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※注意 名前のあるキャラは大丈夫ですが、相当ヤバい内容となっております。 死ネタに態勢のある方のみお進みくださいませ。 よろしいですか? それではどうぞ。 幸せだと、言いきってもいいくらい。 どうしようもなく募る、そんな言葉。 君といる時間はどこまでも平静で。 ただしとやかに、過ぎていく。 そんなはず、淡い期待。 知っているはずなんだ、幸せの守り方なんて。 芙蓉は堕ちる 連れ添うだけで幸せ、物語のような響きの、甘い甘い言葉。 長い恋慕を積み合わせて、ようやく手を取り合うまでになった、情念溢れ返るように。 すくった掌から零れ堕ちる、無形で流体の思いとは違う。 しっかりと握りあった指先は片時も離れない、まるで溶けていきそうな幸福。 いっそ溶けてしまってもいいくらい。 この指の熱で、この体の温もりで溶けてしまえるのなら。 触れる度に、触れられる度に、心ごと溶けていってしまえばいい。 彼の温度で溶けるなら、それもいい。 噎せ返るほど暑い夏の日の昼休み、屋上の一角を二人で占拠するのは、もう定例。 屋上に来て、人目では分かり辛い位置で、ただ手を取り合う幸せ。 肩を寄せ合って、ふわりとした髪が頬をくすぐるのも気にせずに。 人目を忍ぶ恋だからには、学校でこんなに寄り添い合うのは、どうかとも思うけど。 幸せだからいい、今は誰も邪魔しない。 いつから思い、思われていたか、回答はもうずっと。 ―――水谷から好きって言われて、ほぼ即答でオレも、って返す。 そんな夢みたいなこと、ほんのつい最近、叶ってしまった不思議な夢。 嬉しくて嬉しくて仕方がない。 人の目にすれば“ありえない”と断言されかねない恋、今叶っている。 それが幸せでないなんて誰に言える?少なくともオレには言えない。 誰だってそうだろう、幸せを堪能したくない人間なんて、いるようには、ねぇ? 「はー…幸せ、ここで寝ちゃいたい…。」 「ダメだよ、もう結構サボったでしょ、さすがにまずいよ。」 「わかってるよー、へへ、栄口ー…。」 「あーもう、水谷、くすぐったいっ。」 仮に誰かに見られたとして、100人いたら100人が口を揃えてバカップルと評することは間違いない。 バカップルで結構、幸せならそれでいい。 ゆるゆると頬のあたりを撫でる柔らかい髪、野球してるのに髪伸ばして。 心地よさに目を細めて、その時間を堪能する。 昼は時間が短い、一分一秒でも長くいたくて、擦り寄って。 ―――チャイムが鳴る、すぐ近くにスピーカーがあるから、耳障りで仕方がない。 あぁ残念だ、もうこの時間が終わってしまう。 もったいない、せっかく一緒にいられるのに。 「あーぁ、鳴っちゃった…。」 「仕方無いよ、時間だから。行こう?」 「んー…、栄口―――。」 ふ、と合わさる視線。 引き込まれてしまいそうな、純粋な眼差し。 熱い、溶けてしまう。 目を閉じれば、唇に落ちてくる柔らかな唇。 啄ばむ様な柔らかい触れ合いに、どんどん動悸が早くなる。 ほんの一瞬の行為が、まるで何時間にも感じられてしまうほど、心拍数が上がって。 唇が離れて見つめ合う、無邪気な微笑みが眩しくて、―――あぁ好きだ。 穴が開くほど見つめ合い、そして、ようやく立ち上がる。 このままじゃ本当にサボりコース、オレはまだしも水谷はちゃんと勉強しないと。 自然と手を取り合って、屋上を出るまで。 屋上の扉をくぐったあとは、現実感にあり溢れる喧騒。 オレのほうから手を放して、階下で別れる。 なんで男なんだろう、オレも、水谷も。 前を行くカップルらしい二人の仲睦まじい姿が、羨ましくて。 歯止めが利かないくらい、好きで好きで、本当はいつでも一緒にいたい。 それが出来ない世論に立ち向かおうなんて考えはしないけれど、鬱陶しい。 