その白さは果たして無垢の証明なのか。
その笑顔に意味はないのか。
誰もそんなことは知らない、誰の目にもつかない。
だからこそ映える、無邪気すぎる純白。

















Pure White

















俺は知ってる。
水谷は嘘付きだ。
嘘なんて言うと誇大かもしれないけれど、水谷は本心は言わない。
いつも無邪気な顔をして、なんにも考えてないような顔をして。
こうして、指先を絡めているとわかる、見つめ合っているとよく分かる。

好きだよ、なんていう言葉の軽薄さ。
自分の卑屈さ加減を差し引いてみても、隠しもしない本心がよく見える。
水谷にとっての好き、なんて区分は、新しいオモチャ。
気に入ったものは好き、それで遊ぶのがとてもとても楽しいから。
気に入らないものは嫌い、けれどそれを嫌い嫌いと罵って見るのも、また楽しい。
水谷はそういう奴、そう知ってる。





「けど好きでしょ?栄口だって。」

「…。うん、まぁ。」





そういう自分だって、そういう水谷に依存してるわけだけど。
そうと分かっていてからかうようににこ、と笑う。
彼は別に悪意があってそういう楽しみ方をしてるわけではない。
子供が蟻を踏みつぶす、その快感。
小さな命を奪う瞬間の何とも言えない無情さが楽しいという。

水谷は子供だ。
無知で無恥で、無邪気でまるで白痴のような。
白痴とまで言えば俺まで酷い人間に思われかねないけれど、単純に言って、水谷は日々を楽しんでいるだけだ。
―――それが歳に見合わぬほど無邪気であるから、まるで水谷が異常者のように見えるだけで。

例えばその人間性に触れてしまった人間は、敬遠したがる。
俺はもう、そういうところも好きだから気にもならないけれど。
知ってる人間はこういう、子供が包丁を持ったみたいだって。

無邪気さの衣に知識がつくのはそんなによくないことだろうか。





「したいことしてるだけなんだけどねぇ、オレ。」

「…痛い。」

「あぁゴメン、噛み過ぎた?」

「跡残るほど噛まないでよ…。」

「イヤ?でも楽しいんだよねぇ、栄口の肌、柔らかいから。」

「ほどほどにしてね…歯型ついてたら、みんなに気にされるから。」





首筋がそろそろヒリヒリと痛むが、水谷はそれをやめようとはしない。
初めこそ謙虚に進言していたが、今更、こうも触れ合う関係となっては前置きも何もない。
特に人が気にするから、なんていう言葉は結局のところ、水谷を喜ばせるだけの言葉にすぎないのだ。
このオモチャはオレのもの、そう主張するのにこれほど見易いマークはない。
歯型のくっきり残った首筋を水谷の指が撫でていく。
うまくつけられたことがよほどご満悦なのだろう、何度も何度も、眩しい笑顔で撫でまわしている。
肌の上を指先がなぞるたび、その度々に痛みが走るけれど、知っててやめない。
抗議したことはあったけれど、俺の反応を見て水谷は、そっか、痛いのか、と呟いただけだった。

この子は踏みつぶされる痛みを知らないのかもしれない。
だから人の傷に、笑顔で触れるのかもしれない。
あるいは、知っているからこそ笑顔で触れるのかもしれない。
傷口の上をなぞられる感触なんて、決して気持ちのいいものではないが。
それでも水谷は俺のあちこちに必ず何かしらの傷を残して、その上を辿る。
満足しているような、物足りないような、曖昧な表情で笑いながら。





「痛い?」

「少し…ねぇ、もしかして機嫌悪い?」

「なんで?」

「なんとなく、楽しくなさそう。」





散々弄んだ傷口を見て、笑みが張りついたように動かない。
そんなときは機嫌が悪いような気がする、子供の考えていることはいつも勝手で、よく分からない。
けど、水谷は頷いた。
本気で機嫌が悪かったらしい、いつも、聞いてみないと返答はくれないのだけど。





