「三橋ー、これもう書いた?」

「うぇ、えっと、ま、まだ、書いて、ない…。」

「早く書かねぇと、今日の練習終わったら出すんだぞ。」

「う、うぅ、わかってる、んだけ、ど。」

「思いつかねーの?」





自分のこと書いてみればいいんだって。
田島くんはもう書き終わったのか、すごい、な。








Over the distance






七夕だから短冊書こうか、朝練が終わった時、監督が笹を持ってやってきた。
あの人…女だよな?あれはもう笹なんていう可愛らしいものじゃなくて、どっちかってーと竹。
ちょっと持ってて、といって篠岡に渡していたが、篠岡、ふらふらしてたじゃねーか。
監督はあれをどう背負ってきたんだ、想像するもの恐ろしい。



授業の合間でもいいから何か考えておいてね。



切り分けられた短冊、これはたぶん篠岡に作らせたんだろう。
配られてきた短冊を手にとって、…何書けってんだ?
普通に目標?



七夕だから、普通の願いでいいからね。
野球のことはナシでもいいよ、とにかく願い事。



はぁ、そうですか。
といっても、願い事なんて思いつかない。
目標設定なんかを考えるのは簡単だが、これは意外と難しい問題だ。
願い事、と言われても、夏大が目の前にあるのに野球以外のことなんて考えられないだろ?
―――まぁ無難なことでいいか。

全国制覇、と。

終わり、こんなもんだろ。
朝練の段階で終わったやつが何人いるか、結構悩んでいる。
なんでもいいよ、というのは人を紛らわす以外のなんでもないな、ある意味極悪な言葉だ。



ちら、と視線を向ければ。
目をぐるぐると回して、鉛筆握ってかちん、と固まっていた。
あぁ、そうだろうと思ったけどよ。
あれこれ考え過ぎて逆にフリーズしてんだろうな、わかりにくい構造してっから。
誰かにちゃんと頼るだろうか?
田島か泉あたりが気付くだろうか?
…なんでオレがいらん心配しなきゃいけないんだよ、まったく。

着替えの時に聞こうかと思ったのに、その話があったせいでいつもより時間がなかった。
仕方ない。
授業の合間に聞きに行くのも馬鹿らしいし、放課後まで待てばいいか。

そいや忙しさにかまけてちゃんと話してねーな…。



「なぁ、阿部はもう書き終わったのか?」

「あぁ?何?花井まだ書けてねぇの?」

「あ!オレもオレも!オレもまだ!」

「うっせぇ、お前には聞いてねぇ。」



オレ以外書けてねぇのか、確かにこいつら、こういうの考えるの下手そうだけど。
三橋に限んねぇもんだな、まったく。



「そんな悩むもんじゃねぇだろ。」

「じゃあ阿部なんて書いたんだ?」

「全国制覇。」

「色気ねー。」



イラ、と来たので、一発殴っておいた。もっと馬鹿になれ。
願いに色気も何もないだろ、クソの頭の作りはよくわかんねぇな。



「あーいってぇ…別にチームの目標ってわけじゃないんだしさぁ。」

「すぐ黙んねぇともう一発殴る。」

「花井〜阿部がいじめるぅ〜っ。」

「あぁまぁどっちもどっちだろ、阿部は言いすぎ水谷はちょっと落ち着こうな。」



オレが悪モノ扱いじゃねーか。
じろ、と睨むと花井はため息をついただけだった、コイツいっつもこんなだな。



「オレも思いついてねーけど、とりあえず野球以外のこと考えようと思ってな。」

「はぁ…?」

「全国制覇とかさ、そんなん願いかけることじゃねーだろ?」



―――あー…そう言われりゃそうだ。
願い事っていう問いかけで、そういうのに頼ってちゃザマねぇよ、確かに。
花井の言うことは一理あるわけで、さら、と書いてしまった短冊の内容を思い出す。
書き直すか…篠岡なら短冊持ってんだろ…。



「お?阿部、書き直すの?」

「おー…一理あんなーと思って。」

「オレ、もう今年一年阿部に殴られませんように、にしようかなぁ。」



イラ、と来たのでもう一発殴っておいた。












篠岡に短冊をもらい直したはいいが、実際のところ、「全国制覇」以外の願いというのが思いつかない。
しょうもないことも思いつきはするが、わざわざ星に願うことでもないというか。
結局練習が始まる前まで、一つもいいことが思いつかなかった。
花井と水谷も思いついてないらしいので、それだけが救いだ…。
練習が始まる前に短冊を出したのは三人だけ、まぁうち二人は納得してやってもいい。

