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早く過ぎればいいのに。 大丈夫といい聞かせる時間も惜しいから。 流れていけばいいのに。 耳を付く鳩の声、もっともっと早く。 鳩時計 暇でないなら何をしていたんだ? そんな言葉、聞きたくない。 奥底で叫んで見たって変わらない、笑顔の下にある本音。 引き絞られる目は笑顔じゃないんだ、睨まれているんだ。 あぁ、なら今度は何をしたらいいんですか。 ごめんなさい、すぐにやります。 何を?やることは山積みで、頭が追い付かない。 どうしよう、どうしよう。 大丈夫と言い聞かせるには、鳩の声がうるさくて。 やれることは自分でやりなさい。 言われなくても気付きなさい。 必要以上のことをやりなさい。 身を粉にして笑いなさい。 鳩の声、どこまでも。 窓を開ければ蝉の声が聞こえるはずなのに。 壁に預けた心が動かなくて、どうしたらいいんだろう。 ぐるぐる回る視界が時間を曖昧にさせて、心が溶けていく。 握りしめていた何かが床に落ちていったけれど、そんなことどうでもよくて。 鳩の声がうるさい。 時間を告げる甲高い音。 煩わしい声、カラクリを壊してしまえば声は止む? けれど放っておけばいい。 床に倒れ込んでしまいそう。 けれど身体は動かない、動かなくていい。 鳩の声が鳴りやまない、鳴り止んだらいけない。 その時にこうしていたら、また怒られてしまうから。 鳩の声が煩わしい、壊れてしまえばいいのにと。 かたん。 遠くで音がする。 ゆるゆるに溶け切った視界はそれでも、まだ日が落ちていないことを教えてくれる。 誰だろう。 何かが来た。 鳩の声が遠く聞こえる。 小さく小さくなっていく、消えてしまったら起きなくてはいけなくて。 顔を上げないと、けれど身体は動かない。 「また、こんなことして。」 柔らかい声が。 して、けど首が動かない。 眠たくて仕方がない、鳩の声が聞こえない。 「飲んじゃダメって言ったのに…ねぇ…聞こえてる?」 「……ず…た……。」 力の入らない脊髄が、けれど顔が見たくて。 顔をあげたら、眩しい茶色の髪が揺れていた。 「聞こえてる?あぁ…よかった、生きてる…?」 「ぃ……て…る…。」 「…話せる?」 わからない。 鳩の声が止んでしまったら、時間が分からない。 分からなくて、けど唇が動かないから、首を傾けてみる。 柔らかい指が髪を撫でつけていく、心地よさに抱きしめてほしくて、正面の胸元に倒れ込む。 「ここにいるのはよくないよ、ねぇ、動ける?」 「…や…む…り…。」 「ん、連れてったげるから。」 ぐらぐら揺れる。 イヤだ、どこにも行きたくない。 抱え上げようとしているらしい腕を振り、拒絶してみる。 部屋へ行ったら、鳩の声が聞こえない。 そうしたらまた怒られる。 「栄口、ダメだよ。」 囁かれる声はどこまでも優しいけれど。 ついていきたくなる言葉は全部幻で、取ってはいけない悪魔の手と、いい聞かせられて。 ここを出ていく言葉はすべて嘘だから、どうかその手を引いてください。 動かない体で壁にすり寄る、冷たい壁は何も答えないから、嘘はつかないから。 ダメだよ、嘘の言葉。 信じていいのは鳩の声、身を粉にして笑いなさい。 「ねぇ、これもう飲んじゃダメだよ。」 摂取量が多すぎるよ、遠い声。 ようやく唇が触れた。 「…苦…どれだけ飲んだの?ねぇ、まさかここに投げてある分全部?」 心地よさに負けて、もう一度ねだるように寄りかかれば、制されてしまう。 飲んじゃダメ、ダメ、ダメ、ダメ。 まるで同じだ、結局何が正しいのか分からない。 もう、いいよ。 鳩の声だけ信じていれば、間違えはしないのだ。 どうかもう放っておいて、また鳩の声だけ聞いているから。 「ほっとい、て…。帰って…。」 「…。」 「も…いいから…なにも知らないくせに…ここに来ないで…。」 「…ダメだよ、栄口、これ片付けるよ?」 「いいから…どっか行ってよ…関係ないだろ…帰れよ…!!」 零れだした声は止まらない。 止める必要なんてないんだ、歪んだ幻なんか消えてしまえばいい。 「帰って…もう帰って…!ここに来ないで…!なにもしらないくせに助けようなんて大仰だ…!!」 「栄口。」 「どっか行ってよ!!ここに来ないで!!邪魔しないで!!」 「栄口…。」 「…何も知らないくせに、返して…鳩時計、つけてよ…。あれがないと何もわからないんだ…。」 急くように、引っ掻くように。 返して、音を。 あれがないと分からない。 身を粉にして笑いなさい、意義がなくなってしまうから。 「ねぇ…返して…あれがないと、分からない…!」 「…っ…。」 「返して…。」 何をしていたの? ずっとここにいながら。 また何もしていないの? 望めない子だ。 何をすればいいのかもわからないの? 怠惰に染まり切った時間はそんなにも心地がいいか。 鳩の声を教えるから、その通りに泣きなさい。 何も出来ないならせめて、言葉通りに動きなさい。 「返して…!返して…げほっ…かえし…。」 「…これ?ねぇ、もういいんだよ。」 「よくない!!お願いだから…!!返してよ!!」 「だめ…。行こう、ここにいなくていいから。」 鳩の声が。 聞こえない。 錆びたきしきしという音が、耳鳴りに変わる。 「…もう、いいんだよ。」 「よくないよ…ダメなんだ…お願い…。」 手を握って。 そうしたら鳩時計を返して、いつまでも泣き続けなくてはいけないから。 役目も果たせない子に望まれた、唯一の救いだから。 1000年泣いたら飛んでおいき。 鳩と一緒に消えてしまえ。 だからだからだから。 不意に。 握った手の感触が。 「ここにはもう、いないから。」 「…ぇ…。」 「行こう、ここにはもう、誰も帰ってこないよ。」 かさついた手。 ぬめついた感触。 握った手が、とても冷たくて。 「行こう。」 強い力で握る。 何も分からないまま、抱きしめられる。 鳩の声、もう聞こえない。 何処からもしない、嘘の言い付け。 どうしたら、貴方はいい子と言ってくれるんですか? 引きずるように立ちあげられて、手を引かれた。 拒む理由はもうないから、繋いだ手を離さないように。 「もう、飲まないでいいからね。」 「…どして?」 「眠れないなら眠らなくていいよ、鳩の声しないから。ね?」 「わからない、何で…。」 「いいんだよ、眠れなくても、栄口はいい子だから。」 鳩時計を踏みつけて、歩いて行く。 習って、飛び出して無機質な鳩の顔を踏みつけた。 言い子だから、その言葉を反芻して。 鳩時計―――繰り返しの声、いい聞かせる母のたおやかな暗示。 END 突発的すぎる。 一体何なんだろうね。 なんなんだろ、なぁ。 |