「何かあったの?」

「んー…別に、あったってほどじゃないんだけど。」

「なに?それとも話したくない?」





話したくないなら、水谷のことだ、首を振る。
欲求に忠実なこの生き物は、自分に害になることは絶対にしない。
例え一言で済む拒絶でも、面倒だと思えば言わない程。
たぶん、オレに関しては言わずとも察して、なんていう無茶を要求してるんだろう。
その他に関しては興味もないが、言うことで面倒になることまで考えてしまう。
なんて自己中心的な。
そう、勝手だ。
それをわざわざ口にするということは、あぁそうか、察することが出来なかったことへの不満だろうか。
本当に本当に、いつも分からない。
子供の駄々が、けど愛しくて離れられないでいる自分が。





「毎日とってもつまんないな、と思って。」

「それは…まぁ、みんなそうだと思うよ。」

「そうだとしても、やっぱつまんないものはつまんないじゃん。」

「…それでオレにどうしろと?」





乗った。

と、ばかりに、面倒くさそうに伏せられていた眼がぱっと輝いた。 
画期的な遊びを思い付いた子供のような、無邪気さ。
けどその奥に一瞬見えた何かに、確実にオレの心は怯んだ。

何を考えているのか、分かってしまったかも。





「あのね、最近全然刺激が足りないと思うんだ。」

「う、ん。」

「そりゃオレらの知らないところでは、だよ?おもっ苦しい事件とか起きてるけど。」





まぁ、知ったことじゃないけど。
と付け足す。

けれど変わらない笑顔の表情が、いつもの何かと違う気が、して。





「オレらのまわりじゃ起きないじゃん、何でだろう?ねぇ?」

「それ…は…逆に平和で、いいんじゃ…。」

「でもオレはつまんない。」



「―――…そんなこと、起こせって?」

「ん?なんか出来るの?」

「いや、出来ればしたくは…。」

















なんだ、出来ないんじゃん。
言葉の一つ一つが重い。
刷り込みされたかのように、出来ない、の言葉が苦しくて。







「ねぇ、出来ない?ホントに…。」

「っ…。」

「おっきい何か、別になんだっていいんだよ。」

「…け、ど…。」





















「なにも誰か、いなくなればいいな、って思ってるとかじゃないんだし。」

















出来るよね、栄口なら。
オレのしてほしいこと、何でも分かる栄口なら。
今まで栄口といて、つまんなかったこと、ないもんね?



くるくる回る口からどんどん溢れだす、オレを締め付ける言葉。
悔しいくらい重たい言葉が、どんどん傷口を開いていく。
さっき噛みついてつけられた傷なんかよりも、もっともっと痛い言葉。

―――オレは、イラナイって言われるのが一番怖い。


















「出来ない?」

「…っ…そ…ん…。」

















「―――そんなことも出来ない栄口なんか、嫌いだなぁ。」


































「出来るよ…っ!!!」
















子供の駄々に、一喜一憂する自分の愚かさは知っている。
分かってる、けど、イラナイっていう言葉が一番、一番オレを追い詰める。
水谷はその言葉を、好んで使う。
自分の思い通りに事が進まないことは、この上なく面倒だから。





「…ホントに出来るの?栄口に?」

「出来る…!!やるから…!なんでもするから…!!」





紡ぐ言葉で、自分の思考が飽和する。
捨てられたくなくて肩に抱きつこうとして、手を取られて阻まれる。
今この全てが消えてしまうとなれば、オレは自分が保てない。
水谷よりも何よりも、自分自身が、酷く不安定な。
分かっていて、知っていて、水谷はオレにイラナイという。
そんな言い方しなくっても、ちゃんと言ってくれたら考えられるのに。
オレから思考を奪って、自分に対してYESの返事意外、求めていない。





「ならいつも見たいに約束してね。」

「す、る…っ…するから…!」

「ホントに?」

「絶対、絶対する…何でもするよ…!だから…お願い…!」












イラナイっていらないで。
言葉に出来ないほどの苦しさ。
しばらくぼんやりとした、けれど楽しげな表情でオレをじっと見つめていた水谷の手が、ようやくオレの手首を離す。
白くて白くて、オレの大好きな笑顔を浮かべてくれた水谷は、優しい手つきでオレの髪をなでた。
あぁ、これで大丈夫、オレはまだ水谷に捨てられたりしない。

