夕闇に佇む黒い外観。

淀んだ空気を引き連れて、狂った呼吸を繰り返す。

ぐらぐらの世界、アンバランスな色彩。

逃げることなど出来ない、どこまでもどこまでも。

綺麗な言葉が見当たらない、どこにもどこにも。



けれど君がガラクタという言葉に、迷うなら。

その言葉に覚える眩暈が、痛みであるなら。

君の乾いた地面を潤せるように。

















眩暈もただのガラクタであれば ― There are voices here your arms back ―

















太陽はすでに傾き、光はすでに心もとなく影を作る。
お姉さんを説得したオレは、そのまま栄口の家へと向かった。
みんなは何か思うところがあるって言ってて、部室に残ってる。
薄暮の通りを駆け抜ける姿は人目を引いたが、そんなことは言ってられない。

お姉さんの話では、お父さんも弟くんも、今日のうちには帰らないという。
どちらも明日以降という予定ではあったが、胸騒ぎがして仕方がないのだ。
阿部や田島も同意見だというし、お姉さんが味方についてくれてる今の内に連れだせないと。
まるでドラマのワンシーンだ、忙しなく足を動かしながらふと思った。
誰かの掌の上で踊るような毎日の難題に、悩まないことはなかったけど。
まだ潤んでくる目をごしごし擦っていると、隣にいたお姉さんがふと、声を上げた。





「どうして、貴方は勇人のためにここまでしてくれるの?」

「…どうして、って…。」





そりゃあ好きな人ですから、なんて言えば拗れちゃうだろうか、
でもそうなったら、ちゃんとまた伝えればいいよね。
恋と家族を天秤にかけちゃダメだって。





「栄口が大事だから、です。」

「それは…友達だから?」

「それ以上の相手です、栄口が困ってるの、ほっとけない。」

「…私は…。」

「あっ、でも勘違いしないでください!栄口を取って行ったりしないから!」

「そうじゃないの…そんなこと、考えればわかるはずだった…。」



考えることから逃げ出していたのだと、お姉さんは続けた。
あれだけ淀んだ空気の中にいたら、考えることなんて出来ないのかもしれない。
だけど、これから変えていけばいい。
一度歯車がずれたっていうなら、それが内側からじゃ直せないっていうなら、オレはいくらでも頑張るから。
栄口だけじゃない、みんなに前を向いてほしい。
無茶な願いなんだろうか?理想ばかりを追っていることになるんだろうか。
現実を見てないと、笑われるかもしれないけど。
目の前で泣いてる人がいたら、助けたいのは普通じゃないかな。
たとえそれを笑われても、オレは自分の気持ちを変えたくない。
そんなオレを、栄口は好きだと言ってくれたんだから。





「勇人は、貴方と一緒にいる間幸せだったのね。」

「え?」

「あの子はずっと、水谷くんのことを呼んでいたわ。…ごめんなさい、貴方を…。」

「!いいんです!!オレのことは気にしないで!!」

「だけど…。」

「栄口が大事だからってことで、お手打ち!」

「―――…ふふ、ありがとう、水谷くん。」





やっぱりお姉さんなんだなってくらい、笑顔が似てる。
そんなこと言ったら栄口、ちょっとは気にするだろうか。
大丈夫だ、そう。
ちょっとの油断だって、負ける気はしない。










ようやく辿り着く頃には日は落ち切っている。
なのに家の電気はやっぱり暗かった。
この暗闇の中で、嫌な予感しかしない。
それどころか、家を一瞥したお姉さんが言った。





「…父さんが、帰ってる…。」

「え!?」

「おかしいわ…明日まで帰ってこないはずなのに。」





そんなとき、阿部の言葉がふと頭をよぎった。
全員いないと、意味をなさない。
もしかしてそのために、栄口が呼び戻したんじゃ―――。





「水谷くん…。」

「ここで待ってても、ダメだ…上がらせてもらっても大丈夫ですか?」

「…うん、お願い。」





どのみちお父さんにだって会わないとダメだ。
いろいろ思うことはあるけどさ、お父さんから逃げたって意味はない、同じことを繰り返すことになる。
それじゃあダメだ。
オレだって弱いけど、面と立ち向かわないといけない時に逃げちゃダメなのはわかる。
だから、オレが頑張れることをするだけだ。
静かに開かれた扉の先にある、飲み込むような闇。
一歩踏み入れただけで鳥肌が立ってくるような気がする、こんな冷たいところに、栄口が…。
小さな声でお姉さんが招く、その先に―――。




















