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綻びを見つけたのは、まだ自制心さえも知らない小さなころ。 次から次へと破綻していく過程で、何も出来ず呆然とするに徹していたころの。 いつしか穴が開く頃に、伸ばされた手を叩けなかったのはただの恐怖か。 自らも叩き潰された時にまず覚えたことは、自ら開くこと。 ナケナシの防衛本能を全力で働かせた結果の、堕落とわかっていても。 早く終われ。 全部全部。 自分でしてみせなさい、囁く世界の中心。 次から次へと、綻びが増える。 早く終われ。 全部全部、巻き込んで。 そうと願い続けることでしか、結局は結末を思うことすらも出来ない。 早く早く。 あとは見つかるだけだから。 早く暴いて、早く見つけて。 叩き潰して。 眩暈もただのガラクタであれば ― Live on and Keep on the Edge ― グラウンドを走るだけの姿を踊る、と表現するのは、さすがにくさいものがあるだろうか。 そうとしても、別に恥ずかしいこととは思わない。その姿に目を奪われたのは、もう半年以上も前のことだ。 なんだかんだと言って、そんなに長くない片思いだったのかもしれない。 ―――それで何が変化したかと言えば、何も変化していないし。 往々にして唐突に始まるのが恋というわけで、今回の恋も、それはそれは唐突だった。 唐突、というよりは、気づいたのが唐突だったというだけで、その気持ちは前から薄ら薄らと積もっていたのだろうけど。 それを踊ると評することも、まったく抵抗はなかった。 乙女チックな表現でも受け入れられるくらいに、いつのまにか惚れてしまっていたから。 地を固めるしっかりしたプレイ、監督も認めるその腕に酷く惹かれるものもある。 コールド狙いの試合で見せてくれた、飛ぶキャッチ。 着地を描くまでの孤があまりにも綺麗で、プレイ中にも関わらず呆けてしまったのも、覚えている。 仲間を支える意を得た言葉、周りを解す笑顔。 全部含めて、グラウンドの上の彼は踊っているようだ、と。 まるで少女漫画だが、そうと気づいても自分自身には、まったく抵抗がなかった。 間違いなく起こるであろう葛藤(実例を知っているから)も、自分でも驚くほど、起こらなかった。 性別とか、そんな感じのこと。 たぶんどこかにあったはずの過程を、見事に素っ飛ばして。 栄口だから、か。と。 その流れがあまりにも自然で、気づいたからどうしたかというくらいの、些細な変化。 だって自分は女の子のほうが絶対に好きだし、今までだって、普通に女の子を好きになって、彼女がいた時期だってある。 と、説明したところで、彼はそう、と言うだけだろうけど。 正直なところ、興味、と言い切ってしまったことに、今更ながら後悔していた。 怒らせたくてついた嘘もあっさり受け入れられてしまって、反対に興味で付き合ってくれると言い始めて。 そして付き合うことになったが、いざとなるとどうしていいか分からない。 協力者に相談したかったが、向こうもなんのかんので修羅場らしく、暇な時に声がかけ辛い。 いつからか気付いた変なところ、それが気になるというのは、十分な興味。 だけど、そんな理由ではないことは、分かっていて欲しかったが。 以外と、聞いてもらえない。 もともと学校にいる間はそんなに顔も合わせない、クラスが違う。 練習中に雑談なんてのは、もってのほか。 となると帰りだが、二人きりになることなんてそもそも数がない。 だから、付き合ったからと言っても、以外と小さな変化にすら気づくことができなくなってしまった。 以前よりも距離がある、というか。 というより、自分で置いてしまっているような気がする。 別に深い意味があるわけでもなく、どうしたらいいのか、わからなくなって。 だからしり込みして、伝えたいことも伝えられない、聞きたいことも聞けない状況。 