単純、だからこそ深読みをすることもできなくて。
予め罠を張ることすら出来もしない、簡単な小鳥。
The bluebird in the way where you died
始まりというものは、物々しいものでは決してない。
あくまでも唐突に、さりげなく浸食していくもの。
さりげなくどこかに前兆を孕ませ、徐々に徐々に。
だから、昨日は何も言わなかった。
誰も知らないふりをしておけば、きっとこれはさしたる問題ではない。
知らないふりをすることは、難しいことではない、たぶん。
指摘さえされなければ、気疲れでさえ気取られることはないと思う、たぶん。
よほど感情のコントロールがうまいわけではないが、よほど下手というわけでもない。
だから今日も流してみせよう、これはもう意地の域だとしても。
床を共にするというのも、さすがに段々と慣れてきてしまう。
特に何かをするでもなく、狭苦しいベッドの中で身を寄せ合う。
悪戯じみた触れ合い程度はあれど、過激な求めあいはない。
お互い疲れている旅の最中、歩き回り、モンスターと戦い、休息と言えばその日の宿。
手を出すわけでもなく、ただ時に、ここは寒いからだとか、そんな理由で隣にいる。
自分から潜り込むこともあるし、向こうが勝手にいることもある。
了承を取るのも今更過ぎて、確認をとることも忘れてしまった。
今更、今更そんなもの必要ない。
けど、今日ばかりはしたほうがよかったかもしれない、と思う。
勝手に潜り込んでしまうことは慣れたけど、いつものことだけど。
今日は少し、平穏な旅ではなかった。
少なくとも自分にとっては。
それも人からすれば大したことではない。
朝まったく起きれないならまだしも、何故か誰よりも早く目が覚めてしまったとか。
得意な料理とは言えない、でも割と成功率の高いオムライスを失敗してしまったとか。
攻撃の連係が繋がらないだとか、茶化す声がいつにも増して苛立ちを増やすとか。
普段なら流せるはずのお小言が、何故かすごく痛かったとか。
今日はどうも調子が悪い。
いつもなら、嫌なことがあっても布団に潜ればすぐ寝れる。
今日は、いつまで経っても眠気はこない、それどころかどんどん目が冴えてくる。
少しは変わるかもしれないと思い潜り込んだ毛布。
温もりこそあるも、眠気は誘われない。
なぜか、面が苛立ちを募らせる。
こんな状態で、毎晩のアレ、聞きでもしたら―――。
アレ、というのも。
今更ではある。
それは重々理解している。
初めの頃こそは、何度も言おうと思ってきた。
言うのは簡単だったはずなのに言えなかったのは、自分を優先できる体質ではないから?
彼の顔が曇るのを見たくなかったからだろうか?
今更過ぎて、あきれ果ててさえいたのだけれど。
嫌な癖。
癖と呼べば彼はきっと傷つくだろう。
だから今日も今日とて、ただ黙っていたのだけれど。
明日もずっと、黙っているつもりだったのだけど。
眠りに耽る淡麗な顔を見ていれば、なんだか、意味もなく苛立つ。
まるで、嫉妬?
