悲しみの中に、一艘ポツリとゆらゆらと。
紅い花弁ポツポツと、ひらひらと。

だけどそこに、意思があったのか。

















ブーゲンビリア


















だけどそこに、愛はあったのか。
どんなに愛して接しても、それは実にも花にもならなくて。
切ないほどの赤色、だけど優しくやわらかく。
あなたの傷痕はこんなにも、幼くてどうしようもないのに。

なんて。
腫れ上がった細い手首、火に焼けた肌の上を走る、爛れた赤。
悩ましく誘って、だけど絡まったら引き裂いて潰されて蹴落とされる。
愛しい首筋、唇を埋めても、幽かに動く呼吸だけ。

リアルな重さに潰れて今日も、灰になって海に帰る日を待ちわびて。
一緒に行った海は綺麗だった、釣り上がる目を、優しく伏せさせてしまうほどに。
暗い目に透きとおる海、幾重もの傷はただ、痛みをも乗り越えて。
塩水に、傷を埋める。
仕草はとても愛しくて、首筋から顔が話せない。
唇を這わせても、もう反応なんてないから。

海に向って、ただ伸びる視線。
その先に何があるかなんて、ただの人間には分からない。
咲き乱れるブーゲンビリア、赤い花は夢を見せる。
おとぎ話は甘くて甘くて、塩水には似合わない。





「―――気持ち、ぃ。」

「…染みねぇ…?」

「あちぃから、ちょうどいい。」





ただれた肌。
嘘はいつか、真実に。
田島のそれはあからさまな嘘だったけれど、だけど。

じくじくと溢れだす赤色の、痛みの形。
その傷さえ、愛おしげに。
自分がつけたものだけか、だけどその腕にはずっとそうして、それだけがあるから。
何も残らない、ただ新旧問わない赤い道だけ、そこにある。

思い出は残らない、全部全部灰にする、そう、田島は言ったから。
なら出来ることは何もなくて、ただ田島が望むまま、海に返すだけ。

そして灰になった、この体を。
オレの体は、田島が連れていってくれるだろうか。
紅い赤いブーゲンビリア、綺麗なだけの魂じゃ、きっと何も出来ないから。
だから、こうしてちゃんと、抱いている。
田島の体にくっきり、痕が残ればいいと思うほど。
残ればいいのに、あんな奴の、汚い痕ばっかり、田島を埋め尽くして。
腹を抱く手に力を込めれば、呼吸の詰まる音がした。
潮は満ちていく、染みていく海水は、いわれのない傷をじくじくと痛める。
傷なんてもってないのに、これから出来るだけ。
何も失ってない、ブーゲンビリアの花弁一枚すらも。
今この手には全部ある。





「赤い花、似合うな。」

「ばぁか、オレ、女じゃねーんだぞ。」

「いんだよ、別に。」





ただそう思っただけだから、田島は何も思わなくたっていい。
ようやく見えた活路すら、愛せば愛すほど張り詰める。
結局その糸すら、絡まりすぎて、爛れていった。
艶やかに濡れる赤色すら、だけどそれが田島の色なら。
どんな花よりずっと綺麗に見えるもの。
愛しい赤色、まるで迷い込んだ樹海のように。

声が届いたなら、田島。
願いが一つ叶うなら、なぁ、一緒にアイツを消してしまおう。
そうすればこの夢は守れるから。
大事なものは全部守れる、アイツだけ、アイツさえ消えてしまえば。

だけど、田島がいなければ、アイツだって。

そんな同情が無駄だって分かってる、溢れ出る憎しみだって。
もう手遅れ、固い意志は決して破れない。
アイツの言葉だけが、田島を救えたのに。



魂の色、ブーゲンビリア。
田島の生き様を、その艶やかな色に載せて魅せて。



耳の上にかかる綺麗な赤、服が濡れるのは構わない。
塩水に皮膚がボロボロになろうと、田島がここにいるのなら、オレは何処にも行きはしない。
いいじゃないか、この赤は田島のためにある。
魅力に溢れる、情熱の愛。
なんて、カッコつけたって。
結局飾り言葉じゃ届かない、赤色は冷えたくすみに閉ざされて。
艶やかでありながら、冷たいまでの色。

ブーゲンビリア、どうして“それ”を奪っていった。
問いかけたところで、意思もないただの花弁に、オレの疑問は解せない。





「なぁ、まだ、好き?」

「誰を?」



「―――人を。」












「だいっきらい。」
















あぁどうして、ブーゲンビリア。
海に返すことすら出来ず、ただ失うだけではないか。

だけど。
それで構わない、それが田島の結論だから。
いずれは空に舞う、その空はいつか、海に繋がる。
なら空が一直線に海に向かうように。
酸素の海で溺れてしまわないように、田島のために。

どれだけ絶望しても、大丈夫。
オレだけは絶対に、田島を裏切ったりしないから。

ボロボロの腕、赤い傷。
塩水に煽られて、痛みはとっくに飽和してしまったんだろうか。

ひた、水の音だけが耳を付く。
田島の冷えた体は、今日も一向に、熱を灯すことはなかった。







ブーゲンビリア―――アナタという、存在。












超今更ながら鯨ネタ、飛び降り決意直前くらい。
というのは完全に後付けで、ぶっちゃけ鯨でなくてもいい。
どうも泉田にしようとすると、報われない度が異常です。
酷い男の代名詞は花井。