架の見立て、幸福の象徴。 受けれ、なんて。 浅はかな意味合いを込めたわけではない、ただただ、上げたかっただけ。 クローバーに願わなくても、きっと大丈夫だと信じていたから。 志望校はちゃんと受かって、オレも、それはそれで嬉しかった。 窓から差し込む陽光を受けて、ただふわりと開く柔らかな枝葉。 とす、と、背中に軽い衝撃。 腰元にいつのまにか回っていた、長い腕。 大きさも変わってないんだな、それでもまだ、オレは水谷の腕に収まるんだな。 なんていう、忘れかけていて、平穏が。 胸に痛いくらいの、温かさが。 沁み入る、オレ、会いたかったんだな。 募っていた寂しさ、ただの疑念を一瞬で吹き飛ばす、力強い腕。 木漏れ日のような優しさに、身をゆだねる。 幸せだ、あまりにも。 忙しさに自分さえも忘れていたオレを、小さい頃の僕は笑うだろうか。 どうしてそんなに息苦しいの? そう言って、不思議そうに笑うだろうか。 毎日毎日、ただただ増えるだけの“やらなければいけないこと”。 減りもしない欲求、会いたいと、“やりたいと思うこと”。 気付けば使命感を優先させて、自分の欲求なんて忘れたように。 巡る時間を気にすることも出来ず、ただただ動いて。 体に回された手に、手を重ねる。 水谷の体温。 夏先のじめじめとした温度なんて、気にもならない。 ここにある、大事な温もり。 「―――勇人は、毎日大変だね。」 「…そんなこと…。」 「ううん、教えてくれたんだよ、忙しさに潰れそうなんだって。」 「…え…?」 「勇人が目を回しそうだ、って。」 す、と差し出される指、光を受けて輝くクローバー。 ―――あぁ、オレが上げたつもりだったのに。 ずっとオレといてくれた、気付かなかった。 クローバー、オレのこと、見ていてくれたのか。 忙しさの片隅に、小さく小さく、いてくれた。 「だから、今だけはゆっくりしよう?」 知らず知らずに忘れていた、本当のオレ。 したいと思うだけで、そう、思うだけで出来なかった小心者。 目指していた場所は、気が遠くなるおど遠くて、忘れてしまいそうなほど暗かったんだろうか? 緩む腕、引く体。 振りむけば、笑顔でそこにいる、最愛の君。 気を抜けばこぼれそうになる涙を、どうか笑顔に。 お疲れ様。 耳元で小さく囁かれる声、心地よく浸透していく。 木の葉が揺れるように、爽やかな時間が。 温かい手のひら、髪を撫でていく。 あの時描いた夢はなんだったんだっけ。 忘れてしまったことに後悔はない。 社会に適応していくことは、生きていく中で一番重要なことだから。 誰も夢なんて覚えていないから、忘れてしまえば、大人になれるから。 だけどオレはオレを忘れていて、それじゃダメなんだって。 教えてくれた、クローバー。 あの時描いた夢、形は違うけれど。 小さくて壮大な、あの時描いた場所とは違うけど。 大切なことは、そんなことじゃないから。 「勇人、お疲れ様。」 「…うんっ…。」 「真面目なのはいいことだけどね、ちゃんと休憩もいるんだよ?」 「気をつける…ね、また来ても大丈夫?文貴は、忙しくない?」 「全然、勇人のためならいくらでも時間割けるから!」 「…バカ、お前、勉強ちゃんとしてんのかよ。」 「う、だ、大丈夫だよっ。」 教えてくれた、クローバー。 大切なことは、前を向いて行くための自分らしさ。 忘れてしまいそうな自我を取り戻す。 額に落ちる唇が、背を撫でていく優しい手が。 ただ優しく見ていてくれる、君がいるから。 これでいいかな、クローバー。 END 大学一年生の夏、くらいのイメージで…栄口は大学に上がっても毎日相当忙しそうだなー。 水谷はそんな栄口の様子なんか聞かないでも分かるんだろうなーとか。 四葉のクローバーかー、ほのぼのかー…なんてものをイメージして、書いてみました。 四葉のというか、よつばの? 分かる人は…分かるかもしれないこの「よつばのクローバー」。 ぐぐったら一発で出てきてうひゃー有名だったのかとか、びびってたりびびってなかったり(ぁ …といういつものようにしまりのない感じなのですが、朝凪様!キリ番リクエストありがとうございます^^ 「四つ葉のクローバー」を絡めてシチュエーションは自由、ほのぼのな感じで…うおおお、ほのぼの?これはほのぼのですか!?(何 なんだか人とはずれた認識を持っている憂氷です、リクエストに添えているか…!? 気に入らない!という場合はもちろん返品もOKですホント! 足を運んでいただけるだけでも、大変喜ばしいのです! 朝凪様、リクエストありがとうございました^^ そういえば…背景が全然クローバーじゃないのですが、率直な背景よりは…と悩んだ結果ですが、結局変えるかもしれないです^^; |
