4. 階段にて仕返し




最悪だ!!
大声で叫んでみても、あまりの説得力のなさに自分が脱力してしまう。
何が最悪だ、頭が混乱する。

言われた通り、なんで抵抗しなかったんだ。
足は動かなくても、手は自由だったじゃないか。
それ以前に、なんで言われることに従ったんだ。
信じられない、馬鹿だ。

自転車を忘れて帰るほど、動転してる自分が嫌だ。

きっとこの真っ赤になってしまった顔も、花井はばっちり見ていたに違いない。
走って家に帰って、やること済ませてさっさと寝た。
朝練にはちゃんと出たが、泉と三橋が来るのを待ってからグラウンドに入る。
早く行けば、花井がいる。
そんな気まずい空間には耐えられない。



花井が目を閉じるのに合わせて、閉じて。
花井にはわからなかっただろうが、自分から少し、頭も傾けた。
エロ本なんかでしか知らない、キス。
花井と、してしまった。

あの状況にあって、頭の中を掠めたのは、望むところだという言葉。
振り払う余裕もなく、自分からも動いてしまっただなんて。

繰り返して言うが、花井のことは嫌いじゃない。
何度も言うが、嫌いじゃない。
嫌いなら前、自分から誘ったりしない、成長してほしいなんて思わない。
構わない。

まだ、受けて立つ気にはなってなかった。
自分の気持ちと。
あんなことされたら困る。
本当に、困ってしまう。



「で、流せなくて逃げて来たんだ?」
「…うん。」
「いろいろ疑問点はあるんだけどさぁ、まず素直ーに従ってるとこが一番不思議。」
「自分で思う。」
「だろうな、まだ遊ぶーとかほざいてたんだから。」
「…おぅ。」



興奮すると寝れないというけど、そうでもなく。
昨日はすごく興奮してたけど、夜は寝れた。
朝練が終わってからも、授業中は普通に爆睡、体は正直。
でも、今日は昼休みを利用して相談事、珍しく寝ていない。
話しているうちに、鮮明に思い出してくるからだろうか?
どちらにしろ、今はなんだか顔も熱い。



「た、たじ、田島くん、顔、真っ赤っ。」
「うー…だよな、自覚ある…。」
「うーわ、青春。」



浜田は教師に呼ばれていて、今はいない。
何かあれば大概のことは二人、おもに泉に相談している。
浜田がいるときは気まずさからこんな話をすることはないが、三人になると別だ。
三橋はこういう話の際聞きに徹しているが、以外といい返答をくれる。たまにだが。
こういうとき泉は頼りになる、なんでもそつなくこなすというか、そういうところがカッコイイ。



「何にせよさ、花井で遊ぶってのをやめるのが一番だと思うぜ?」
「…やだ、認めたくない。」
「それはもう認めてるもトーゼンなんだって。」
「花井は男だし、…。」
「んなこと気にして襲ってくるかよ、花井もその気なんだろ。」



自分が意地を張っているから花井が進まないというのは分かるのだが、嫌なものは嫌だ。



「今更…同性どうのを考えてるとこじゃねぇだろ、カミングアウトされたときはびびったけどな。」
「したっけ?」
「“男が好きなわけじゃないが、花井が”云々。」
「ウンヌン?何だそれ?」
「そういう感じのこと話しただろ?」
「うーんと、言った、ちょっと前?」



覚えてるけど。
自分から言った、助けてほしかったから。



「お、オレ、も、もういいって、思う…っ。」
「…三橋?」

「花井、くん、迷惑してない…阿部くんが、言ってた!」

「…阿部が?そんな話、いつしたんだよ?」
「昨日の、帰り。二人来なかったの、阿部くんに聞いた。」
「へぇえ…。」
「っけど…そんなん阿部に聞いただけで、花井がホントにそうかなんてわかんないだろ!」
「う、ぁ、で、でも、お、オレだって、そう思う!」
「…ぁ?」
「花井くん、迷惑じゃ、ないっ。」



何を根拠に。
と、三橋に言うのは酷なような。
というより、聞いてしまって、ホントにそんな決定的な何かが返ってくるのが怖かった。



「んー…三橋の言うことはよくわかんねーけど、とりあえずお前が今出来るのは仕返しくらいだな。」
「…んなの、しねー。」
「ま、田島がかわんねーってなら、どうしようもねぇんだけどな。」
「う…。」
「第一、認める認めないも何も、俺らにこんな相談持ちかけてくる時点でもう決まってんじゃねぇか。」
「んなことはっ…!」
「嘘つけぃ、女かお前は。」
「女じゃねーっ!!」
「あーあーわかった、げ、貴重な昼休みが終わるじゃねぇか…次は…。」
「か、化学、移動、上、行く。」
「ギリギリまで寝てらんねぇのか…時間も時間だし、移動しようぜ。」
「「おー!」」



