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※激しく死ネタです オレが死んでしまったら、骨すら残さず綺麗に食べてね。 昨日の夜、君はそう言って、オレの大好きな笑顔を浮かべていた。 嘘とナイフ 時々冗談めいた風に言う。 本当はオレを見てないんでしょ? そんなことない、大好きだし、しっかり視界に入っている。 愛しい情事の最中にまで言うから、オレはただずっと、冗談だと、思っていた、 「そうだね。見てるだけ。視覚情報だけで、それじゃ見えるものも見えないんだよ。」 「…ねぇ、オレはちゃんと栄口のこと見えてるよ?何かいやなことでも、ある?」 「―――水谷は、わかんないんだね。水谷はオレのこと見てないんだよ、本当は。」 「そんなこと、ないよ。」 「あるんだよ、それがちょっとだけ、嫌だなって思ってるだけ。」 誓ってそんなはずはない。 オレの心は常に栄口にしか向いていないし、この先も、誰かに振れるなんて考えられない。 だけどその言葉は冗談めいた口調に似合わず、オレの心を突き刺した。 栄口は笑っていたけど、言葉や声、見つめる視線はとても、痛々しかったことをよく覚えている。 好きだという言葉が、軽薄な気がしてならない。 栄口は浮いたように、好きだよと言うけれど。 愛を紡ぐ唇が、嘘をついているなんて、思いもしないけれど。 ただ触れ合っているそれだけで、本当は愛のある行為ではなかったのかもしれない。 ―――何も望まないよ、オレは、諦めてるんだ。 何を? その時は問うこともできなくて、露出した肩を抱きしめることで、気持ちを紛らわしていた。 望んで一緒にいてくれてるんだと思った。 だけど望まない、そして同じ唇で、栄口はオレを愛してると言う。 信じていいこと、考えてはいけないこと、どれが正解なのか、栄口は何も教えてくれない。 オレは何もわからないで、ただ冷えた肩を抱きしめていた。 無能なオレはどうにか言葉の意味を理解したくて幾重も考えを重ねたけど、どれもこれも、違うような気がした。 何一つ考えの起きないオレを見かねたのか、今となってはそれはわからない。 その時栄口はオレの胸板を押して体を離すと、冷たくなった指先をオレの頬にあてて、笑った。 ―――オレが死んでしまったら、骨すら残さず綺麗に食べてね。 イヤだよ、オレはそんな趣味ない。 素直にそう伝えたら、栄口はまた小さく笑った、そうだね、という。 だけど水谷はきっとそうしてくれるよ、オレはわかってるんだ。 栄口はそうと告げて、また笑った。 「血肉のままで食べられないなら、オレの体は火葬して?」 「…。」 「そしたら灰になったオレを、全部全部飲みほして。」 一粒も残さず、全部。 強く鈍い光の灯る栄口の瞳に、何も言えずオレは俯いた。 どうしてそんな話ばかりするんだろう、馬鹿なオレは言われもない切なさに押しつぶされて。 繋ぎとめたい一心で伸ばし絡めた指先も、今となっては何も、意味のないものだけど。 肉を食べるよりは、情欲を貪るほうが合っている気がする。 下卑た妄想だったのに、栄口はそれにも小さく、笑った。 オレはその笑顔の意味も知らずに、その晩ひたすら白い体を貪りながら、少しだけ泣いた。 言葉の意味も笑顔の裏も何一つわからなかったけど、明日の朝、そこに同じ光景がないことだけは、何故か理解していた。 しっかり握りしめていたはずの掌も、きっと陽が射す頃には温もり一つ残らないだろう。 正直な欲求は、どれだけ起きていたくても、オレに眠りをもたらしたわけだけど。 翌朝。 薄く射す光に目を開けると、確かに抱きしめて、指を絡めていた体は何処にもなかった。 ほんの少し温もりの残る腕の中に、ただただ感じ取ることが出来るだけの残り香を残して。 跳ね起きては見たものの、それがまったく意味のない行為であることなんて、昨夜のうちには理解していたことだった。 静かな部屋の中には、生き物の鼓動を感じない。 躯を探して浴室を開くと、案外と簡単に見つかって、大きくため息。 浴室の壁にもたれかかるようにして白い体は息絶えていた。 どこから湧いているのかわからない量の赤い液体は、止まることなく排水口へ流れていく。 零れた手の先に落ちた果物用のナイフ、果肉を裂くように、白い肌を切りつけたんだろうか。 未だに流れを模しているということは、ついさっきまではまだ、息があったのかもしれない。 そう思って、自分の体が汚れることはまず構わず、血の海を渡った。 しゃがみこんで、俯いた栄口の頬を両手で包んで上向きにさせる。 ひたひたと流れていく血は温かくて、足の先がぬるりとした液体に飲まれていった。 頬はまだ、温かい。 しかしすでに喉の動きは止まっていて、本来感じる音も何も、聞こえなかった。 閉じた瞼は特に苦痛を物語るわけでもなく、静かに合わされているだけ。 痛みはなかったんだろうか、それだけが心配だ。 いつもよりもずっと青白い肌、投げだされた手首を拾い上げて、頬を寄せる。 徐々になくなっていく体温を感じながら、自分の体温を分ければ生き返るだろうか、幻想にすぎないのに。 しばらくして、冷たい体にお湯をかけた。 浴槽に湯を張って、綺麗に洗った。 何故か栄口には血のような赤は似つかわしくないイメージがあって、特に今はこの赤を見つめているのが息苦しい。 こびりついた血を流すのにこすれば擦るほど、息だけは上がっていく。 