「三橋、セーラー服、持ってっか?」

「え?せ、セーラー服?な、ない、と思う、よ。」

「そっか…オレもねんだよな…どうしたもんか。」

「…?」




セーラーデザイン




その後沈黙した阿部くんは、いつにもまして真剣な顔で考え込んでいる。
オレは深く突っ込むと何か開いてはいけないものが飛び出してきそうで、黙っているしかできなかった。
もちろん阿部くんの考えていることを阻止出来るとは思えないから、せめて変なことじゃないようにと祈るだけ。
阿部くんは時々突拍子ないから、身構えが聞かないのが難しいところだ。



「篠岡なら…持ってっかな、でもサイズが…。」



その日阿部くんはそれを最後に閉口した。
別れ際にはちゃんとまた明日ね、としたけど、ぼーっと何か考え込んでいるような顔で歩いて行く。
どうしたんだろう?セーラー服ってなんなんだ?

それは次の日判明するんだけど、オレはそのとき、自分の身に降りかかることを何一つ考えていなかった。



翌日。
篠岡さんと熱心に話しこむ阿部くんの姿がちらちら視界に映る。
盛り上がっているというより、阿部くんの質問攻めを篠岡さんは流すようにしている感じ。
篠岡さんは阿部くんの扱いも上手だなぁ。


「みーはーしっ、何見てんの?」

「あ、た、田島くん、あ、あれ、だよ!」

「あー?阿部としのーか?」


肩をぱしんと叩かれて、振り返ると田島くんがいつもの笑顔で立っていた。
オレが阿部くんの方を指差すと、軽く首を傾げている。
そうしていると、篠岡さんのところにはいつの間にか花井くんと水谷くんもいて。
初めは普通に話していたみたいなのに、気付くと阿部くんと水谷くんが口げんかを始めて。
それを花井くんがなだめている、いつもの光景なんだけど―――。


「みはしー、今日阿部に変なこと聞かれたんだぜ。」

「へん…?」

「家にセーラー服あるかって。昨日花井に女物のブレザー持ってるかって聞かれたのにさー。」

「お、オレも聞かれた!」

「阿部に?なんか二人とも変だよなー。」


花井くんも、様子がおかしい?
7組で何かあるんだろうか…?
そうこうしている内に、阿部くんと水谷くんの口論はヒートアップして―――じゃんけんを始めた。
それもすごく本気な顔で、じゃんけんに全力を出している。


「…田島、三橋、あそこの二人は何してんの?」

「あ、栄口、オレらもわかんねーの、昨日から様子がおかしいんだけどさ。」

「花井と阿部?」

「うん。」

「んー…まさかさ、ブレザーとか、セーラー服とか。」

「「それ!」」

「あー…オレも昨日水谷に言われた…。」


栄口くんまで言われてたのか!
呆れたような顔で3人を見つめる栄口くん、現状は分かってないみたいだった。
オレもさっぱりわからない。
ひたすら続く阿部くんと水谷くんのじゃんけんを、ひたすら眺めているだけ。

そして。



「うわぁあん負けたぁぁあっ!」

「はっ、クソレ野郎にオレが負けるかよ!」


長かった、すごく。
オレと田島くんは飽きて地面に落描きしてたくらいだ。
慌てて地面の落描きを(足で)消して、目を戻す。
盛大に落ち込んでいる水谷くんと、盛大にガッツポーズしている阿部くん。
阿部くんが勝ったのか、よかったな、水谷くんは残念だ…。
栄口くんが軽くため息をついたのが聞こえたので、水谷くん残念は取り消そう…。
ようやく終わったじゃんけんに花井くんが参加しなかったのはなんでだろう。
もろもろ気になることを考えながら、オレ達は4人のところに行った。


「おー三橋、オレ、勝ったぜ!」

「え?え?う、うん?」

「さかえぐちぃっ、負けちゃったよぉっ…!」

「知らないよ、オレ、なんのことかわかんないもん。」


行くなり阿部くんはオレの手を取って笑う。
―――なんだか…怖い笑顔だ…。
水谷くんは栄口くんに抱きつこうとして避けられて、田島くんは指先の砂を花井くんに払ってもらっている。