「…どこへ行っていたんだ、勇人が探していたよ。」

「父さん…明日じゃ、なかったの…?」

「あの子にすぐ帰ってきてくれと言われてね…。」










真っ暗な部屋の中に一人、冷たい声が響く。
感情の消えてしまったような温かみのない部屋で、この人は何をしているんだろう。
暗闇に慣れた視線の先にいるのは、おとうさん。





「誰だ。」

「父さん、聞いて…彼は。」

「お前には聞いていない、君は誰だ。」





「栄口の、友達です。」










一番適切な言葉を選んだつもりが、思わずへっぴり腰になる自分がいやだなぁ。
それくらい、この人のまとっている空気は怖かった。
今まで積み上げてきた何もかも壊してしまうような、暴虐な雰囲気。
この人が壊してしまったんだ、そうだ、怖いのは当たり前かも。
雰囲気に呑まれちゃいけない、この期を逃してしまえばもうオレには何もできなくなってしまうんだから。





「栄口に会わせてください、このままじゃ栄口は…。」

「あの子はもう勇人じゃない、私の妻として添い遂げてくれると言ってくれた。」






「!!」

「帰ってくれないか、もう君の友達などではない。この家のものだ。」

「父さん…!!私は…!!」

「お前は黙っていなさい、母が帰ってくる、それほど嬉しいことはないだろう。」

「そんなことないわ…!!勇人がいてくれないと、どうなっていたか…父さんはわかってない!!」















「ならお前が代わりになれるのか、母親の。」















なんて言い方だ。
思わず言葉を詰まらせたお姉さんの方を見て、笑う。
冷たい冷たい、感情が見えない。
こんな人の傍にずっといたら、狂ってしまう。

だけど、オレは。






























「ほんとうに、奥さんが大事だったんですね。」





























栄口にお母さんの面影を求めて、家族を狂わせてでももう一度取り戻したい宝石。
冷たさの中に見つけたたった一つだけど、オレにはどうしてもこの人に怒りを向けられなかった。

誰かを大事にしていた。
助けられなかった、そう、この人は本当に優しい人だったんだと、思った。

栄口のお父さんなんだ、何の意味もなくこんな風になってしまうわけはない。

優しすぎたんだ、みんな。
だから苦しくて苦しくて、心を壊さないと前に進めなかった。
こんなことはもう終わらせないといけない。










「…君に何がわかると?結局君も私からあの子を奪う、そうなればこの家は終わりだ。」

「栄口は、家族を助けたいってずっと思ってました。それをオレが邪魔しようなんて思わない。」

「何が言いたい。」

「ありきたりな言い方だけど、お母さんは今、すごく悲しんでると思います。」

「彼女が望んだのはこの家の平和だ、悲しむ必要などない。」

「じゃあこの家は今、平和なんですか?」

「平和になる、これから。」

「…どうしてですか?栄口がいなくなって、それが平和なんですか?」

「それでも彼女が帰ってくる、それ程幸せなことはない。」





失ったとき、あまりにも辛かったんだろう。
オレだって、もし栄口を失ったらこうなっていたかもしれない。
思えば思うほど、痛みが伝わってくる。
悔しかったんだ、だから顔を上げることをやめた。


本当は誰もそんなこと、望んでいないと分かっていても。
今のままでは伝わらない。
阿部や田島がいたらもっとうまく伝えられたんだろうか、自分の無力さが痛い。





誰か、背を押して。
大事な言葉を伝えられる力が、ほしい。

























―――そう、誰も望んでいなかったの。

























不意に。
冷たく凍えた空間に、温かい声が響いた気がして。
息を呑む、けれどここにはオレたちしかいない。
何もない、暗闇しかないはずなのに。
まるで陽光が差し込んだような気がして、唐突に胸の突っかかりが消える。
そう、空間ごとお母さんの腕に抱きとめられたような。