今の幸せを、ずっとずっと繋いでいけたら―――。 夢想だ、いつかは誰かに邪魔される。 せめて今だけは続けばいい、卒業するまで、欲を言えばずっと。 ―――続かなかったらどうなるだろう? あぁ、今そんなこと考えても仕方ない。 前を行く恋人たちの背も、今は賞賛、なぜって今は幸せだから。 廊下はまだ風が抜けて涼しいのに、教室に入ると人口密度のせいか一気に蒸し暑さが倍増する。 屋上で水谷といたときは、その暑さもどこか爽やかなものに感じられていたというのに。 席につこうとして、巣山が手招きをしていることに気付いた。 そんなに離れていない席、背の高い巣山は人の群れの中でも目立つ。 ―――どうしてだろう、少し深刻げな表情。 心を掠めていく不穏なものをかみ殺して、手招きに応じ足を延ばした。 「栄口、どこ行ってたんだ?」 「えーっと、屋上、何かあった?」 「いや…担任が探してた。」 「…担任が?なんで?」 「詳しいことは聞いてない、んだけど…。」 「歯切れが悪いね…どうしたの?」 「7組の水谷も一緒にいるか、って、聞かれたんだよ…。」 「…!」 「濁しといたけど、なんだか嫌な予感がしてさ。」 「そっか…ありがとう、何かあるならまた来るよね、担任だし。」 感触の悪いものが胸のうちを抜けていった。 まだどう、という結論が出たわけでもないのに―――。 巣山に再度感謝を告げて、席に戻る。 ざらざらした、言いようのない嫌な予感。 もしかしたら7組のほうでも同じことになってるのかもしれない、水谷のことが心配で仕方なかった。 ―――続かなかったら? ついさっき自分で問いかけた言葉が、今はとてつもなく重たいものに感じられた。 * 濁ったしこりに惑わされても、時間の流れは大勢に傾き一度もそこに留まりはしない。 考え込むだけの時間はあったはずなのに、ほとんどそれに使うことも出来ず、鐘は鳴る。 いつもなら待ち遠しい放課後も、今日この一瞬に限っては来て欲しくない、そうとさえ思って。 6時間目の教科担当が教室を出ていく、もう数分足らずで担任が教室にやってくる。 心の動揺とは裏腹に、ただ一部分はまだ落ち着いている。 焦りに気を取られて、何ともないただの話だった時に、かわせるだけの余裕を。 ―――的を得た話だったとして、どうするか、考えられるだけの冷静を。 保てるか、正直自信はない。 神経質だとはよく言われるし、逆境にもそう強くない自覚がある。 ただその一部分というのは、今も昔も、出来れば触れたくない自分の一面で。 別の部分を落ち着かせるだけの技量がない、そんな自分が情けなかった。 とはいえ、時間は結局待ってはくれないわけで。 俯いたオレを心配させてしまったのか、巣山が駆け寄り、肩を叩こうとしたらしい、その瞬間。 「HR始めるぞ、席つけよー。」 無遠慮な言葉、何かを探すように動く目。 担任の視線と、オレの視線がかち合った、その一瞬で。 ―――背筋が凍りそうな笑みを、担任は浮かべた。 ぞ、としたものが背を走り、つい息をつめてしまう。 すぐ傍まで来ていた巣山もそれを見てしまったのか、差し出しかけた手を止め、呆然としていた。 今のは、人が笑んだもの? 冷徹過ぎる面、あれが人の面には見えない。 「栄口…。」 「あ、あぁ、巣山…オレは大丈夫だから、さ。席、戻んなよ…。」 今のオレに出来る精一杯の笑顔。 巣山は数度視線を彷徨わせたが、HRと急かす担任の声を無視するわけにはいかない。 一度肩を叩いて、すぐに席の方へと戻っていく。 まずは他愛のない話。 今日の一日がどうとか、明日は学区内清掃をするから動きやすい服で、とか。 どうでもいいような連絡事項、ただただ上り詰める不安。 入ってはいけない、踏みこんだら戻れない領域が大きさを増して迫ってくるような。 じんわりと広がる危機感に、それでも担任の口調は留まる事はなかった。 「HR終わるぞ、あぁそうだ、栄口!」 「!―――は、はい…っ。」 