そんなことは分かっている。
ただ、自分が自分の気持ちを向き合うのを嫌がっているだけで。
まるで女のようだというのは、自分がよくわかっている。
聞きわけが悪いだけ、わかってはいる。
教材が詰め込まれるだけ詰め込まれた机の中から次の授業の、教科書だけ引き出した。
ノートは面倒だから、あとで誰かに見せてもらう。
また寝よう、一つあくび。



「あ、阿部。」
「おー、何?お前も移動?」
「あぁ、お前らも移動?化学か。」
「そ、…一人?花井と水谷は?」
「水谷は放置したから…3組で飯食ってんじゃねぇのか?花井は便所。」
「!泉、早く行こーぜっ、遅れるだろ!」
「ダメ、田島。いい機会だから今ここで見せてみろ。」
「なんの話だ?」
「阿部には秘密、すぐわかんじゃね?」
「俺で遊ぶなあっ!!」


「廊下の真ん中で何してんだよ、お前ら、邪魔になるだろーが。」



最悪だ。
阿部の背後から現れる、メガネ、背の高い、タオル。
逃げられなかった、内心毒づいて三橋の後ろにこそこそろ移動するも、泉に首根っこを掴まれて逆に前に出されてしまう。
特に何も気負った風のない顔、昨日まで、穴が開くほど見てきたくせに。
どこに視線を向けていいかわからず、阿部のほうへ。
―――こっち見んな、という口パク。
相変わらず酷いやつだ!
そろ、と視線を下げ、それからゆっくり見上げる。
困ったような、笑顔。
一瞬、心臓が跳ねる。



「次どこ?」
「あーっと、俺ら視聴覚。」
「なら行こうぜ、途中までだけど。」
「おー、三橋、こっち。」
「えぁっ?う、うん?」
「えぇっちょちょ、い、泉!」
「ちゃんとついてこいよー。」



薄情者!わかっているくせに。
隣を通り抜けていく泉と三橋、阿部と並んで歩いて行く。
花井も振り返ると、その後ろを追うように歩き出すから、慌ててついていく。
昼下がりの喧騒が、全然耳に入ってこない。
らしくないほど緊張している、野球してるときでだって、こんなことない。
花井のせいだ、花井の。

薄ら、復讐心が煽られる。
昨日何もできなかったの、花井のせいだ。
泉に言われたから仕返しをしたいわけじゃない、断じて。


(笑顔見てトキメクとか…ホント女じゃんか、俺…!気色悪ぃ!)



「ぁ。」


「…田島?どうした?」

「え?あいや、何もねぇよ。」



首だけ向けて話しかけてくる花井の肩越しに映る、階段。
返答するなり、彼は登り始める。
―――思い立つなり軽く駆ける、この一瞬、普段の自分を取り戻したようだった。
2段飛ばして駆け上がり、中腹へ。
振り返って、笑む。
ほんの1段下の花井が、不思議そうに見上げていた。
いつも以上にいつも通りに笑む。

左手で胸倉を掴んで引き寄せて、まだ眼は閉じない。
足だけでバランスをとりながら、右手は花井の後頭部へ。
強く左を引いて、失敗しないように。
―――触れる、だけでは済まさない。
驚いて半開きの隙間に舌をねじ込んで、絡める。
熱い。
蹂躙という言葉が似つかわしい。

60、きっかり数えてまた勢いよく体を離した。
口端から零れたものは指ですくって、舐めとって。



「―――仕返し、効いた?」



に、と笑う。



「次の授業、遅れンなよ!」



返答もなく放心する花井を放置して、階段を駆け上がる。
誰もいなくてよかった、いてもいなくても、自分にはきっと、関係なかったけれど。
花井はきっと嫌がるな、そんなことで、胸が鳴る。


(―――もうダメだ、俺、花井のこと好きすぎる…っ。)


泉と三橋にちゃんと話さないといけない。
化学室に向かう足取りは、あくまでも軽快だった。






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後書

梓さんのちょっと困ったような笑顔とかやべーな、自分で妄想しながら書いてるわけですが…。
梓さんが微笑むとアワアワする田島様はすごく可愛いですね。
田島様はもうかなり前から梓さんのことが好きで好きで仕方なく、泉と三橋には結構前から相談済み。
田島様は泉と三橋には梓さんとは違う絶対的な信頼があるので、割と簡単に秘密事項を話します。
たぶん信頼ヒエラルキーみたいなのがある(ぇ
相変わらずこそーりアベミハ、そしてこそーり水栄水。
お題を見たときとにかくこの話を書きたかった、段差ちゅーって萌えません?
次話が最後になります。でも次話まだちゃんと決まってない(ぁ