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ダメ、だってば。 その手を掴んでしまったら、おしまい。 今まで保ってきた何か、その、正体不明の何かが。 retrace one's steps 「でも花井もさ、オレんことすきだろ?」 そんなこと、面と向かっていうな。 顔を背けて否定して見ても、コイツには通用しない。 わかってんだよ、否定してみせたって現実はオレの意見を受け入れない。 オレ自身が受け入れてねぇんだもんな、道徳観念なんて関係なくて。 だけど、イヤだ。 「…好きじゃねぇし。」 「またそんなこと言う。」 「ホントのホントだ、いいから、さっさと課題やれよ。」 「んだよ、ホントは暇じゃなかったとか?」 「暇は暇だけどな、面倒事はさっさと片付けたいんだよ。」 目の前に山積みの課題、春休み中の課題だが、コイツは案の定手をつけていない。 例によって当然の如くオレの家に、何の予告もなしに現れて、課題教えて、だ。 上がりこむなり教えてくれ、のポーズだが、今は真面目に課題に取り組んでいる。 やれば出来るんだよな、コイツは、ホントは。 どうしてかわざわざオレの家くんだりまでやってきては教えを乞うわけだが。 早い話、コイツの場合ならオレの家まで来るより、学校行って先生に教えてもらった方が早いのに。 「花井、これ、ここ合ってる?」 「え、あぁ、…合ってるよ。」 「やり、やりゃ出来るじゃーん。」 「…だよな、じゃあ帰ってやれよ、わざわざ来なくても。」 「やだよ、集中できない。」 そりゃ自分の家にいりゃ目移りばっかりで進まねぇだろうな、コイツの場合は。 当然の反論か、と思いつつ、一つ溜息。 ―――だって、別にオレが何か教える必要なんてなくないか? 最近は特に賢くなってきた様子で、サクサクと課題を進めていく。 わざわざ家に来なくたって、わざわざオレが教えなくたって。 親が持ってきた麦茶、コップの中の氷が揺れる。 つまるところオレは暇だ、ぼんやり氷なんぞ眺めてられるくらい。 ホントのホント、暇を持て余してはいた。 課題なんか終わってるし、新学期を迎える準備も出来ていた。 久々にフルでの休みを堪能していただけなので、別に田島の来訪が嫌だったわけでもない。 しかし、こうしていると暇だ。 田島は手がかからない、今オレがどっかに行っても、さして困ることはないだろう。 と、考えると、別にオレ、ここにいる必要ねぇじゃん、という結論に達してしまうわけで。 ようは、自分必要ないんじゃね?と考えると一直線。 自分がネガティブよりなのは知っていたし、そこそこ卑屈なのもわかってはいる。 だから、いいじゃん、オレいなくてもさ。 「田島。」 「うぅん?」 「オレ出かけてくっから。」 「…はぁ?」 「別に、オレいなくてもいいだろ?」 がば、と振りかえった田島の視線が、特に驚いた様子もないことに、少し、残念さを感じた。 なんで残念だったかはわからないが、話の本題はそこじゃない。 田島の視線にさらに居づらさを感じて、目を逸らした。 やっぱ、別にいなくても、なぁ。 「花井、じゃあちゅーさせてよ。」 「…はぁ!?イヤに決まってんだろ!ホモに巻き込むな!」 「え、したくねぇの?花井、オレのこと嫌いなわけ?」 そうじゃなくて、つーか。 キスなんてしたら後戻りできねぇだろ、無理だよ、そんなの。 社会常識から外れるのはイヤだ、親が大泣きするぞ。 …家の親に限ってはどうかわかんねぇけど。 「ちゅーダメなら、行くな。」 「…意味わかんねぇ、何でだよ、オレはな…!」 「オレは花井のこと、好きだよ、勉強ちゃんと教えて。」 ずい、と寄って来た顔が覗きこんでくる、コイツの、少し赤みがかった目。 見てると逃げ出せなくなる、卑怯な色。 「…教えてやっから、離れろ、どこも行かねぇから。」 「ん、じゃ、ここなんだけど。」 「へーへー、これはな…。」 なんだかんだ言って、引き返すためのポイントすら見えてこない。 もうそんな地点、とっくに過ぎてしまってるんだろう。 どうにか首を縦に振らないこと、それだけは心に刻んで、ミミズののたくったようなノートに目を落とした。 retrace one's steps―――引き返し地点はございません。 下の子たちが春休みの課題やっべwwwとか言ってるのを聞いてふと思いついた。 ホントは四月馬鹿ネタ書こうかしらと思ったんだけど、現実嘘が思いつかなかったっていうwww メインテーマは激しく乙女な花井です、少女漫画仕様。 ヒロイン=花井、迫ってくる男=田島。 ハ ナ タ ジ で す ^^ |