時期外れの赤い実がどっさり盛られた器が視界に入った時、軽く胃もたれが起こりそうな不安が過った。
それは単なる錯覚か、それとも安易な衝動か。









ストロベリー・パニック









日暮れ後の練習の途中、一度設けられた休憩の間に、軽い飯を取る。
こういう楽しみがあればこそ苦しい練習も頑張れるわけで、やっぱり我らが監督の指導能力には一目置くものがある。
疲れた切った体に入るのは、ほんの少しの塩分でも重要。
この一食に、その後の練習の士気がかかっていると言っても過言ではない。
中学の頃にそんな習慣はなかったので最初こそ戸惑いはしたが、慣れるにつれて楽しみは増える。
単純な奴らは、この瞬間のために頑張っていると言っても、これもまた言い過ぎではないだろう。
今日もまた同じように休憩に入り、タイミングを合わせたかのように、二つ結びのマネージャーがグラウンドの扉をくぐってくる。
腕に抱えられたおにぎりは、今日も白く芳しい匂いを漂わせて―――。



が、今日はおにぎりだけのお目見えではなかった。










「今日はおにぎり以外に、田島くん家から差し入れのイチゴもありますよ〜。」









おにぎりとは別枠に固められた、赤い果実。
時期外れに違いないのに、どうしてこれだけのイチゴが、それもこんなに大量に。
おにぎりの匂いに呼ばれた面々は颯爽と自分の分とイチゴをキープし、がっつき始めている。

―――正直なところ、オレは甘いものがそんなに好きじゃない。
食えないわけではないが、率先して食いたいかと言われれば話は違う。
果物嫌いを公言している巣山も視界の端で固まっていた。
イチゴには酸味もあって、甘さにエグみはない。
だから口に突っ込まれれば食べるのは食べる、だけど。









「花井、巣山、イチゴ食べないの?」

「早くしないと田島と三橋が全部食べちゃうよ〜、オレらよりよっぽど食うんだから。」

「…オレは、果物は…。」

「あ、オレも、甘いもんはあんまり…。」

「えぇええ!!二人とも食わねぇの!?せっかく持ってきたのに!!」

「つうか何で時期外れの果物なんか持ってくんだよ…。」

 








と、言うと、今四季なんか関係なく作れるんだぞ、と当然の返事。
よくよく考えたらそのとおりじゃないか。
しかし、田島には悪ぃけど、本当に勘弁だ。
監督に見つかったら有無を言わさず食わされるだろうから、その前に田島の口は塞いで…。









「じゃあ二人はプロテインで補完しないとね、イチゴかプロテインか、どっちかだよ。」

「う…監督…。」

「好き嫌いはダメ、嫌いなものでもちゃんと食べないと!」



選択権は奪われて、オレ達の前に移動してくる、大皿の上の赤い群れ。
これが違うもの、たとえばトマトだったりしたら食べるんだけど。
巣山のほうも可哀想に、口の端が完全にひきつってしまっている。
とにかくおにぎりだけは消化させたものの、イチゴを食べ切るまで練習を再開しないという。
甘いものは胃にもたれるから嫌いだ―――。









「巣山、ちゃんと食べないと、プロテインは嫌なんだろ?」

「出来ればどっちも食いたくはない…。」

「不味いよりはまだ美味しいに定評のあるものを選ぶべきだと思うよ…?」

「西広…わかった食べる、食べるから監督!!そのプロテインはもう下げてください!!」

「ダメよ〜、花井くんがまだ食べる宣言してないからねぇ。」









オレか!?
食べ終わったらみんなは次の準備しておいてねー、という監督の声に、食べ終わったやつらの明るい声が返事を返す。
オレ達が食べないと次からの練習が始まらない、そう思うと胃がキリキリ痛みそう。
早く食えよー、などと呑気な声をかけてグラウンドに戻っていく面々と監督。
篠岡も食べ終わったら取りにくるね、と消えてしまった。
そして残されたオレと巣山の分の大量のイチ…あれ?