「少し残ってろ、話がある。」 担任の太い声が、ずしん、精神の上に乗りかかってくる。 はい、と返答するだけの気力はもう、残っていなかった。 きりーつ、れーい、ありがとうございましたー。 日直の号令をどこか遠くで認識しながら、オレは葛藤に葛藤した。 雪崩のように出ていくクラスメイト達を呆然と見やる、肩が震えだしそうな衝動が身の内を閉めるから。 目先の感情にとらわれてはいけない、呪文のように繰り返し、せめて少しでも心が落ち着くように。 「栄口、おい、大丈夫か?」 「あぁ…巣山…大丈夫、今日の部活遅れるって、監督に伝えといて…?」 「それはいいけど、本当に…。」 「栄口!!」 「「!」」 怒を孕んだ罵声のような呼び声、いったい何が気に食わないというんだ。 巣山の心配げな視線に、オレは目を閉じて。 自己防衛のための、スイッチを入れた。 すーっ、と堕ちていく意識。 どん底まで突き当たって、オレはようやく目を開く。 その世界は今までよりもずっとクリアで、禍々しい。 「栄口…?」 「大丈夫だよ、巣山。部活遅れるよ。」 「…!」 「オレのことなら大丈夫、みんなのことお願いね。」 「…わ、かった。」 巣山の背を送り出して、担任―――男のほうに向きなおる。 無表情を意識する自分も、鉄面皮になり果てた男の顔も。 昼間なれば談笑の響くこの教室という空間の中では、ただただ異質なだけだった。 ―――ついてきなさい。 職員室はまだ、大勢の教師がひしめきあっている。 明日の学区内清掃のためか、器具や工具が散乱した室内は賑やかで忙しない。 誰もオレ達のほうを見ていない、どの人も忙しげに視線を彷徨わせ、目の前のことに没頭している。 その職員室を抜けた先にあるのは校長室と、応接室、それから確か宿直室。 そのどれだろうか? 校長室、はないか。さすがにいきなり。 宿直室は話をするには些か不向きでは? 応接室か、一番妥当な気がする。 昂りの限界を超えた頭は平静で、前を行く男の傲慢なまでの後ろ姿も滑稽に映った。 何を恐れていたのか、抑圧に弱いのは悪いところ。 傲慢さをも飼いならさなければ。しとやかではいられない。 職員室を満たす雑音の嵐、鬱陶しさに目を細めて、男の足は止まらず進む。 校長室が続く扉を抜け、そこは素通り。 隣接する応接室すら通過して、男の指は、宿直室のノブを掴む。 ―――疑念、そこで何を話すというんだ? 入れ、と促されるままに踏み入れる。 職員室と同じく工具が乱雑した宿直室、向こうにはない、もっと鋭利なものが散々していた。 半分は畳張り、半分には簡易な冷蔵庫と流し台、机と二脚の椅子。 生活が出来るだけの空間。 後ろ手に閉まる扉、雑音を切り離す孤立した小さな部屋。 机の上に散らばる、紙片、それが何かわからない。 顎で椅子をさす、威厳の欠片もない姿。 高圧的な姿、見下ろしてくる瞳に一瞥をくれてやる。 途端に肩を揺らす情けない、これが大の男の見せる姿か。 胸の内に溢れる優越、怯える素振りは一片すらも消えうせた。 「っ早く座りなさい!!」 「―――失礼します。」 手前の椅子を引いていると、男はイライラを抑えきれない顔で対面へと座った。 気になるのは散乱する紙片、気になりはするのに、手にかけるのが恐ろしい。 対面に座った男の顔を睨むようにすれば、さらに苛立たしげに細まる。 「何で呼ばれたのか、心当たりはあるか?」 「いいえ、まったく。」 「―――栄口、嘘は好かんなぁ。」 「オレには何のことか、まったく理解出来ません。簡潔に話してもらえませんか。」 「その写真、めくってみなさい。」 「………。」 たん、と木の机を叩く軽快な音。 空間に不釣り合いな滑稽過ぎる音にオレは分かりやすいほど顔をしかめて、その一枚に手を伸ばした。 指先に掛かる白い紙片、写真だということ以外のヒントはない。 触れただけでも、背筋が冷える感じがして。 