情けない。 情けないことは、まぁ、わかっているのだが…この上なく情けない。 あぁホントに、時間が欲しい。 少し整理する時間、相談する時間。 向き合う時間。ひっくるめて、だいたい一日分もあれば十分だっていうのに。 まだ試験週間にもならないから、練習時間はピーク。 とてもじゃないけど、自分のことだけで手一杯。 ただでさえ栄口のことで頭がいっぱいいっぱいなのに、自分のことまでしようなんて、そんな器用な性格はしてない、と思う。 とにかく相談したい、あの的を得た歯切れのいい言葉を聞けば、とりあえずのもやもやは払拭されそうな気がする。 そのためには、これ、をどうにかしないといけないわけだ。 じ、と正面の眼鏡を睨んでみる。 他所を向いた彼には、睨んだところで届きはすまい。 むしろ見られても、困るというか。 「…やっぱ失敗だったかなぁ。」 ふぅ、とため息。 昼時には似つかわしくない音に、対面する位置にいる阿部と花井が顔を見合わせた。 箸を口に咥えたままだったので、変な音になったことには自覚があるが。 たぶんあの顔は、そういう意味じゃないんだろうなぁと思いつつ。 ぼそぼそ何かを話し合っているけれど、耳に入らない。 考えることは栄口のことでいっぱいいっぱいだ。 「…水谷、お前どうしたんだよ、最近ためいき多いぞ?」 「んぁ?そーかなぁ?」 「うざい、気持ち悪い、何かあるなら栄口か誰かにさっさと話せ。」 「阿部はひどいやつだよねー。」 露骨な動作で泣き真似をしてみれば、阿部が青筋を立てている。 花井がまぁまぁ、となだめているが、それで終われば阿部じゃない。 このまま続ければ怒鳴られるだろうから、適当なところで切り上げる。 けど、正直二人のことは頭に入っていなかった。 「ほら、また。ため息ってか…何か悩みでもあんのか?」 「んーいや別に、ホント、なぁんにもないよー。」 はぐらかすような返答をしたせいか、阿部の青筋はより深くなっていく。 説明するのは面倒。 二人に相談したからって何になるんだか、というほど、ドライではないと思うが。 「…栄口に会いたいなぁ…。」 「とうとう頭がおかしくなったか…もう俺達じゃ手に負えねーよ。」 「いやだけどな、阿部、そこで放置したらうちはチームがな。」 「レフトなら西広に入ってもらおうぜ、コイツ抜いて。」 ………酷い言いようだ。 未経験だった西広も今では控えとしてならば十分やっていける程度には成長した。 だからといって、経験者を抜いて始めたばかりの選手をいれるのはどうかと思うのだが。 弁当の横に肘を寝かせて、ごろんと頭を置く。 あぁ、栄口に会いたいなぁ。 「栄口じゃなくてもいいや…9組行ってこようかなぁ…。」 「「………。」」 「…なに?」 「9組に何の用だよ、泉か?田島か?」 「阿部の選択肢に三橋はねぇのか?」 「いや、三橋なら行かせちゃダメだろ、うん。」 「「………。」」 「…なんだよ。」 「阿部のほうがよっぽど気持ち悪い…。」 「うっせぇクソレフト!」 「あーもう落ち着け阿部!!水谷も馬鹿なこと言ってねぇで用があるなら早く行けよ!な!?」 気持ち悪いという言葉に過剰反応した阿部に後ずさりすると、花井が一生懸命阿部を宥めているけれど、きっと長くは保たないだろう。 花井じゃ阿部には勝てないんだもんなぁ。 このままじゃ蹴られるし殴られるし大変なことになるからさっさと逃げよう、ホントは栄口にも会いたいけど、今は。 箸を握りしめて、イスを蹴るようにして逃げ出した。 後ろから阿部の罵声が聞こえてくるけど、目一杯耳を塞いで逃げていく。 「あのヤロー帰って来たらぶっ飛ばす…。」 「阿部も水谷には容赦ねぇなぁ…。」 「何の話?」 「「…あ。」」 タイミングは刃物に削られずれていく。 * どこの教室も、昼飯時ならば喧騒も表情も変わり映えがなく。 9組のそれも賑やかで、というよりここは他の組んぼ3倍は騒がしい。 