これで大丈夫。
いつものように、水谷の細い指先に口付けて。
この暴虐な振る舞いの全て、否定してしまえば水谷だって現実を見てくれるかもしれないのに。
けどきっと、そんな水谷の姿を求めてもいない自分がいて。
白くて、無邪気で、オレだけの子供。
その我儘も全部、オレが、オレだけが叶えてあげるから。







「イラナイ、って、…言わないで…!」

















「…ん、それじゃあさ、オレの言いたいこと分かるよね?」

「…だれ…?」

「考えたら分かるでしょ?まぁでも面倒臭いし、教えてあげるけど。」

「ごめ…っ。」

「いいよ、でも絶対ヤってね?」

「必ずやる…!」





「じゃあ教えるね―――。」

















ただ少し、声が大きいから。
目に映る姿が、邪魔だったから。
自分に厳しかったから、酷く面倒だったから。
そんな理由で零れだす小さな指示が、あまりにも自分勝手な言葉が。
―――けれど、オレは頷く。
子供の遊びに付き合うことで、オレの心は保たれる。
誰であろうと何であろうと、自分の平穏より大事なものなんてない。
そのために犠牲になるものが例えばあったとしても、それは関係ないことだ。
水谷も同じ。
自分が楽しければ後は何でもいい。
オレは自分が辛くなくて、水谷も楽しければ、それでいい。

例えクラスメイトであれ、同級生であれ、同じ部活の仲間であれ。
水谷の言葉より大事なものなんてないし、プラス自分の心は救われる。

噛まれた傷口を撫でて、オレはYESを繰り返す。
愛しい子供が大好きな笑顔で、けれどとても残酷な笑顔を見せてくれる。
これ以上ないほど、幸せ、と言わんばかりの。

オレの手が赤くなっても、水谷の心は変わらない。
ずっとずっと白のまま、いつまでも白痴のように笑い続けてくれる。

喜んでくれるなら、なんだっていい。
いってらっしゃい、笑う水谷にもう一度キスして立ち上がる。
この白に包まれていられるのなら、これ以上の幸せはないのだから。

なるべくなら目立ちたくないなぁ、なんて頭の隅でぼんやりと思いつつも、手足はもう止まらない。
これは依存なのか、中毒なのか、それともれっきとした純情なのか。
愛なのか、そんなこともう分からないけど。

ただ水谷の声だけが、頭の中をぐるぐると回る。
それはそれは、幸せな毎日。

たった一つの小さすぎる幸福のために、一人の幸せのために。
積み重なる疑問も犠牲も、すべて全て、どうでもよかった―――。

















Pure White―――真白の暴君、されどそれは子供の遊び。








END










子供が興味心から虫を潰すあの一挙動、あれはサディズムの一種らしいです。
無邪気さは、白はドSに成り得るって、なんか水谷のことを書くときにいっつも言ってる気がします(笑
私の中で水谷はS、しかもかなりの部類に入るってずっと思ってるんですが…
それは水谷の無邪気さが全て物語ってくれてると思って信じて止まない(ぇ
イヤなことはイヤ、やりたくないことは出来たらやりたくない、実に子供!

というわけで…さくら様!キリ番9595のリクエスト、ありがとうございました!^^
9595は形にしたいなぁと思ってたので、リクが来てくれてホント感激でした…!
リク内容はヘタレてないS水谷で水栄、詳しいシチュなんかはお任せ…とのことでしたので、好きかってやらかしました。
うう、なんか途中でドSの定義が分からなくなってる感が…orz
ヘタレてないドS…エロか…!?という風にもなったんですが…安易SMに持って行くのも面白みがないかな(すぐそうなる)って思ったらこうなってました…orz
素敵リクのイメージぶっ壊してたらごめんなさい><
しかし書いてる本人は久々のS水谷に歓喜していたという…黒世界や黒田島はしょっちゅう暴れてますが、水谷は珍しいもんで^^
水谷は別にしてくれなかったらしてくれないで構わないんですが、そういう態度を取ると栄口は絶対やってくれるっていう我儘。
栄口は完全に水谷依存症で水谷の冗談を鵜呑みしてる状態、みたいなのが書きたかった。
書けてる、かは、別としても^^;
ではでは、大変お待たせしてしまいましたが、さくら様、本当にありがとうございました。
これからもヘタレ更新が続くかと思われますが、またキリ番とか踏んじゃいましたらいつでもリクお待ちしてますw