「あー!!巣山お前!!いつの間に食ったんだよ!!」

「花井が悶々としてる間に、うん、ほら、西広が急かすから、うん。」

「は、早く食べないと練習出来ないから、仕方ないだろ、花井も早く食べなよ!」









…なんで二人して赤くなってるんだよ、なんとなく意味がわからなくてぽかんとしてる間に、二人はさっさと行ってしまう。
これで残るはオレとこのイチゴ共のみ。
赤く艶やかな、しかし時期外れのそいつらはどうも場所に似つかわしくない。
大柄なオレが持っていても、やっぱり似つかわしくない。
つまみあげて、一つ溜息。









「はーなーいっ、まだ残ってんの?巣山もう食べちゃったんでしょ?」

「あー…?んだよ水谷、お前、準備は?」

「イチゴくらい食えなくてどうすんのさー。」

「…話を聞け、話を…。」









茶色の髪は揺れて、オレの視界に入り込む。
色素が薄いだけなのか、染めているのかは聞いたことがないが、本人の雰囲気と相まって世間一般には似合っているというものか。
水谷の指が器の上のイチゴを掴み上げ、自分の顔の正面にぶら下げる。
瑞々しい赤の光沢を見つめる水谷の視線は、放っておけばそのまま口の中に放り込んでしまいそうな程、溶けている。
生クリームを筆頭に甘いもの好き党のコイツ、さっきも確か、おにぎりよりも先にイチゴに手を伸ばしていたくらいだ。
それもオレの目の前で嬉しそうに、食えない苦労がわかっているのか。









「意地張ってても仕方ないじゃん、さっさと食べちゃいなよ。」

「そうは言ってもな、お前だって昼に入ってたブロッコリー食わなかったじゃねぇか。」

「なーんーのーこーとーやーらー。」

「てめぇ人にばっか食わせやがって!」

「じゃー何、オレイチゴ食っていいの?そりゃ嬉しいけど。」









…それは、たぶん、さっきから監督見てるし。
そんなことしたら金剛輪を食らうどころで済むかどうか…。









「仕方ないなー花井は。」

「てめぇに言われたくは。」




「オレが食べさせてあげようじゃないか、はい、あーん。」









にまー、じゃねぇ、何笑顔で差し出してんだ、おい。
それで食えと?それで食えと?そんなもんで食えたら苦労はしねぇよ!!
しかし当人はまったく意に介さないのか、図々しくもイチゴを押しつけてくる。
口元まで来たそれを、オレにどうしろと言うんだ?









「あー、それともこっちがいい?」

「は…?ばっ!!んなもん食えるか!!」









さっきまでオレの口元に押し付けられていたイチゴが、ヘタをちぎられて、水谷の口にくわえられる。
その上笑顔で差し出してくるこの現状を、オレに一体どうしろと?

だけど、









「―――じゃあ遠慮なくっつたら引くくせに。」









んなこともう、わかってるっての。
にまー、とした笑顔が一瞬固まり、今度は苦笑の色。
オレだってもう学習したんだっての、いつものようにやられっぱなしでは気が済まない。
と、余裕を持てば軽く加虐心がくすぐられる。
オレが口端を吊り上げれば、その様子に水谷の顔が一瞬ひきつったが、今更遅い。

きっちりイチゴを食いあげたオレは、ベンチに寄り掛かって自己嫌悪しているらしい水谷を放置して練習に向かった。









ストロベリー・パニック―――あの日の君はどこの君?









END










ぎゃーす!なんぞこれwwwあれ?今日1日なのに何でハナミズwww
というか何でハナミズ?
あ れ ?
すべては何かの間違い。
頭の中でハナミズは絶対あり得ないものだったのに/(^q^)\
※憂氷はこれと決めた世界観に則って書いているので、ないと決めたカプは前提となる世界や次元がまったく違うものです。
今現在書いている世界とはまったく違う花井と水谷をお送りしました、攻め7組の間には不可侵協定があるのが通常設定。
二度と書かないからね!!←
ちなみに巣山は西広先生に食べさせてもらいました、という巣西風味なのはもう書かなくても、ねぇ(ぇええ