「お母さんが亡くなられる時、自分の子を犠牲にしてまでもう一度貴方に会えることを、いいと思ったんですか?」

「………。」

「きっとそんなこと思ってない、きっと、今もお母さんは苦しんでる。」

「…そんなことは…。」

「自分が起こしたことだと、きっと苦しんでいます。」

「………。」

「もう、解放してあげてください。前を見ないと、お母さんが可哀想だから。」





「っうるさい!!!」










肩が跳ねるほど驚いて、投げつけられる視線を受ける。
痛々しいほど見開かれた目、けれどもう怖くない。










「目を背けないで、もう前を見てください。お母さんの気持ちを抱いて。」










その目が、オレの向こうを見ている。
そこに何があるのかはわからないけれど、空気は微動だにしない。





「………っ。」





小さく息が漏れるような音、何を言ったのか聞こえない。
けれどそのあと、項垂れるようにして座り込み、










「…勇人は…私の部屋だ…。」

「あ…。」

「…出してやってくれ…。」





お姉さんがすぐにこっちを振り返った。
驚きと戸惑いと、いろんなものが混じっている目。
頷いて、部屋を出る。





「これで…よかったんだろう、………。」





後ろから聞こえてくるその声、もうあの冷たさは感じない。
お姉さんに促されるまま、階段をのぼりながらオレは、この先にある光を実感していた。















暗い部屋の中で散乱したシーツの中に倒れこんでいた栄口を見つけて、声をかけるよりも先に駆け寄り触れる。
冷たいけれど、呼吸はしている。
怪我があるかとか、見てはわからないけれど意識がないだけのようだった。
白い頬に手を当てて、小さく声をかける。





「栄口…っ。」

「…っ…う…。」

「栄口…!」

「…みず…たに…?」

「そうだよ、ごめん、やっぱり放っておけなかった。」

「ばか…なんで…父さんは…?」

「父さんの心配ならいらない、もう大丈夫…だと思う。」

「ねえさん…?」

「前を向くって、決めたの…。」





そう言って栄口を覗き込むお姉さんに、今までのあの怖さはない。
お父さんもきっと大丈夫、あの様子なら。





「…水谷、オレの声…聞こえたの?」

「え?」

「…ずっと、呼んでた。諦めたつもりだったのに、ダメで、もう一度会いたくて…助けてほしくて…。」

「栄口…もう、大丈夫だから。」

「…水谷っ…!」





聞こえてたなんて、嘘かもしれないけど。
でも、最初からずっと栄口は言っていた。
だから今更。
すがりついてくる栄口の震える体を抱きしめて、冷えた体に体温を与えるように。
お姉さんが後ろで見てるのは分かってたけど、我慢できるはずがない。
こうしてみると分かる、傷だらけの体。
もうこんなことにはさせない、強く抱き締めなおした、その時。










「―――何を持ってるの…!!やめなさい!!」

「っ!?」





お姉さんの悲鳴に、振り返る。
廊下に立ち、口元を押さえたお姉さんの狼狽した表情。
栄口と顔を見合わせ体を離して、廊下に飛び出す。















「―――つれてかないでよ、おれのかあさん。」










電灯の下でさらされる、鋭い切っ先。
知らない顔、だけど二人の反応をみれば、この子が弟さんなんだということはわかる。
けれど、この子の目は―――。





「だめだ!すぐにそれを捨てて!!オレはどこにも行かないから!!」





栄口が悲痛な声を上げる、けれど、まるで何も聞こえていないかのように彼は歩みを進める。
刃を引く様子もなく、ただ一点だけを目指して―――!!




















「栄口ッ―――!!!!」



























































オレを隠すように躍り出た水谷の表情が、苦悶に変わる。
ずるずると崩れ落ちる体を抱きとめるようにしながら、枯れた喉で名前を呼ぶ。
掠れた水谷の声、その肩の向こうに、赤く濡れた自分の弟の姿が見える。
何をしたかも理解していないまま、呆然と倒れる水谷を見下ろしていた。
姉さんが、水谷の背に触れると、途端に手が真っ赤に染まる―――。

水谷が。
死んでしまう、このままじゃ。

ついにオレの手にまで垂れてくる水谷の血、生温い液体がオレの頭に警鐘を叩きつける。
早くなんとかしないと、手遅れになってしまう。
どれほど深い傷かわからないけれど、水谷の荒い息は危険を知らせていて。
姉さんが立ち上がろうとした瞬間、