「なー花井ー、昨日のブレザーのことと言いさ、何しようとしてんの?」

「え?あー…えーとな。」

「みんな、話してないのに服の話だけ進めてたの!?」

「篠岡、それ、どういうこと?」

「わーっ待って篠岡!!話さないで!!」

「水谷、黙ってて。」

「そーだそーだ、しのーか、どういうこと?」


「7組で女装コーディネイトコンテストやるんだよ、まだあんまり知れ渡ってないんだね。」



「「「ええええええええっ!?」」」



あーばれた、みたいに罰の悪そうな花井くん。
しまったばれた、みたいな盛大に縮まってる水谷くん。
まぁいいか、みたいに、全然気にしてなさそうな阿部くん。
オレはすごくいやな予感がして、阿部くんからさっと目をそらした。



「何?花井が着んの?」


「ちっがぁーう!!」


「え?オレも阿部がセーラーで花井がブレザー着るんだと…。」


「あはは、違うよー。7組はコーディネイトする側なの。」


「え…じゃあそれ、まさか…水谷ぃ?」


「は、はい!?」



それから、栄口くんはいつもなら見ない恐ろしい顔で3人から話を聞きだしていた。

発端はなんら意味のないクラスメイトの一言だったらしい。
行事といえば差し迫ってあるのは球技大会。
華やかさの欠片もないそれに、何か色を加えることは出来ないか。
男の子は揃ってじゃあ7組女子コスプレで応援してまわればいいんじゃないか、と。
もちろん女子はそれには猛反対、花が欲しけりゃ男同士で解決しろとのこと。
初めは渋った男子たちだったが、よくよく考えれば自分の好みにコーディネイトできるわけである。
女子は化粧や服の手伝いくらいならしてやるよ、との提案で利害が一致。
7組以外の他クラスから好みにしたい男子に女装をさせて、応援させて回ろうではないかという話になったのだ、と。

教師に話を通したところ、あっさり承認。
その上、一番応援に活躍した上位2名に景品を出そうとまでなったのだ。
そしておよそ昨日の放課後くらいから布令が出されて、実は今朝から大騒ぎだったらしい。



「…で、景品っていう言葉につられた、と?」

「違う!オレは公認で三橋に女装させたかぶっ!!」

「ちょっと阿部は黙っててよ、話にならないから。」


栄口くんは容赦ない手刀を阿部くんの首筋に叩き込む。
オレとしては阿部くんの言葉のほうがよっぽど容赦なくて、一瞬で顔が真っ赤になったんだけど。
じーっと水谷くんをにらんでいる栄口くんは―――実はそんなに怒ってないような気がする。


「でも水谷、じゃんけん負けたんでしょ?」

「そうなんだよ〜…オレ、もう他に選択肢ないし…。」

「オレはやんなくていいわけだ?」

「う…うー…。」

「やらないからね!」

「わかったよぅ…。」


やらなくていいことに喜んでいる、わけじゃなさそう。
栄口くんにも何か思うところがあったんだろうな…。


「…なー…花井もオレに女装させる気だったわけ?」

「えぁ、あー…うん、そのつもりだった。」

「んだよ、景品狙い?」

「や…その…阿部と同じ…。」


ふーん、と特に感慨もない声で田島くんは呟いた。
驚かないんだろうか?いきなり女装させられようとしているのに。
田島くんはすごいなぁ。
あ―――違う。


「いーよ、面白そうじゃん!」

「うぇ!?」

「花井はオレなら景品取れるくらい可愛く出来る自信あんだろ?やってやろうじゃん!」



すごい、ある意味ホントにすごいよ田島くん。
どうやったらそんなふうにいくんだろう、自分から女装しようなんて!
恥ずかしさというより、花井くんがやってくれるのが嬉しいんだろうな…さすが、だ。
オレは…拒否権がない。



「三橋はやるんだからな!!」

「ぅ、うぇ!?」


やっぱり…。
そんなことだろうと思った、オレ。

ちなみにさっきのじゃんけんは、どっちがセーラー服を取るかっていう内容だったらしい。




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全力で首を振れば阿部は強制しないけど、あえて振らない三橋の心優しさを語る話(嘘つけ
ただたんに自重しない阿部を強調させたかっただけだ…;