夢を見た。



快晴の下、満開の花びらを天に向けて佇む黄金の花が。



その根元で眠る、傷ついた小さな―――。











とある群青のクリミナル










燦々と照りつける太陽の日差しが、弱まり始めた8月の終わりのことを今もよく覚えている。
間近で見ていたオレには衝撃的な映像で、去る轟音をただ聞いていた。






何も出来なかったオレを許して!!





陽光照りつけるアスファルトの上に横たわる、無垢でいて、無邪気な。
噎せ返る鉄のにおいに、広がる赤い絨毯に。
駆けよることも出来ず、一瞬、現実逃避に没頭していた。
小さな呻き声に我に返って、躯に触れようとして。




夢はいつも、向日葵の下で終わる。





















夏の日になると思いだす、と共に憂鬱を運ぶ。
昼飯の買い出しに、泉と太陽の真下に踏み出して、まだそんなに時間が経っていない。
買い出しにいくのはいいんだ、泉と二人っきりで、幸せ。
人目も気にせずに指を絡めて、暑苦しいのに離せない。
至福とはいえ、だけど、





「…田島?どうした?」

「ぁ、いや、なんでもねぇ、よっ…。」






そこは白昼夢。

覗き込むように首を曲げる泉に無理やり笑んで、でもそんなことしたって無駄だってわかってる。
オレの足はこの先に進むのを拒むように、全然動かなくなってしまっているのだから。

馬鹿なことだとは思う。
もう何年前だ?
その道に今もあるかどうかなんて、わかりはしない。
夏場はずっと通ってないから、今もどうかなんて知らない。
買い出しは今まで勝ち続けてきたのに、どうして今日に限って負けてしまったんだろう。

その先はオレが犯した小さな罪。

思い出すだけで肌が粟立つ、吐き気がする。
震える足は立ち止ったまま、一向に動かない。
馬鹿、止まってたって仕方無いってわかってるのに、ただわかっているだけ。
認識に行動は伴わない、だって、行きたくないから。





「田島、休憩終わっちまうだろ、どうしたんだよ。」



「な、んでも…っ…。」










息が切れる。
泉に心配ばっかかけて、そんなことしてたいわけじゃない。
顔をあげて、大丈夫って言って、行こうって言って、この道の先を―――。

オレが動くより前に、繋いだ腕が引かれる。

強引な動きに慌てて顔を上げた泉の顔が、やたら冷たくなっていることに今更ながら気付いた。
話さないことを、泉は嫌う。
何も言わないでいては理解できないことを何よりも理解している。
隠し事はしないでいるのが常のことで、泉だから話せないわけではないことを、伝えるべきだった。
強張った足が引きずられる、オレの意志を無視して、歩いて行く。
止まらない目眩に息を上げて、それでも繋いだ手を離すことが出来ない。

顔を上げれないまま歩いていたオレは、唐突に泉の背にぶつかった。
何事、と、思う前に脳が警告する、



見てはいけない。

























「―――向日葵だ。」

























だけど泉の声は、オレの視線をそこへ向ける。

電柱の下に、群青の空に向いて咲く、黄色の大輪。
綺麗な花が、だけど、オレの視界を極端に歪めていく。
ぐらぐらと揺れる世界。

どうしてまだ、そこで咲いている?

動くことすら出来ずに呆然とそれを見つめるオレを、ようやく泉が振り返る。
これか?とでも問いたげな目が、オレを捉えていた。

繋いでいた手が離れて、泉の指が、向日葵を愛でる、その様に―――。













「…さわんなぁっ!!」















昨日も今日も見続ける、罪悪感の夢。
 
フラッシュバックする、―――とある日の事故。

その姿が、泉と重なる。


向日葵を離れた泉の手が、オレの背をゆっくりと撫でる。
叫んで、頭がぼやける。
荒くなる呼吸を落ち着かせて、泉のために口を開く。

















オレが小学生の時に、この道で、この電柱の、向日葵の前で、轢き逃げがあった。
轢き逃げというにも、その相手は小さな、子猫だったのだけど。
小学生の、確か、5年。
オレという人格が出来上がるよりも以前の、曖昧な心が受け止めるには、あまりにも過酷な映像だった。