「どこいくの、もう逃げないでよ。」

「やめなさい…!こんなことして、どうなるかわかって…!」

「どうも、みんながオレをおいてくなら…みんな一緒に、消えるしかないじゃん。」

「っ!」





だめだ。
なんとかしないと、なんとか。
あの子の据わった目と、水谷の荒い呼吸がオレの思考を狂わせていく。










「栄口!!」










聞き覚えのある声にはっとして、背の向こうの階段に目を向ける。
釣られて振り返ったあの子が、血塗れの刃を向けても動じない、その先にいたのは、









「田島…!」

「…それ、離せよ。いくら栄口の弟っつっても、刃物持ってる相手に容赦しねぇ。」

「アンタもオレから家族を奪うの?邪魔はさせない―――!」





向けられた刃は、一直線に田島に飛んでいく。
けれど、動じることもなく、その手を蹴り払った田島は、勢いのままあの子を締め上げる。真横に、刃が立った





「自分が弱いからって、それを周りのせいにすんなよ。」

「っ…はな、せ…!」

「栄口!水た…!!阿部!!救急車!!」

「呼んでる!!」





田島の声に、階下だろうか返事。
阿部と田島、二人の信頼する人間の声に、オレは安堵とともに焦る。
水谷がやばいんだ、なんとかしないと。
けれど、オレは水谷の体を姉さんに預けて、一直線に組み敷かれた弟の元へ向かう。

その悔みに満ちた顔に、オレは平手を打つ。
ぱぁん、と乾いた音が廊下に響いた。
叩かれた本人だけでなく、それを組み敷いている田島も呆然とオレを見やる。
その二人の視線を受けて、オレははっきりと言い切った。










「母さんはこんなこと、望んでなかった!!オレが言えることじゃない、けどオレたちは逃げちゃいけなかったんだ…!!」

「…っ…。」

「…母さんは、母さんだ…オレに代わりなんて勤まるはずがなかった…!!」

「だけど…!!」

「オレたちは大事なことを忘れてた、母さんは…オレたちがこんなことしてる見て、きっと悲しんでる。だから。」

「………。」

「ちゃんと前を、見よう。」










勢いのまま言い切ると、そのまま項垂れ頭をなでてやる。
歪んでしまったけれど、水谷の思うように、変われるのかもしれない。
弟といえど、恨むわけにはいかないから。

田島が拘束を緩め、そのまま倒れこんでいる水谷の元へ向かう。
もうあの子は放っておいても大丈夫だろう。
落ち着いているように見えるかもしれないけれど、オレは十分に焦っていた。
姉さんが傷口を処置してくれているようだけど、傷の具合はオレにはわからない。
田島は水谷を一瞥すると階下へ向かい、阿部を急かしている。





「…さかえぐち…っ…。」

「だめだ、水谷、しゃべっちゃだめ、お願いだから…!」

「…も、大丈夫だよ、ね…?」

「え…?」

「もう、栄口が…苦しむこと…。」

「っ…そんなこと…!!そう思うんならもう喋らないで…!!」

「ん…栄口…っ…ごめ…。」

「!―――いやだっ…水谷…!!水谷ッ!!」





苦しげながら必死にオレに声をかける水谷が、ついに目を閉じてしまう。
揺さぶりたい衝動を抑えて、声をかけても水谷は反応しない。

遠くに聞こえる救急車のサイレンが、あまりにも遠い。





























































「さかえぐちー!邪魔すっぞー!」

「田島、いらっしゃい。」

「どう?傷の具合。」

「ん、もうほとんどいいよ。酷かったと言っても外傷だけだし。」

「そっか、水谷は?」

「あぁ、水谷なら―――。」





田島を手招きして、部屋を出る。
向かう先は屋上、どうせまた、抜け出しているんだから。



オレ自身の怪我なんていうのは、適切な処置をしなかった為のものでしかなく、古傷が多い。
だから別に入院なんてしなくてもよかったんだけど、大事を取った面々に念を押されて押し込まれている。
それとともに、水谷が抜け出さないようにっていう、お目付け役の意味でもあるんだけど。

あの日から既に一週間、長いような短い時間が経っている。
まぁ、オレの心配なんてなかったみたいに、今水谷は元気にしてて。
あーぁ、大泣きして心配して、オレってばかみたいだなぁ…。
お腹に包丁ぶっ刺されて、一週間で動き回れる体力を疑うけど、それでも元気なんだからどうしようもない。