流す素振りはいつもの情事とどこか掠めていて、こんな状況でありながら、綺麗に保たれた裸体に見惚れていた。 抜け殻にすら欲情出来るのか、この体はもう栄口のものではないのに。 愛撫を施すように、丁寧に洗っていく。 白い裸体を穢してしまいたくなかったので、昂ってきた気持ちは、なかったことにした。 綺麗になった躯を綺麗に拭いて、バスタオルで包む。 いつの間にか唇はかさついていて、心なしか、潤っていた肌が死滅していくような錯覚に襲われた。 当然だ、この躯はもう生を機能させていない。 きり、と痛む胸のあたりを一つ叩いて、一つ残した言葉を実践するために、一度かさついた唇にキスをした。 今ならば血肉ですら食べれてしまいそうな気はしたのだが、いざ歯を立てようとすると、躊躇ばかりが先立つ。 そんな趣味はないと言い切っている、いくら最愛の躯でも、情事でもなく歯を立てるのは気が引けた。 ―――火葬して。 笑いながら告げた言葉を思い出して、それを実行した。 知り合いの葬儀屋は無言で引き受けてくれたので、一人で数秒の葬式をした。 冷たい鉄の上に横たわる体にもう一度だけキスをして、窯に飲まれていく様を見送った。 その時はまだ、もしかしたら起きてくれるかもしれないなんていう、安易な妄想もあったのかもしれない。 いざ火が灯るなり、急激な胸の痛みにしゃがみこむ羽目になって。 二度と栄口の笑顔に触れることが出来ないことを、今更ながらに実感した。 灼熱に飲まれていく体、火がなめあげる、苦しくは、ないだろうか。 馬鹿な、死んでいるのに、痛みや苦しみを感じる器官はもう、耐えているはずだ。 痛みはあれど、何故か涙は零れなかった。 大きな焼却炉が冷え、開いた時にはもう、そこに栄口はいない。 ただ白い灰が、思っていたよりも少ない灰がそこにあった。 骨の原型は残っていない。 飲み干すのに問題はないだろう、袋に詰めて、灰を持ち帰った。 これを全部飲み干すのは、相当な苦労がいりそうだ。 そもそも血肉を食らうわけではないが、これもある種のカニバリズム。 自分には縁遠い行為だと思っていたが、いざそうとなると、悲しいことに抵抗を感じなかった。 これは栄口の体。 口に含むことに、抵抗すらない。 さして量はないように思えてはいたのだけど、さすがに一飲みにするには量があり、分割して飲むことにした。 確実に噎せ返るだろうから、水は用意しておく、5杯くらい用意した。 何でこんなにたくさんグラスを用意したのかわからなかった。 ついくせで二つ出してしまった事実を、隠ぺいしたかったからかもしれない。 袋の口を開ける、焼けた匂い。 傾けると、入るだけ口に流し込む。 すぐに喉が苦しくなって、慎重に口を外すと、水で一気に流し込んだ。 早く、早く、もっと。 幻聴。 柔らかで愛らしい声は、二度と聞こえるはずがないのだから。 もっともっとオレを食べて、水谷の中を埋め尽くす。 愛しい声は空想を告げる。 ロマン溢れる妄想に、オレは頭を振って、―――。 熱くなる胸に、違和感を感じた。 いや、体の異変というものではないのかもしれない。 胸をきりりと締めつける痛みよりももっと熱い何かは、ただ急かす。 残った灰を、一気に口に流す。 水は2杯では足りなくて、結局5杯とも全部飲んでしまった。 途端に。 ぼろぼろとこぼれ出す涙、堰を切ったように止まらない。 瞬く間に床を濡らしていく光景を呆然と見詰めながら、一向に熱の冷えない胸を掴む。 オレは、本当に栄口だけを愛していたのに。 ―――オレは一番でありたかった、そうなるには、現実には無理だったんだよ。 一番だったのに、間違いなく。 ―――それは幻想なんだ、だから、力付くだったんだよ。 こんなことしなくても、オレが栄口以外、目に入らなかったんだよ? ―――嘘だよそんなの、奪い取らないと、一緒にいることすら出来ないから。 愛してるよ、栄口。 ―――オレも、大好きだよ、ようやく水谷と一つになれたんだから…。 聞こえるはずのない声が、届くはずのない声が、一人の空間に広がっていく。 背から首に回される冷たい温もりの存在に気付かないはずもなく、実体などあるはずもないそれに手を重ねるようにした。 もちろんそこには何もない、空虚な熱が阻むだけ。 だけどそこには確かに愛した人がいて、オレを抱き締めてくれている。 哀れむ様に、しかし愛しそうに、うなだれた体を抱きしめる。 止まらない涙を、掠れた指先が拭いとった瞬間。 彼は最愛の人を身も心も、自分のものにしていった。 きりりと胸を締め上げる痛みをまた知っていたのかもしれないが、彼にはもうどうでもいいことだった。 楔となる抜け殻は最愛の人が食べてしまった。 痛みはすべて彼が持っていてくれるから、ただ彼の中に自分が満ちていく幸福だけを、永遠に感じていくだけでいいのだ。 嘘とナイフ―――信じてくれない真実は、無粋な刃物に消えていく。 うわ、酷いくらい死ネタ。 栄口は好きだ好きだ言うくせに信じてなかったっていうだけ、 そのくせ水谷が誰が好きかなんて知ってるわけない。 振りにはまったころに書こう書こうと思って、テンションが維持できなくて放置してた。 ぶっちゃけ、タイトルものすごい悩みました…。 カニバは花井のほうが似合っている、たぶん頭のおかしい花井が好きなんだと思う。 水谷は人形遊びのほうが似合ってるなぁ。 阿部に狂愛は似合わなーい。阿部は被害者。 |