だけど、君が微睡んでいたなら。
だけど、君が忙しかったなら。
だけど、だけど、だけど。






だけど






部活がないと、どうにも時間を持て余す。
珍しく練習がないということは、遊びたい年頃の自分たちにしてみれば嬉しいことこの上ないはずなのに。
部活がないのに、いつもの時間に起きて、いつもの時間に支度を初めてしまう。
試験期間だから、オレ自身弁当がいらないわけじゃないし、起きて用意するだけなら構わない。
しかし、この早い時間から全て準備が終わってしまっても、やることがなくて。
普段なら終わるなり家を飛び出さなければ、部活に間に合わない。
だから焦って朝の支度を終わらせるのだけど、今日は余裕。
飯の用意は朝がオレで、昼がある時と夜は姉さんに任せている。
時々姉さんが朝の用意までしてくれている時は楽だけど、姉さんにだってやることはある。
オレに出来ることはするつもりで、朝の起きている時間に出来ることはするつもりだった。
というわけで手をつけたのが洗濯、といってもこれもそんなに量のあるものではない。
洗濯機を回していれば多少気は紛れるけれど、時間が流れるのは極限に遅い。

部活がないとつまらない。
田島が言っていた言葉を今更理解した、確かにつまらない。
時間はまだ5時過ぎ。
普段ならもう遅刻、とっくに朝練の時間。
朝の用意はもう終わり、部屋に戻って、勉強でもしていようか。
日はもう昇っているけれど、家の中はまだ薄暗い。
部屋の前まで戻ってきて、そこで自分の部屋から電子音が響いていることに気付いた。

携帯の着信音、これは、水谷からだ。

慌てて部屋の扉を開けて、充電器にさしっぱなしにしていた携帯を手に取る。
メールだったようで、オレが部屋の戸を開けた時には音は鳴り止んでいた。
折りたたんでいたそれを開いて、確認、やっぱり水谷からだ。
思わず顔が緩むのを感じて、メールを開く。



『起きてる?』



短い文章。
普段はもうちょっと長い文章が簡潔なのは、もしかしてオレが寝てると思ったから?
まさか。
メールの画面は閉じて、着信履歴を開く。
一番上、水谷の名前。
着信も、発信も、一番上は必ず水谷で、だけど別に意図してそうしているわけじゃない。
始めは恥ずかしくて消していた名前、見るだけで火が出そうだったから。
だけど、今はなんてことない、それだけで心が弾むから。
発信のボタンを押し込んで、君が出るまで後何秒?
待ち遠しくて待ち遠しくて、心が弾んで、とまらない。
コール音は、すぐに途切れた。



『…もしもし?』

「水谷?おはよ。」

『あーびっくりした、もう起きてたんだ?』

「当然だろ、…っていうか、いつも通り起きちゃった。」

『あはは、栄口らしいね、オレはまぁ…さっき起きたんだけど。』

「水谷らしいね。」

『なんだよう、起きようと思わなかっただけなんだからね?』

「はいはい、でも早起きだよね、もしかして暇だった?」

『うん、母さんも試験期間だからっておきてないから朝ごはんもなくってさー。』

「そうなんだ、オレなんかいつもどおり作っちゃったから、暇で暇で…。」

『そっか、さすがだね、いいな〜…ご飯の話してたらお腹空いてきちゃったよ。』



柔らかな声音、聞いているだけで、心がとろけてくる。
そっか水谷、お腹空いてるのか。
今水谷がどうしているのかなんて、容易に想像できる。
携帯を握り締めて、ふにゃけた顔でオレと話をしてるんだろう。
お腹を空かせて、でもオレを話をしてる。
本当なら何か口に入るもの、と探しに出るのが人間なのに。
わざわざその時間を削って、オレと。



「ね、水谷、まだお腹空いてる?」

『え?うん。』

「お弁当作ってあげるよ、朝だからそんなに対して食べないと思うけど。」

『ホント!?』

「時間もったいないから簡単なものになっちゃうけど…ちょっと早いけど、会おうよ。」

『分かった!栄口の家に行こうか?』

「いいよ、早いけど学校行っちゃおう?」

『うん、じゃあいつもの場所で待ってるね。』

「うん、またね。」



水谷はしばらくまたね、を繰り返して、それからようやく電話を切った。
またね、は長いんだ、だけどオレも、それを享受している。
ホントはもっともっと話していたい、だからオレからも切れなくて。
だけど、今日はそんなことしてたら日が暮れてしまう。
急いで用意しないと。
簡単なものしか出来ないのが悔しい、本当はもっとちゃんとしっかりしたもの作りたいけど。
けど、だけど。
それより水谷に会いたい心が焦る。

出る準備は出来ていたから、お弁当を作ればすぐに飛び出せる。
オレのほうが遠いから、結局は待たせてしまうことになるだろう。
心苦しいが仕方ない、水谷、何が食べたいかな。
食べてくれる姿を想像するだけでも、作り甲斐がある。
大好きな人のためなら、ね。

ブラックアウトした携帯の画面をしばらくぼんやり見つめて余韻に浸り、それから時計を確認。
まだ5時半だ、大丈夫。
だけど急がないと、水谷を待たせて、お腹を空かせてまま泣かせてしまわないように。






だけど―――だけど、会いたかったから。









なんだか普通に甘いのが書きたくて、でもなんか書いてたら途中病んできたので軌道修正したらまた食べ物の話になってしまったというオチ\(^0^)/