栄口と西広、二人はまぁ、あっさり終わらせそうだ、が。
―――田島も監督に渡している、欲求に忠実だからこそなんだろうか?
他の面々はまだらしい、オレもだけど。



「西広、お前さ、願い事なんにした?」

「え?早く控えから脱出できますように、だけど?」



水谷、マジでやばいぞ。



「栄口は?」

「父さんに再婚相手が見つかりますように。」



シビアだ。



「…田島は?」

「んー?赤点回避と世界平和!」



実にコイツらしい意味わからん回答だ。



「…なんで世界平和なんだ?」

「いい表現が思いつかなかったから!」



あぁ、実にコイツらしい回答だ。
よくそんな結論に達するよな、コイツ。



「田島、三橋は書き終わってた?」

「あぁ?いや、まだだったよ、今も悩んでんじゃね?」



まだ考えられてない奴のが多いもんな、あいつが自分の願い事なんて書けてるわけがねぇ。
それから練習が始まって、それとなく聞いた時も「まだ」といつも通りの様子で答える。
で、練習なんかあっさり終わって、もう10時前だっていうのに今も思いつかないでいる。
というか、ほとんどまだ思いついてないらしい。
普段どれだけ甲子園のことだけ考えてるかが顕著だよな、もしくは書けもしない願いばっかりぐるぐるしてるか。

―――花井辺りそれっぽそうだな。
ついでに水谷もそれっぽい。
泉は違うだろうな、あいつは単純に願い事とかなさそうだ。

結局それから20分近く悩んで、沖と巣山は終わらせてしまった。
二人とも素直な回答。



「弱気が少しでも改善できますように。」

「打率が上がりますように。」



その5分後、泉が終わり、花井が終わり、水谷が終わる。
くそ、結局水谷より後になっちまった。
3人の回答は、まぁ予想したとおりだったというか。
教えてくれなかったから、勝手にぶら下がってるやつを取ってみた。



「田島と三橋が赤点回避できますように。」

「田島に赤点がつきませんように。」

「栄口に古典教えてほしい。あと阿部殴らないでください。」



上から泉、花井、水谷だ、水谷は明日思いっきりぶん殴ってやる。
3人らしいことこの上ないな…。
オレと三橋だけ、真っ暗なベンチに残されている。
三橋も思いつかないらしく、鉛筆を握ったまま唸っていた。



「…三橋。」

「ははははい!?」

「きょどんなよ…なんか思いついた?」

「う、うう、ううん、ま、まだ全然…。」

「あーオレもだから、さっさと考えちまおうぜ。」



こくこく、と頷く。
と言ったもののお互いとくに思いつかなくて、沈黙だけが続いていく。

もう適当でいいか…。



「あ、あの、阿部くんっ…!!」

「あ?どうした?」





「あ、あべくんと、も、もっと仲良くなりたい、とか、書いたら、お、かしいいかなっ!?」





「……………。」






必死そうな声に顔を上げて、で、今、オレ、ぽかんとしてるな、間違いなく。
うお、顔が張り付いて動かねぇ。
で、すぐに顔がにやけそうになった。




「―――いんじゃね?オレもそうしよ。」



「えっ!?」



「三橋ともっと仲良くなれますように、って。」










次の日田島辺りが見つけて爆笑されるだろうが、まぁいいとしよう。
短冊に黒炭を走らせながら、せめて高い所に飾ってやろうと決めてみた。
三橋の顔も心なしか綻んでいて、…まぁこういうのはアリだな、うん。


そんな夏の日の夜こと。








END







初阿三で季節ものか私w
二人の短冊は田島じゃ届かないとこにあっても梓ならば届くところにあるに違いない。
きっとさらしもんになるだろう、で、結局みんなさらし合いになるだろう。
願い事は人に言ったり見られたりするとダメなんだそうですよ(ぁ
西広先生と栄口あたりは分かってて阿部に教えてそうですが、他面々は知らないだろうな…とか。
で、次の日先生と栄口に教えてもらって阿部にキレてみるけど、

はぁ?教えたのお前らじゃねーか(最後3人のは勝手に見たけど)>(仝ω仝*)

的なノリで笑われることだろう(最悪