端に指をかけ、ゆっくりとめくる。 ―――安っぽい光沢紙に写されていたのは、オレと、水谷の…。 寄り添い合う、姿。 現状理解が追い付かず、ただ求めるままに、次の写真、次の写真へと指が向かう。 一枚一枚めくるたび、そこにいるのは確かにオレと水谷で。 そのたびに距離は縮まり、写真に映るオレと水谷の目は、情念に濡れていた。 最後の一枚。 写真が捉えているのは、唇が触れ合う瞬間。 さぁ、と血の気が引いていく。 肩が震える挙動を押さえて、視線が動いた。 それは羞恥から?悲しみから?絶望から? ―――――怒りから。 何故暴かれなくてはならない? これは誰が撮ったもので、誰の手を経て、誰に漏れ、この男の手にまで渡ってきた? 暴れ返そうとする腕を抑えて、それは精一杯現状に怯える演技の道化師。 不穏の灯った瞳で睨み上げれば、勝ち誇った表情で男は笑みを浮かべる。 これもまた、罪を犯し得る人のただただ厭らしいだけの。 「これは、誰が?」 「…有志の生徒からだ、悪いが名前は言えんよ。」 「これをオレに見せて、何がしたいんですか?」 「その前に、さっきの質問に答えなさい。」 「…。」 「呼ばれた理由に心当たりは?」 男は傲慢に笑う、嗜虐的な態度に、―――オレも笑う。 オレの異常に気付かないのか? 一度忌々しげにオレを睨んで、早く話せとばかりにまた凄む。 恐ろしくもない動作に嘆息して、オレは正直に話した。 何、もう隠すようなことではない。 「どうもこうも、この写真を見たっていうならお察しの通りなんじゃないですか?」 「はぐらかすような口ぶりはやめなさい、栄口。お前はそんな子供じゃないだろう?」 「オレは十分子供です、聞きわけの悪さは自覚があるくら…。」 「お前たちの関係を聞いているんだ!!」 「―――………フケンゼンなお付き合いをしていますが、それでいいですか?」 声を荒げる男に冷めた視線を投げて、劣情に満ちる顔を内心で笑う。 オレの回答に満足したのか、男は落ち着いた、脅すような口調に戻った。 「この写真が、高野連に渡ったらどうするんだ?」 「…どうも、何も考えてません。」 「部内の全員に迷惑をかけることになるんじゃないか?」 「そうですね、それで何を言いたいんですか?」 「お前のうちは、父子家庭だったな。」 「はぁ、それが…っ。」 何、と問おうとして口を噤んだ。 言いたいことは理解した、つまり父が悲しむだろうと言いたいのか。 あまりにも単純な言い回し、まるでドラマだ。 直絶える口、遊ばせてみるのも悪くない。 「―――父は悲しむでしょうね。」 「だろう、それでもいいのか?」 「はぁ、それは少し困りますね。」 「―――ネガも預かっている、今なら俺の心の中だけに納めておいてやれるんだが。」 胸ポケットから抜けれる、小さな黒い筒、小さな音を立てて机に置かれる。 やっぱりそうだ。 なんて単純、単細胞。 情欲に塗れた目を見ていれば、先に何を望んでいるかなんて一目瞭然。 結局人、それも男。 考えることはみんな一緒で、汚らしくて仕方ない。 しおらしさを一欠片もしらない言動に、胸の内がイライラと焦れる。 暗くぼんやりと光る男の目、情事を求める、獣よりも劣悪な感情。 程度のいい知能に惑い、追い詰めて狩ることがそんなにも楽しいか? ―――馬鹿馬鹿しい、戯曲には付き合っていられない。 先を知る目で見つめれば、満足げな下卑た笑み。 応じる動作で立ち上がると、男のほうに歩み寄る。 「そうか、親に対しては罪悪感があ―――っ!!」 「ありませんよ?そんなもの。」 椅子を倒し壁に頭ごと殴りつけ、太い首筋に爪を立てる。 苦しげに呻く、獣のような声、じたばたとうるさい手足。 体躯の大きさでは負けていたとして、デスクワークが本業のこの男とでは力負けすることはない。 脂肪に塗れた首元も、もう一息力を込めればたやすく折れてしまうに違いない。 