必要とされるとは何か。
望まれるとは、何か。
それはのうのうと生きていく学生が考えるには、少し早い問題なのかもしれない。
しかし一度気になってしまうと、不安は肥大化して心を蝕む。
哲学者や心理学者を気取りたいわけではない。
それは、欠如に対する補完を求める傲慢な望みだったに過ぎないのだから。

いてもいなくても変わらない。
言葉の軽薄さに、笑いたくなってしまう自分はきっと、達観よりも酷い位置に立っているんだろう。





エンターテイナー






なぜひょうきんであり続けられるか。

笑っていてほしいから、聞かれればそう応えることにしている。

その実それが間違っているとは言わない、人が笑っているのを見ているのが嫌いなわけじゃないし、たぶん好きではある。
おもしろおかしなことをして、人を笑わせて。
優しい顔をしていることも、嫌いではない。
喜んでもらえること自体に抵抗はない、自己犠牲心にも溢れてはいるんだ。
つい、そんな道を選んでしまう。
安易な返答、適当な応対。
優しい顔をしているのが楽だから。
結局は自分本位であることを、どれくらいの人間が知っているだろうか。

きっと、誰もわかってはくれない。

ある時、唐突に思った。
そのひょうきんな態度は、誰の心にも残らないということ。
いくらその一瞬が衝撃的だったとしても。
いくらその一瞬が、輝かしいものの渦中にあったとしても。
一瞬。
一瞬だ。
誰の心にも残らない、その必要度合いは、絶望的だ。

例えばエンターテイメント。
いちいち覚えている人間がどれ程いるのか。
それは必要なものか。
そんなわけはない、心にゆとりこそ生まれても、そのおかげという人間はいない。
必要だと言われるエンターテイナーは、一握り。
人の心に残らない確立の方が高いに決まっている。
それこそ、海に向けて小石を投げるような的確さで、確実に。

その恐ろしさに気づいたのは何時だったろう。
どうせある日の夜、一人で絶望していたんだろう。
自分のことは基本的に、覚えていない。
どうでもいいことは覚えていられない、人のことばかりに関心を向けて。

自分が空っぽ。
ある日絶望して、ある日恐怖して。
今ここにいる。
空っぽならば何かで補完しなければ。
欠如は何かで補って、誰かの心にいなければ。


その中でオレは、優しさと傲慢を選んだ。





「それが一番だと思ってた。」

「………。」





そうしていくうちに、自分の境界線が曖昧になっていっても。
必要とされているならば、それでいいと思ったから。
だけど。






「だけどオレは。」

「…いてもいなくても、っていうこと?」

「そう、いてもいなくても変わらなかったんだよ何も」









オレがいなくても世界は回る。
哲学だと、屁理屈だとわかっていても。
結局オレに何が出来る。
ここにいて、何をしたら必要と思ってもらえる。

誰しも必要としているのは、真実の姿ではないのに。

笑ってればいいんじゃないか。
本心とかけ離れた自分を演じ続けた罰。
曖昧さに逃げて、本来の自分を隠し続けた結果。
誰も本当の自分を認めてくれなかった。
羊飼いの3度目の嘘。
真実を叫んでも、誰も信じてくれなかった。
ひょうきんで、あまり悩みがなさそうで。
元気。

たぶん、壊れた。
誰も必要としない。
本当の自分を探し出そうともしない。
高望みはあくまでも傲慢であり、見せることの出来なかった自分が悪いことであって。
それでも悲しかった。





どうしたの?何か悩みでも?

――――何もないよ?ちょっと眠たいだけとか、そんな感じかなぁ。



あぁ、それっぽいよね。
なんだ、気を使わせないでよ。







「そんなこと言われてさ、笑ってられる人間っていないでしょ?」


「…それは…。」


「だからオレはもう気が触れてるんだろうなって思ってる。」


「………。」


「言葉遊びじゃないんだよ、オレは本当のこと言ってるだけ。」



 


もう自分のことを考えるのはやめよう。
人の心に残らないなら、それは自分が悪いだけだ。
ひたすら犠牲に立たせて、二度と立ち直れないくらいになって。



死んでやる。

そう思った。
何時の間にか誰も知らない人間になって。
気づいたら死んでいた。
それでいい、それがオレの傲慢。
自分の生ですらもはや興味から消えうせた。
何が興味あるものか?
何もない。
全部全部どうでもよくなった、無気力なエンターテイナー。

ただ一つ残る恐怖心に突き動かされて、糸の動くまま笑顔でい続ける。
幸せ、充足?馬鹿馬鹿しい。
望んだところで応じてくれる人はいないし、止まれない所までたどり着いてしまった。

壊れている。
これ以上正しいものなんてない。
何時いかなる時も笑い続け、究極に前向き。
恐怖に怯える自分を完璧に隠して、踊り続けるエンターテイナー。
ヘルプコールは聞こえない。
一人の叫びは届かない。
発してすらもいないから。
助けの呼び方も忘れたエンターテイナー。

だって何もかも、どうでもいいから。
気が触れている。






笑い続けていることの辛さを、誰も理解してくれないから。







「してほしいなんてもう、二度と言わないよ。」






理解してくれないだろう、笑い続けることの必要性を。
価値観が違うから。
踏み込んでいい領域以上、誰にも踏み込ませない。

諦めてしまったから。





「…オレも、ダメ、なの?」

「うん。オレは栄口のこと好きだけど、根本的に人を信じていないから。」

「…っ…。」

「信じている自分と、信じていない自分と。」





追い詰められて結局、その折その折で顔を変える。
無意識に。
あまりにも哀れな行いに、早く消えてしまいたいと思うほど。

自分で自分が大事で、大嫌いだ。





「オレなんかいてもいなくても結局は同じ、その程度のものだから。」

「…でも、それ本心なんだろ…?オレには…。」








「話たところで、栄口に何が出来るの。」









「っ。」

「そういうこと、だからそんなこと考えないで、栄口はオレの馬鹿で笑ってくれてればいいんだよ。」







そうして死んでしまったとき、みんなでオレを馬鹿にすればいい。
望み高き哀れなエンターテイナーに。




栄口は顔を覆って泣き出してしまったから、オレはまたいつものように、笑った。
どこまでも脆弱で、愚かな笑顔で。

背をさすりつつ、笑う。
伝わるはずもないだろう、本当は、ただ、―――。





エンターテイナー―――道化が朽ちれば灰は笑う。








水栄だけど、なんの話とも関連ない。
水谷を病み化したらこんな感じかな、という脈絡のない突発病み化。
なんとなくだけど、花井と水谷の中間に近いと思う。
私。