そんな馬鹿な。
じ、と穴が開くほど見つめてみても黒い眼が覗き出すことはない。
悲しいか、どうしてか。
ぶれる眼がこちらを見れば、彼はやはりそうと言うだろう。
起きなければいいと思いながらも、しかし起きてほしいと思う。
矛盾?うん、一番しっくり。
起きなければいいと思いながら、黒髪を撫ぜる。
短い、諦め。
「ジューダスの、馬鹿。」
小さく。
届くはずもない、熟睡中なのに。
知っていても、口にする。
軽はずみ?構わない。
いかに軽率であれど―――。
「…ぅ…ん…?」
「…ぁ…。」
思考が止まる。
もとよりしっかりした思考回路があったわけではないが。
薄くぼやけた眼と、線が結ばれる。
しまった、と思ってもきっと遅い。
せめてその覚醒がいつものそれより、はっきりしたものであればいいと思う、しか。
ぼやけた視界でただこちらを見つめてくる黒い目から、視線を逸らすことは出来ない。
期待して、それも、過度に。
せめて、今日くらいは。
あぁ、それでもきっと君は―――。
「―――…スタン……?」
寝起きで掠れる声が呼ぶのは、やっぱり。
口をつきかける言葉をぐっと押し込めて、言葉が漏れないように。
「…どうした…?寝ないのか…?」
寝れるわけが、ない。
惰眠が何より好きな自分にとって、寝れないことはすごく辛いのに。
「スタン…?」
その、名前を呼ばないで。
おかしいな、普段なら聞き流せるのに。
似てるもんなぁって、仕方ないなぁって。
おかしい、おかしい、こんな風な、こんなの違う。
「オレ、は、父さんじゃ…っ。」
違う、それ以上はダメだ。
「……スタ………っカイル……!?」
霞んだ視界が、段々と焦点を結び、絡まった。
薄く呆けた意思のない瞳が、ようやく現実を受け入れていく感覚がありありと伝わる。
だけどその眼はまだ、事の重大さを理解しきっていない。
だから、唇さえ噛めれば。
この口が閉じさえすれば、なかったことに出来る。
それをよく分かっていて、でも。
できなかった。
「…ジューダスの馬鹿っ…。」
「カ、イル…その…っ!」
知ってるくせに。
わかってるくせに。
床で呼ぶ名が別の名前だなんて。
「もう何回目だと…!!」
「か、カイル…。」
「も、…我慢できないよ、オレ…!!」
どれだけ?知る由もない。
言わなかった、我慢してた。
自分の性格上、軽はずみだなって、簡単な言葉で済むことだとしても。
言えることじゃない、周りが思うほど、簡単なことじゃない。
「ジューダスの、馬鹿ッ!!もう知らない!!」
なんて滑稽な話だろう。
自分で潜り込んでおきながら、理不尽この上ないという。
あぁもう今日はついてない。
早起きするし、料理は失敗。
満足な連携も決められない、そのお小言がいやにささる。
大好きな人に、一番痛い間違いをされる。
布団を蹴飛ばして、ベッドから滑り降りた。
逃げ出してしまいたくなる気持ちをこらえて、しっかり対峙する。
対面したジューダスは、まだ現状が読み込めていないようだった。
それもそうか、彼は寝ぼけていたにすぎない。
寝ぼけて、父さんの名前を呼んだ。
オレほどではないにしろ、ジューダスだって寝起きはそんなによくない。
だから、まだちゃんと頭が働いてないっていうのもわかってる。
だけど、どうして父さんの名前を呼ぶのか。
「いっつもいっつも…寝ぼけて父さんの名前呼んで…!」
もうこの口は、止まってくれそうにない。
「どうしていっつも…っ。」
「…なぜ、今まで言わなかった。」
「…ぇ…。」
「当分前からそうだったなら、なぜそう言わなかった。」
「な…。」
「お前は、唐突すぎるんだ…気づいていたなら、どうして言わない?」
かちん、なんて生易しい音じゃない。
土台を叩き割られるような轟音、まるで耳鳴りがしそうだった。
この期に及んで、なんで?
「…嫌なことがあるなら、進言しろ。
変わらないとわかっているなら、自分で対処したらどうだ?」
ひねくれた顔。
まるで睡眠を邪魔したことに対して、それに対して怒っているみたい。
外が少しずつ騒がしくなってくる。
公共の宿の壁の厚みなどたかが知れているというもので、この口論が外に漏れ出してしまったのだろう。
扉をたたく音。
両隣の仲間が悟ってきてくれたのだろうか。
何も考えられないというか?