徐々に皮膚に食い込む指、苦しみにもがく指が手首の辺りを引っ掻いていくが、なんの抵抗にもならなかった。 傷一つつきもしない、なんて弱々しい抵抗だ。 だけど一つの記憶も残しはしない、知る者がいようなら、一人残らず消してやろう。 さぁまずは足がかりだ、ヒントがなければクイズにならない。 「先生?一ついいですか?」 「が、ぁっ、なっ!?」 「この写真の送り主は、男ですか?」 がくがくと左右に揺れようとしているらしい首、満足行く返答に、オレは誉めるつもりで笑んだ。 たぶんそれは、極上に狂った甘い笑顔だっただろう。 「あぁそれと、オレは罪悪感なんてないですよ?」 「―――――――っ!!」 「今すごく、シアワセなんで。」 ―――ごきん。 手首のあたりを蠢いていた男の指が、徐々に力をなくし床に向かって落ちていく。 呼吸を失ったらしい、光を失っていく眼。 見開かれた眼は充血していて、絶命の恐怖を物語っている、か? 本当に馬鹿な人だ、抵抗ならば足なりと使いようがあっただろうに。 力を失った体は重力のままに重みを増すので、床に放り投げた。 どすん、と力なく倒れ伏せる。 机に散乱したままの写真を丁寧に集めて、一枚一枚見直してみた。 よく撮れている、どっちもユニフォームを着ているから、部活中に抜けだした時のものだろう。 これが脅しに使われたものでもなければ、生花を扱うように大事にしたくなるのに。 いや、謂れが何であれ愛してやろう、写真の向こうで笑む二人。 水谷の笑顔、白い陽光にさらされる、無邪気で愛しい笑顔。 写真にそっと口付ける。 大丈夫、一人も逃したりしないよ。 水谷を危ない目に合わせたりなんてしないから、もう少し待っててね。 一枚たりとも忘れがないように手にとって、一枚一枚口付けていく。 倒れたネガも拾って、胸ポケットにしまう。 愛しい分身、逸話はもう忘れてしまおう。 何、問題ない。 逸話なんていずれ風化し消えてしまうんだから。 男のくれたヒント、それだけでも一人は見当がついている。 運が良ければ二人目にしてそいつで最後、これでも人的被害は相当少ないだろう。 今度はもう少し上手に聞き出そう、まだいたら、道を絶やしてしまうことになる。 ―――あぁいけない、このまま放置したらすぐにバレてしまう。 倒れ伏した男の体を乱暴に起こし、ネクタイの留まり目を掴んで緩ませた。 ボタンを二つ外してよく見えない鎖骨の辺りに唇をつけて強く吸う。 一ヶ所だけではダメ、2、3位置をずらして痕つけていった。 タイムラグの眼隠しにはなるだろう、確実な証拠を誰か提出出来るならやってみるがいい。 最後に一度男を見下して、オレは部屋を後にした。 目指すのは7組、水谷の教室。 きっと名も知らぬ彼女はそこでいつものようにグラウンドを見つめているだろう。 ある日突然現れたその彼女は、いつもいつも水谷に付きまとう目障りな一人だった。 オレの方を見て、女であることを優越に高飛車に笑んだ彼女。 写真の提供者が女だというなら、十中八九彼女で間違いない。 日の暮れる廊下を歩いていく、視覚的な空間が、再び昂ぶりを増していく。 赤が差し込む教室で、窓を閉め、カーテン閉め、背を向ける彼女。 隙間から顔を出すようにして、グラウンドを見下ろしていた。 「―――また水谷を見てるんだ?」 「!?―――さ、栄口くん…?練習は…?」 「写真の件で担任に呼び出されてて、その節はありがとう。」 出来うる限りの笑みを浮かべる、なるべく慈愛的であるように。 写真、という単語に慌て始める彼女を、滑稽な犯罪者を見る心でただ笑い、見つめた。 どんな言い訳を聞かせてくれるだろうか? 一歩一歩足を進めて、そのたびに彼女はそれ以上下がれもしない壁に背を擦らせ。 顔を引き攣らせている、オレの優越感はそれだけで満たされる。 女の身でありながら水谷の横にいることも許されない、そうでありながら邪魔ばかりして。 もう、やめてもらおうか。 