蒼い蒼い車が、飛び出してきた小さな身体を、弾き飛ばす。
唸りを上げて走り去っていく車の数字が、頭の中に叩き込まれていく。

弧を描いて飛んで行く身体が、骸に変わる瞬間を目の当たりにして。
焼けたアスファルトの上に横たわる、子猫の体。
ぴく、と弱々しく動く、少しずつ命を削られていく。
まだ死を知らないオレは、その子猫の傍に駆け寄って、どうすべきか、どうしたらいいのか、何もわからなくて。

にぃ、にぃ、と弱々しく嘆く子猫の瞼が、震えて震えて、唐突に、止まった。

アスファルトに広がる赤い血と、噎せ返る死の匂い。
何をしたらいいのか、どうしたらよかったのか、小さな体を抱きあげて、






命の絶える瞬間を、間の辺りにした。







オレは結局、どうすることも出来なくて、怖くて。
向日葵の下に子猫を置いて、逃げ出した。

何も出来ない弱小なオレが、助けられたかもしれない命を消してしまった。



何でこんなにも不条理だったのか。

何故この向日葵は、子猫を助けてはくれなかったのか。





逃げ出したオレを、きっと許しはしないだろう―――。

向日葵は知っている、オレが、臆病者の犯罪者だということを。






















原罪を忘れることすら出来ず、ただ心の奥底に沈めることで忘れていた振りをした。
だけど結局は今もオレの心に確かに存在し、周期が巡り来るたびに、悪夢に苛む。
向日葵はオレを、臆病者の犯罪者だと、今も責め続けているはずだから。












たったそれだけのことに、いつまでも怯えるオレはやっぱり犯罪者。
忘れられない罪の意識に、今も荒む息が止まらない。

泉はただ何も言わずオレの話を聞いて、いつの間にかまた、手を握ってくれていた。
熱いその手が、消えてしまったらと思うと、叫び止めなくてはいけないと、思った。
目尻に浮いた涙を泉の指が弾き、その手はそのまま離れていく。
ぼんやりと泉の行動を追えば、また、向日葵に触れる。



ふ、と目を閉じた泉は、

黄色の花弁に唇を落とす。












「田島、」



「…っ!」











「もういいよ、ってさ、お前は悪くないから。

その子猫も、お前のこと恨んだりしてないから。」




「…な、ん…。」










「お前が悪いんじゃないよ、田島、おいで。」









差し出された泉の手を取ると、オレの指が、向日葵の花弁を撫でていく。
薄らと温もりの灯る、花弁。
このぬくもりは、いったいなんのものなんだろう。

子猫の温もりも、吸い上げて、今も咲いているんだろうか。





「子猫の分、コイツが咲くから。―――悠はもう自分を責めんなってよ。」





群青をつく大輪は、オレと背丈が変わらない。
あの頃の花と同じものなのか、その判別はつかないけれど。
もしもあの時の花と同じものならば、

どうか、長く咲き誇れと願い、口付ける。



だけど、苛む罪悪感を忘れることはない。
オレの罪は決して、一つじゃないから。

田島は馬鹿だなぁ、泉はそういって、オレの手を取る。





オレ達が道から消えた後、そこには一柱の電柱と、群青の空に映える大輪の向日葵だけが残されていた。






とある群青のクリミナル―――幼さ故の無邪気な罪を、君は許してくれますか?












なんぞ!
泉攻め月間が終わる、ということで、何か書かねばと思ったら…なんか変なものが…。
といいつつも、家の田島の根幹だったりします。
小学生の時この事故を目の当たりにして、賢い田島はナンバープレートの暗記をするわけで。
初犯が小学生っていうのもすごいけど、中学になるなり受難の日々が続くので。
→そして鯨フラグが立つというね、鯨に繋がらないにしても、この事故云々は私が書く田島の根底。
泉攻め月間の家にかけてよかった!花田じゃ出来ないし、秋だから!←