密室の空間で頁をめくる。
橙色の薄明かりが、暗く手元を照らしていく。
無意味な行間を、その白い空白の光に。
不完全すぎる本に挟む現在―しおり―をまだ、探している。












I know












オレンジ色の光は、もう無意味かもしれない。

あまりにも暗い半地下の世界で読書をする、視力の低下を覚悟の上で。
取り柄なんていうものを、欲してはいない。
視力なんてなくても、オレは生きていける。
無意味に開かれた行間の意味を探す方が、よっぽど楽しい。
難解な言葉を並べたてて、満たされた毎日。
知る知らないに関係なく、ただそこにあるだけで、無意味な虚心を張り巡らせていった。
ページをめくるように指でなぞる、同じ時間を重ねては、虚しさに身を委ねる。
行間が照らし出す白い光も、今は意味を感じない。

知れば知るほど、虚しさは影を広げる。
不完全すぎる自分が、劣等にまみれたこの世界が。
だけど知りたいから、ページをめくる。
この世界にはまだ、オレの知らない綺麗なものがあるかもしれないから。

読みかけて、途中で忘れた本は何冊もある。
何度も何度も読み返しても、そこにあるのはただ難解なだけの言葉。
馬鹿な、そんなものにこの好奇心は満たせない。
足りない足りない、もっともっと刺激的で、美しいものを探している。








「―――田島、またこもってんのかー?」









あぁ、花井の声だ。
閉め切ったオレだけの図書館の向こうから、花井の声がオレを探している。
返事をしなくても花井は勝手に入ってくるだろう。
オレの密室を壊す、一人の簡潔な存在。
プロローグすらも読まず、エピローグだけで分かり切った、そんな。
どこまでも簡単な様がいっそ羨ましくもあって、だけどそんなことオレには無理で。
きぃ、と錆び付いた音がして、オレンジの光がふ、と揺らぐ。
本棚にもたれていた背を上げて、薄く差し込む光の影に視線を向けた。
狭苦しい地下の扉を窮屈そうにくぐり、オレの姿を見やって、苦く笑う。
こんな姿を見て切ないのなら、来なければいいのに。
陽の下に出ることが面倒になって、毎日毎日、ただここでひたすら本を読みふける。
不完全さを補完することだけに没頭して、密室に沈んだ。
馬鹿な花井、こんなことに付き合わなくたっていいのに。





「また途中で投げてんのか?」

「しおり、挟まねぇもん。」





読んでは忘れ、補完しては忘れ、結局オレは不完全なまま。
知りたいのがオレに開いた穴なのか、それとも小さすぎる世界のことか。

目的すらもわからないで、無意識にただ、本を辿る。
意味のない行為と知りながら、



馬鹿げた世界を知っていたい、覗きたい、立ち止まらないために。
古くも鋭利な白い紙が、いくら指を切り裂いてもまだまだ足りない。
詰め込まなければ忘れてしまう、忘れてしまうから、どんどん詰め込む。



何かで埋めていなければ、不完全すぎて、ひたすらに不安定。



満たす何かがなければ、崩れ去ってしまうストーリー。
脆弱な自分を覚えていたくない、しおりは挟まず、そこは忘れてしまう。
過ぎ去った前の頁は、まだ見ない後の頁を、ただ不安にさせるから。
ならば都合のいいことだけ覚えていて、何か悪いことでも?
忘れていくだけの意味のない言葉に、もはや意味はないのだから。
ただ一瞬の穴を埋めるだけに、ただただ流れていけばいい。

花井の存在を無視して再度手元の本に視線を落とすと、唐突に頭の上に手が降ってきた。
わし、わし、と数度撫でられ、何事かと見上げれば、やっぱり花井は苦笑している。
そんなに息苦しいなら帰ればいい。










なんて、ホントに帰ってしまったら、本棚をめちゃくちゃにしてしまうほど悲しんでしまうくせに。










「あ…悪ぃ、ここにいたら邪魔んなってる?」

「―――別に、」




















あぁ、愛の声は届かないけど。
届かないんじゃなくて、届けないことすら自覚があって。
世界の知識も、ちっぽけな未来も、本当はどうでもいい。

花井の優しさまで忘れてしまいそうな、穴だらけの自分が怖い。
不器用すぎて伝えられない自分が、忘れたくないと口に出来ない自分が。
本当はしおりも欲しいくせに、素直に言い出せず、結局は大事な優しさも消えていく。
花井がオレのしおりになって、ただそれだけの言葉なのに、声は霧散する。

知れば知るほど、知っていくほど。
いっそ虚しさが立ち込める。
愚かな行いに、愚鈍すぎる愛しい花井に。
この声さえ読み取ってくれたら、オレはとても立派なしおりを手に入れるのに。




















「いなくたって、いい。」



















だけどこの口は、本当のことを話させてはくれないから。
愛の声は届かずとも。
花井はここにいないで、どうか白い陽の下で、オレの行間を保っていて。
進み続けるには、お前がオレのしおりになっちゃいけない。
どんどん影を広げていく虚しさに、花井はまた辛そうに笑った。
―――邪魔してごめんな、またな。
そう言って図書室の扉を閉めて、またオレはオレンジの光と戯れる。



あぁ!ホントは答えなんて全部知っているのに。



花井のいなくなった図書室は、来る前よりも静かで。
ひんやりとしたそこは、もはやオレの知識の泉なんかじゃない。

知っているのに、なんて愚かな。
それはオレが不完全だから、もっともっと、知らなければ。

まわって結局、明日も同じ。
知っているだけの無意味な密室。










I know―――僕の密室、君は太陽。











珍しく花井が優しいです(ぁ
ハナタジデー!!いえーい!!ハナタジ大好き!!(*^▽^*)
結局私は精神的に田島のが黒いほうが好き、病んでいる。
田島は神だもの、覚えていられないことなんてないのに。
ただ花井が欲しいだけ、でもそれが言えないから知らないふりをしてるだけ。