これはどうにも。
耐えられそうにない。
「…ジューダスの甲斐性なし!!大っっっ嫌い!!」
「…なっ…カイル!?」
驚嘆を無視して駆けていく。
扉を乱暴に開け放てば、そこには見知った仲間立ちの驚いた顔があった。
それは無視、一目散に出口に走っていた。
もう知らない。
ジューダスなんか大嫌い。
何度も何度も心で反芻し、真っ暗な街に飛び出した。
夜の冷え込みは当然厳しい、ここは、雪国。
薄着などと知ったことではないと、夜の街に駆けだした。
*
「…で、結局寒さで倒れてしまっていては、あまりに情けないと思うのだが…。」
「…すいません…ウッドロウさん…。」
「いや、私は構わないよ。ただ少し、驚かされたのだけどね。」
クレスタは、わりと温暖である。
そこまで寒さに弱かったわけではない。
が、小一時間、真冬の国を薄手でうろうろしていれば、熱を上げてもおかしくはなかった。
結論だけ話せば、今はハイデルベルグ城で保護されている。
逃げ出したものの行くあてはない。
寝に徹していたものだから、持ち物は何もない。
その上この寒さである。
路肩で倒れていたところを城の兵士に見つけられていなければ、今頃雪の下で永眠していたことだろう。
でもなんとなく、それでもよかったんじゃないかと思ってしまうような。
思いのほか、ダメージは大きいらしい。
ハイデルベルグ城内では顔も知れ渡っている。
担ぎ込まれてすぐウッドロウ王の元に連れて行かれたそうだが、兵士共々仰天だったという。
それもそうだ、こんな真夜中に、それも路肩で倒れているなんて。
それも一応、実力も認められ始めたであろうこの頃に。
「皆のところに帰らなくてもいいのかな?」
「…いーんです、知らないです…。」
「ここにいることくらい、告げておいた方がいいと思うのだが…。」
「いーんです…!」
ウッドロウの優しさが、今は痛い。
あんな飛び出し方をしておいて、のこのこ帰るなんてカイルには出来ない。
事情は、簡単に話した。
喧嘩の相手はジューダスで、内容は適当に。
内容まで触れてしまえば、ジューダスがリオンであることから話さねばならない。
それは正直、面倒だ。
熱を出して運び込まれた人間には、たったの一言でも苦しい。
ウッドロウのほうは、仕事の関係でこの時間も起きていた。
客間を宛がってくれればよかったのに、彼は眼の届く場所でと、自室に招いた。
これはこれで居心地が悪く、ベッドサイドに椅子をおいた彼に視線を合わせることもしない。
それにこの王様は、苦笑で答えているのだけど。
熱のせいで、いつも以上に思考が絡む。
ホントは放っておいてほしい。
「とにかく養生することだ、連絡は…しないでおこう。」
「お願いします…。」
「してもしなくても、彼は来ると思うが、ね。」
「…来るわけないです、ジューダスが。」
若さかな、と小さな声が聞こえる。
そんなんじゃない、事実だ。
無茶苦茶な暴言を聞いて、今頃あきれ果てているだろう。
カイルのほうも、今回はほとほと疲れた。
単衣に、彼が悪いと言うつもりなどは毛頭ない。
言わなかったのは、彼と父の関係をしかと知ってしまっているから。
過去のことではある。
父もいない。
だけど、それは事実として残っているわけで。
野暮、とは言わないのだろうか?
今は自分だけを、とは言えない。
過去に浸るのは、人の自由だと思っている。
そうでないというなら、それは信条の違いだ。
カイルには、そうとしか考えられないでいる。
踏み込める領域ではない、口にしなかったのは、安易な意地などではない。
けして。
いうなれば、自分は怒ってなどいない。
落胆しているだけで、怒りには到達していないだろう。
沸点が高いとか、そういう問題でなく。
カイルのほうも、向こうの反応にあきれ果ててしまったのだ。
まるで、あの口振りでは。
聞きたくないなら、なぜ同じ床にいた?
とでも言いたげな。
思い出すだけでも、悲しい。
言わなかったこと責められるのならば構わない。
それは自分の選んだことだ。
これは深読みかもしれない、それはわかっている。
けど勘繰らずにいられないのは、熱からくるものか。
やっぱり今日は、ついてない。
「カイル君、賭けでもしようか?」
「…絶対オレの勝ちですって、来ないですもん…。」
「来たら?どうする?」
「…うーん…お城の修理、一日手伝いでもなんでもします…絶対来ないし…。」
「それは有難いね、ぜひお願いしよう。」
「ウッドロウさんは、何してくれるんですか…?」
「…そうだね、何か一つ、願いをかなえてあげよう。」
「やった、絶対勝てますからね…!」
自信というより、ただの確証。
彼は来ない、あの呆れた顔が忘れられない。
「…とにかく、今晩はゆっくり休むこと。それからいろいろ考えた方がいい。」
「…それは、そうですけど…。」
「そういうことは、きちんと時間をかけて考えること。いいね?」
「…熱、下がったらちゃんと帰ります。」
「そうか、ならば私は止めないよ。賭けのことは、ちゃんと覚えておくからね。」
苦笑する声が聞こえる。
親が息子に接しているような、そんな感じ。
初めほどの気まずさはない。
軽く目を閉じれば、あとは浮遊感に任せて意識は遠のいていく―――。
―――反論、している。
言えるわけないだろ!!二人がどんな関係だったか、オレはちゃんと知ってる!!
だったとしても、今となっては…!
事実は事実じゃないか!!