「写真、撮ったの君だよね?」 「…あ…ぁ…!」 「他に、このこと知ってる人、いるの?」 「い、いない、いないよ!!誰にも言ってないわ!!」 「本当に?」 「ほ、本当よ!!」 「そう、それならよかった、でも。」 「い、いやっ…こないで…!!」 「そういうの、もうやめてくれないかな?」 「ひっ…や、こ、来ないで…!!」 「オレの邪魔、しないで。」 頬を伝う、ぬるりとした流体。 少し痛い、切り傷を負ったような、あぁ、ガラスの破片が飛んでしまったんだろうか? 首筋の辺りもだ、少し痛む、ぬるぬるとした液体が垂れる鈍い動き。 風にはためく赤染まりのカーテン、絶叫の後の一瞬の静けさの後、爆発的に広がる騒音。 突き落したんだっけ? なんでもいい、邪魔者は消してやった。 ―――幸せはまだ続く、これで大丈夫。 頬を伝い滴る血を拭って、親指の付け根についた赤黒いそれを舐めとった。 終幕、っと。 しとやかさとはかけ離れた乱暴な劇だったけれど、目的が果たせたからそれで構わない。 はためくカーテンを背にして、傲慢ともとれる悠然な足取りで教室を後にした。 『交際関係のもつれにより錯乱した少女の犯行』 高校教師と同高校内の少女の死亡事件は、謂れなき赤い痕により二人の交際のもつれが原因の心中自殺という判決が下された。 その後数度に渡り、陰惨な事件が続く。 芙蓉の花が綻ぶようなしとやかさで行われる犯行。 科学捜査の未発達な時世、その犯行を突き詰めることは出来なかった。 どれも放課後という開放的な時間での犯行でありながら、巧妙な手口は一度たりとも尾を引かず、歴史の闇に葬りさられていくことになる―――。 その時までも、少年は笑う。 芙蓉は堕ちる――――堕ちる堕ちる愛し君よ、狂いに黒く染まる根元は美しき。 終 憂氷から自重という言葉を一切なくすと、とりあえず問答無用で話が黒くなります。 とくに栄口は黒くなるための理由付けがどこまでもそれらしくでき、それも勝手に踊ってくれたりもするのです。 栄口は自己犠牲にためらいがないので、思ったとおりに踊ってくれます、ただし行きすぎます(ぁ 栄口の自己犠牲心は本物です、自分の黒い部分がよくないところも自覚はあります。 ですが大事なもののためならリミットを外すに理由になるんですね。 芙蓉の花言葉は、「しとやかな恋人」、学名mutabilisは「変化しやすい」の意味を持っています。 スイッチの切り替えはお手の物で、変化は簡単です、毎日代わる代わる違う顔を見せてくれる一日花、芙蓉のように。 科学捜査が発達していないかどうかはわかんないというか、先入観です、振りは一歩前くらいにいそうだなーと。 素手で骨髄を折れる栄口はさすがにやりすぎ?と思いながらも、球児の握力に期待です(逃げた 芙蓉をテーマに水栄しよう、これはずっと温めてきたネタでした。 だって栄口にぴったr…しとやかで神経質、ぴったりかなーって(何 はい、前置きが長くなってしまいましたが!天樹様!! 相互ありがとうございます!本当に!!(礼ッ あああすいません、黒いというか狂いというか、リクエストにお答え出来ているでしょうか!? しかも相当長い…あわわすいません、完全自重抜きでやったらこんな長さに;; うわぁ後書でちゃんと説明になってるのか!?ものすごい不安です〜;; こ、こんなもんでよかったら、もらってやってくださいませ!(^ω^;) サイトに置いてくださっても構いませんし、歴史の闇に葬り去っても全然OKです(ぇえ 長々と失礼いたしましたあああ〜:;y=_| ̄|○・∵. ターン そしてですね、えーと…芙蓉を書いている時になんか絵が描きたいなーと思ってガリガリしたものがありまして…。 一応ここにリンクしておきますが、※流血です、黒いです、雑です※ので気を付けてくださいませ〜; こちらもお持ち帰りは天樹様のみでお願いします(^ω^)b |