このクラスの子に所在を確かめなくても、その3人が固まっていることは容易に確認出来た。 入口で小さくお邪魔しまーすと声をかけてそこまで行くと、後ろを向いたままこっちに気付かないくせ毛に、思いっきり首根っこに抱きついてやった。 「みーはーしー!」 「ふおおおおおお!?みみみみ水谷くん!?」 「おぉ!?水谷!!何してんだよ!!三橋ビビってんだろ!?」 「阿部がいじめるんだふぐぁ!?」 「離れろっつってんのがわかんねーのかお前は!!」 泉の右ストレートを顔面に食らってふらふらと体を離すと、怯えまくった三橋と目があう。 悪い悪いと手を合わせると首を左右に振るので、本人からは許してもらえたらしい。 問題はまだ拳を握りしめたままの泉と、立ち上がった姿勢でじーっとこっちを睨んでいる田島。あとは完全に呆けている浜田さん。 三橋は完全に弟だなぁ、と怒れる兄ちゃん二人を見て思う。 ではなく。 「つかなんだよ、昼に来るなんて珍しいな、忘れ物?」 「お〜、泉の右ストレートで忘れるとこだった、用は田島ぁ。」 「あ?オレ?」 「あ〜はいはい、栄口ね。」 「そうそう、そうなんだよ、聞いてよ田島ぁ。」 「んだよ、オレもまだあれからはっきりしたことわかんねーよ?」 「それもあんだけどさぁ。」 回りみんなが別に栄口は普通だという中で、唯一首を振った人間。 田島悠一郎その人は、お弁当の中身らしいおにぎりをもそもそと口にくわえつつ返答した。 三橋と浜田さんはよくわかってないらしいので、傍観。 泉には栄口のことを田島に聞いたときにいたから、たぶんだいたい分かってるような。 「突然ですが、この度オレと栄口はお付き合いすることになりました。」 「はぁ、それはオメデトウゴザ…はあああああ!?」 「ちょ、ちょっと、待って、頭が混乱してきた、意味わかんねーよお前!!」 「いや、意味も何も言葉の通りなんだけど…。」 わざわざ小さい声にして話しているのに、そんなでかい声で叫んだらクラス中に聞こえてしまうじゃないか。 「つーかなんでそれをオレんとこにホーコクしにくんの!?」 「あ、うん、それも含めて諸々事情を聞いてもらおうと思って…。」 「…難しい話は噛み砕いてやれよ、通訳しねぇからな…。」 とはいってもそんなに難しい話じゃない。 ほんの3日前告白し現在に至り、微妙に距離があるようなむしろ自分で作っているような、ということを説明。 「…あー…お前、マジで栄口好きだったのか…。」 「なんだよ泉、オレは一回も否定してないぞ〜。」 「それは知ってるからいいんだって、つーか距離作ってんのわかってんなら水谷が頑張れよ。」 「んーとね、田島、最近栄口がね、すごい怒ったような顔してんの、見た?」 「え?そんな顔してたか?」 「泉はいなかったかんね、オレは見てたけど…よくわかんね、でもひっかかんだよな。」 「だろ〜?だからどうしていいかわかんねーの。」 それはふとした瞬間、唐突に過っていく変化。 誰も追うことはできない一瞬の挙動で、見間違いであればと思ってしまう小さな現象。 それが何に繋がっているのかわからなくて、それも距離を開けてしまう原因だったのかもしれない。 「…栄口はなんで、OKしたわけ?」 「んー、興味ってた。」 「は!?お前そんなんでいいの!?」 「ん〜まぁ、なんてか、よくわかんない。」 「「………。」」 「…なんだよぉ。」 「たくましー…。」 「オレ、ちょっと水谷ソンケーするかも…。」 何で?と聞き返す気力はなく。二人の溜息をどこか遠くで聞いていた。 こうしていると、自分がいかに栄口のことを知らないか実感してしまう。 あぁ本当に。 「あー…栄口に会いたいなぁ…。」 「あ、の、水谷、くっ…。」 「お?三橋?どした?」 「おぉミハシ、なんかあった?」 「さ、さみし、栄口くん、水谷くん、その…。」 「あぁ!栄口が寂しがってんのな!」 「え?何?どういうこと?」 「栄口がぁ?