カイル!!
…じゃあ言えば!!言えばジューダスは二度と間違えないって誓えるのかよ!?
っ。
我ながら。
酷いことを言うものだ。
よくこんな口が回る。
夢で、願望で。
現実になりえないから、きっとこんなに荒れている。
面と向かって言ったところで、それこそ彼は本気で呆れ果ててしまうだろう。
何で逃げ出してしまったんだっけ?
ジューダスの言葉が、辛辣だったから。
たったそれだけのことで、か。
人が聞けばそう言いそうだ。
星の巡りが悪かったんだと、そう思うしかない。
起きて熱が下がっていたら、気持ちも落ち着いていればいい。
きっといつもみたいにいくだろう。
いつもどおり。
起きたらちゃんと、変えていこう。
そしたらきっと、謝れる。
―――が望むなら、変えてみせる。
必ず。
幻聴のような、小さな囁きが聞こえる――――。
ぼぅ、とした眼を開ければ、差し込む赤い光に眼を焼かれそうになる。
強烈な光に少しずつ順応する視界、感覚的に、今はもう夕暮れ?
身を起こすにはまだだるく、窓から入る落ち日だけで判断。
視線を向けるのももどかしく、すぐにまた眼を伏せる。
どれだけ寝ていたのだろうか、まだ倦怠感は抜けていないらしいが。
もう一度瞼を開け、2、3度瞬き。
見慣れない天蓋。
ここはハイデルベルグ城の、ウッドロウさんの部屋。
ふと、手に温もりを感じて。
それがよく知る温度ということに気づいて、掌に力がこもる。
「カイル?起きたのか?」
「ぁ…ぇ…?な、んで…。」
「薄着で飛び出すから…心配した、いや、まだしている。」
「なんで、なんでジューダスがここに…!」
暮れる赤い日に照らされているのに、見間違うはずもない。
艶やかな黒髪は、間違いなく彼のもの。
さすがに理解が及ばない。
「…すぐに追いかけられなくて、すまなかった…僕は…酷いことを…。」
「…っんで…。」
「寝起きだったからという弁解はしない、お前の…あんな辛い顔を見て、ようやく目が覚めた…。」
そんな言葉。
「思慮に欠ける言葉だった、本当にすまない…。すぐに追えず、熱まで出させて…。」
なんで、なんで今そんな風に。
「…寝言というか、寝ている間ずっと謝り続けているお前を見て…
どれだけ傷つけた、いや、傷つけていたのか…。」
何が本音なの、か。
「―――…オレが、何で一番怒ってるか、わかってんの…?」
「―――起こされたことに突っかかったこと、違うか?」
苦笑交じりに下がる眉が、物悲しくて。
涙はこらえる。
「名前のこと、言わなかった理由もわかっている…と思う。」
「…何?」
「…事実は事実、だろう?」
「…うん、あたり。」
合わさった掌に、力がこもる。
手のひらはもう一方の手に包まれ、温もりが満ちる。
「…カイルが望むなら、変わってみせるよ。」
「ジューダスには無理だ…っ。」
「出来るさ、事実はもう流れた。カイル…こんな僕を、許してくれるか?」
ばーか、と呟く。
でも、肯定の証明にしっかりと笑ってみる。
強張った面持ちが、崩れた。
君が消えた先の青い鳥は―――。
賭けには負けたな、と思いつつも。
この青い鳥の幸せには勝てないな、と享受を決め込んでまた瞳を閉じた。
END
えぇとえぇと…お、遅くなりました!(イキナリ
666hitキリリク、紅蓮様リクエストの喧嘩してもちゃんと仲直りするジュカイ(シリアス風味)
…です、が…いいいいいい、いかがでしょうか!?(きょどるな
これがシリアス…なのか!?(聞くな
無知です、すみませ…!!
うちのジュカイはやたらスタリオがプッシュされる謎に悩まされて…るか?(ぇ
でもやっぱり以心伝心だったっていうオチに、したかった…!
なぜウッドロウだったかというところはスルーで…。
二人が話してる間、ジューダスは夜のハイデルベルグを駆けずり回ってました。
で、カイルが寝た瞬間駆け込んできた感じで(親指グッ/イランコトスナ
リクエストにお答えできていれば…と思っておりますが、気に入らん!という場合は返品可…ということで…(ぁ
紅蓮様、リクエストありがとうございました!今後とも当サイトをよろしくお願いします!
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