向き合おうとしない顔は見ればわかる。
面倒くさいことから逃げ出したい奴は、とりあえず笑うから。

貴方だって、そうでしょう。

誰だって嫌いな、積み重なる面倒に。
面と向って助けてくれる奴が、どこにいる。






対角線上




名前を呼ばれたような気がして、ふと振り返った。
あまりにも遠い声でいて、振りかえった瞬間もまだその姿は遠い。
とらえた姿はよく知る人物で、けれど、同じ方向だっただろうか。
誰がどの道を通ってきているかなんて知ったことでもないから、基本的には意識したことがない。
あぁ、そういえば全然違う方向な気がする。
だけどこっちに来たってことは、何かしら用事があったんだろう。
何、と問いかけるのも場違いな気がして、足を止めて待った。
遠目に見える泉の姿は、すぐに大きくなっていく。
相変わらず足が早くて、今途端に逃げ出しても追い付かれてしまうだろう。



「これ、借りっぱで悪かったな。」
「え、わざわざよかったのに、どうせ明日も学校行くんだから。」
「課題とかで使うんじゃねぇかと思って、焦ったんだよ。」
「よかったのに、泉、正反対だろ?」
「いんだよ、栄口、そんな帰ってなかったし。」



に、と笑う姿は夕日と相まって眩しい。
どうしても勘ぐってしまうのはもう癖のようなもの。
差し出せばなんだって丸く収まるから、何もせずに体を切りだして渡せばいい。



「悪いよ、そうだ、なんかおごるよ。」
「別にいいって、すぐ返しに行かなかったオレが悪いんだし。」
「それじゃオレの気が収まんない。」
「んー…じゃ、アクエリで手ぇうつ。」
「コンビニ行く?もっと向こうだけど。」
「あ、コンビニに用あるんだよ、ついでに行く。」
「…ん、じゃ、行こう。」



差し出されたままのワスレモノを受け取って、カバンに押し込む。
本当に、明日だっていつだってよかった。
なんというか、なんだっていいんだ。

二人、時々他愛な会話をしながら、オレは早足で進む。
泉はオレのペースに合わせているのか、それとももともとこれくらいの速さなのか、分からないけど特になんの素振りもない。
コンビニのドアをくぐると、泉の分のアクエリをすぐに探してレジへ向かう。
泉の方も特に長居する用事ではなかったのだろう、何か知らないけど買って、袋を片手に手持無沙汰していたオレのところへやってくる。
アクエリを渡して、じゃあ、という前に泉は袋を漁って何やらをオレの目の前に差し出してきた。



「え、何、それ。」
「何って…肉まん。」
「いや、それは見たらわかるよ。」
「いーじゃん、食おうぜ、腹減ってんだよ。」
「いくらだったの?」



財布を取り出そうと手を伸ばすと、掴まれて静止させられた。
気が済まないという目で見れば、それはまた今度な、と言われる。
結局それでループするような気がして、けれど溜息なんてつくわけにもいかないから、素直に苦笑でごまかすことにした。
コンビニの外壁に体を預けるようにして、二人してまだ熱い肉まんを食べている。
正直なところオレの食欲は微妙だったけれど、食べないわけにもいかないので。
今日は特に、気分が落ちているんだ。
出来ればさっさと帰って、一人の部屋にこもってしまいたい、それくらい。






「なぁ。」
「ん?」
「オレ、来ないほうがよかった?」
「…なんで?」
「なんとなく。」
「…そんなわけないだろ。」




そういうの、悟られたほうが負け。
言い訳とか、そのあとに続く言葉の面倒くささに、溜息がもれてしまう。
笑顔にのせて違うと言い切って、泉の顔を見る。
あぁ、なんだ、割とけろっとした顔をしている。
人の心情を探るには、あまりにも意志の薄い表情。
結局――――。







「栄口、さ。好きな奴とかいないの?」
「―――…。」




我慢、と言い聞かせるのは簡単。
けれど水ほど簡単に熱は冷めないし、まるで彼とは対角の向こうのようで。
ただ、いら、とした気持ちが頂点に達した。








「オレは人間、嫌いだから。」







食の進まない肉まん、投げ捨ててしまおうかと思うくらい。
こんなこと言って、泉との関係を悪くしたいわけではないんだ。
ある程度距離がある方が、人付き合い自体は軽くなるだろうと思ってる。
近しい距離になればなるほど、相手のことを思うのは煩わしくて。
分かっているからと開く距離、埋められるほど自分の心は軽くなんてない。
人の気持ちを感じることが面倒なら、初めから何も考えず、自分勝手に生きればいいだけで。
あぁ、なんて馬鹿馬鹿しい質問なんだろう。
あまりの虚脱感に、視線をはずそうとした瞬間、





「―――本気でそんなこと、言ってる?」







肩口をぐ、とつかまれて。







「本気なら悪いけど、オレ、栄口のこと好きだよ。」

「言葉の意味が理解できない。」

「そのまんまのこと。」

「…正気?バカじゃないの。」

「バカ?オレが?」





まるでオレの方がバカとでも言いたげに、にらむようにオレを見てくる。
言葉が続かない、稚拙すぎるやり取りに頭が痛い。

冗談よして、そう言う前に。




「人間嫌いなの、ホントは知ってた。」

「…はぁ?」

「栄口、やさしーから。」

「…日本語話してよ。」

「そういうとこ、好きだ。」




面倒だって、逃げだせばいいのに。
いつの間にか胸倉を掴まれて、かすめ取るように唇を奪われて。




「意味、分かる?」

「これで分かんなきゃホントの馬鹿だけど、泉の頭が理解できないよ。」

「そういう、面倒くさく回りくどいとこ、マジで好きだ。」

「…。」




ホントのホント、言葉に詰まって。
突き飛ばせればいいのに、悔しくて唇をかむことしかできなかった。
対角の中心すら乗り越えて、どこへ行こうというのだろう。












対角線上―――誰も彼もが貴方のようであればよかった!










まったくもって、そうだよ。