なんでそう思うんだよ。」 「う、ぇ、えと、怒ってる、ない、からっ。」 「ふむふむ、怒ってんじゃなくて寂しいのな、ミハシは偉いなぁ!」 「ふ、ふひっ。」 「ちょ、田島、ちょっと待ってよ、どういうこと?」 「水谷は栄口んとこ行って来いよ、寂しがってんだって。」 「だから今のどうやったらそうなんだよ、オレにも分かるように話せ!」 「だからな―――。」 * 9組から1組、なんだかやたらと遠いなぁ。走りながら思う。 水谷が距離置くようなことするから、栄口怒ってんじゃないかってさ。 三橋のあの言葉だけでどうやったらそういう言葉が出来たのか、田島は本当によく分からない。 それでもそれが正しいのだとしたら、少しくらい、と自惚れてもいいのかな、と思ってしまって。だから走っている。 予鈴がなるまであと4分。 確か1組は次、移動授業のはず。 急がないと完全に空振ってしまう。 本気で走れば数分もかからないのに、人の波が邪魔をして足が出せないのがもどかしかった。 する、と横をすり抜けて、ぶつかったらいちいちゴメンと謝って。 滑るように1組の廊下に面した窓から部屋を覗きこむ、背の高い巣山の所にいるだろうと信じて巣山を探す。 教室の中心あたりで教科書を畳んでいる巣山の頭が見えるなり、教室へと駆けこんだ。 「巣山ぁ〜!」 「水谷?どうしたんだ?」 「栄口は!?」 「え?栄口?」 ふ、と視線を彷徨わせて、気まずげにする。 首を傾げて問いただそうと口を開けた瞬間、酷く冷たいものがオレの頬にぴったりとくっつけられた。 「うわああああああ冷た!!なにっ!?」 「ぷっ、そんな大袈裟にしなくてもいいだろ?気付かない水谷が悪いんだよ。」 「!?―――栄口!!巣山ぁ、気付いてたなぁ!」 「ゴメンゴメン、栄口が言うなーってやってたからさ。」 む、とした顔で振り返ると、そこには笑顔の栄口が、ペットボトルを持って立っていた。 正面の巣山が口に指を当てる動作を見せるから、こっそり通じていたらしくて、まったく心臓に悪い。 苦笑するような巣山に対して、栄口はホントに笑っている。そんなに可笑しかったか、でも、笑顔を見れて嬉しい。 癒される。 って、こんなことしてる場合じゃない。 「そーだ!!こんなことしてる場合じゃないんだよ!」 「ってか水谷さ、さっきどこ言ってたの?オレすごい探したんだけど?」 「…へ?」 「7組行ったら阿部と花井がつい今さっき9組行ったって言うから7組で待ってたのに。」 …じゃあオレはスルーして1組まで来たってことですか。 何で一回覗かなかったんだろう、そしたらここまでの焦りも帳消しになるのに! 一人ごちてみてもしょうがない、今はもう1組に来てしまっているし、栄口も見つけた。 7組まで行かせてしまったことは男として如何なもんかとは思うけど、もうこの際仕方がない。 まだくすくすと笑い声を上げている栄口の肩をがっ、と掴むとオレは声高に叫んだ。 「栄口!次の授業サボろう!!」 NEXT フミキさんは馬鹿と賢いの境界線をうろうろする子。 世界の出番が少なくかつ、9組メンバーが大活躍という。 ハマちゃんがいないのは完全にミスです、完全に頭から抜けていた…; 注訳として、田島は水谷が本気で世界が好きなのを知っていますが、世界が水谷のことを嫌っているではないのは分かってるのですが、何かしら違和感があるような気がしています。 泉は水谷の言ってることは友達の範囲もしくはあくまでも冗談だと思っていたので、カミングアウトにどっきりです。 泉は慣れの申し子なので、たぶんすぐにあぁそんなもんか、という方向に持っていきます。 三橋は二人が両想いなことを知った上に、二人が付き合っていることも知っています。 と、ここまで。 三橋項については次話で触れる予定です。 サブタイトルですが、前話はまんまですが、2話から少し密接になっていく予定。 最終的にはネタばれします。 それではまた次回。 |