「栄口、嬉しそうだな。」

「そう、かな。まぁ…嬉しいよ、不謹慎だけど。」

「へへ、よかった。」

「田島達のおかげだよ。あの時みんながいなかったら、さすがにぞっとしてる。」

「そうかな、ま…栄口が元気になってくれて、オレらはよかったからさ。」





そう言っていつもの無邪気な笑顔を向けてくれる田島には、本当に感謝してもしたりない。
ずっと心配をかけていたのが分かっているだけに、どうにかしていつかこの恩を返したいところだ。
階段を上り、ここ最近で通いなれた病院の屋上へ。
柵にのしかかってぽかんと間抜け顔で空を見上げているその背中に声をかける。





「水谷!」

「…っあー、びっくりした。栄口、と田島?」

「お前なぁ、病室抜け出して何してんだよ。重症のくせに。」

「動けるし、痛くないから平気だもん。」





振り返った水谷が、太陽の下で笑う。
こんな幸せなことがあるのは、田島やみんなのおかげだし、何より水谷がいてくれたから。

ぎこちないけれど、昔を思い出すようにゆっくり回りだす歯車。
あの日から少しずつ、みんな前を向いて歩いている。
母さんの面影を抱いて、けれど振り返らないように。

田島はオレ達の容態を聞くとお邪魔虫はさっさと帰るとか行って、すぐに屋上を出て行ってしまった。
二人、屋上に取り残される。
晴天の下、いつか二人で授業をサボった、あの時のような清々しい時間。





「弟がさ、水谷にちゃんと謝りたいって。聞いてくれる?」

「もちろん、いつでも来てよ。みんな…落ち着いたのかな。」

「うん。まだまだたくさん問題はあるけど、とりあえずね…。」





自然と、水谷の手が触れる。
もう何を我慢することもない、添わされる手をただ受け入れる。
温かい指先、水谷らしい白さに溢れていて。





「…水谷、ありがとう。」

「うん?」

「今、こうやって一緒にいられるのは水谷のおかげだよ。」

「…そうかな?オレ、ずっと泣いてばっかりでなんにもしてないよ。」

「でも助けに来てくれた。オレができなかったこと、いっぱいあって…でも水谷はその壁を乗り越えてくれた。」

「そんなに褒めないでよ、…なんてかオレは…みんなに諦めてほしくなくて…何したかよくわかんないしさ!」





必死にそういう水谷が、本当に水谷らしくておかしくて。
声をあげてわらったら、一緒に笑い声を響かせる。
諦めなくてよかった、水谷を好きになって今、幸せだから。










母さん。

何かに怯えていた夜は、終わりました。

笑顔の悪魔も消えてしまって、彼を信じることが、何よりの「大丈夫」。

卑屈な言葉も忘れてしまった。

ずっとずっと追いかけてくれる彼の、腕が、声が、背中が。

全部全部ここにある。



この眩暈はもう、ガラクタではないのだから。






























眩暈もただのガラクタであれば

 ― どうかこの晴天に、幸あれ ―







END
























ほんの些細なことで意欲を削がれ、もう諦めてしまうおう。
そう思って、閉鎖をした矢先にここに更新をしてしまったこと、まずは許してください。
本当にこの眩暈、完結させるつもりがありませんでした。
理由は本当に些細なことですが、自分の気持ちに正直な結果。
一度は逃げたのになぜこうしたか、単純に、書き上げなければ栄口は…
この話の中で結末を迎えられなければ、どうなるのかもわからず暗闇に放置となります。
呆然と今を送っているとき、ふと、そう思ってしまって。
この長い間に、少なくとも私にとってはですが、大分、文章の書き方などが変わってしまいました。
14話から違和感があると思いますが、なんとなくにでも伝われば。
…こうして、眩暈はようやく結末を迎えられることができました。
本当にうちの水谷は水谷らしくないし、田島や阿部は出張るしでなんとも言えません。
水谷一人の力ではどうしようもなかった、その素直さが栄口を救ったんだと。
若干、ありきたりな展開になってしまったような…気もします…。
実は、鯨と同じく、こちらも曲をモチーフに作りました。
眩暈で探すとたぶんすぐ出ると思います、歌詞も大分混ぜてあるので。

最後に、閉鎖した後にも関わらず、ここまで長いお話を読んでくださった皆様。
本当に感謝で言葉もありません、今後、振りで活動すること…ないと思いますが、眩暈を書き上げられたのは一重に皆様のおかげでした。
ありがとうございました。