あまりにも冷たく、冴え渡るほど月夜に、滴る様にただ、静かに零れていく。
冷ややかに憂うように、薄ら光さえも湛える、それは。
涙の夜 止まる息
ちょっとした出来心だったような、そうでもないような。
冷え切った街をひたすら走りながら、カイルは心の隅でそう思った。
暗い夜道を走り抜けていく足取りに迷いや躊躇いは無く、ただその表情にはほんの少しの焦りが交じっていた。
まだ宵の口といった頃合だが、日が沈んでしまっている以上昼間の温もりが戻ってくることはない。
時を追えば追うほど、寒さは増し、じわじわと体力を奪っていく。
駆ける足は止まらないし、足音も一向に減らない。
「待てこのクソガキがぁっ!!」
物騒な、心中で悲鳴を上げたい気持ちを抑えながら淀みなく道を辿っていく。
走り抜ける様は随分慣れているようで、しかし後ろを追う男達とは距離が開かない。
ほんの、数分前のこと。
部活を終えた帰り、すっかり日も暮れてしまい、友達も皆カイルを置いて先に帰ってしまった。
仕方なく彼は一人でいつもの帰り道を辿っていたのだが、そんな彼の視界に、ふと面倒くさい光景が映った。
大の男が5人もそろって、小柄で線の細い少年を脅している光景。
学生に対する治安の悪いこの街では見慣れた光景だったのだが、カイルはそれが見過ごせなかった。
無視してしまえばよかったのだが。
後ろからガツンと一発、その瞬間から標的は見事に移行してしまったわけで。
かれこれ、結構な距離を走っている。
本来なら電車通学の彼は、今走って家を目指しているのだから。
(あぁぁぁもう!何でオレってばいつもこんなことばっかり!)
内心、人助けは嫌いではない。
そういう性分だし、きっと友達に話せば口を揃えてカイルらしい、というだろう。
困っている人は放っておけない性格なのだ、自分でも、割と損しているという自覚も。
部活は、運動部じゃない。運動部は否応がなしに目立ってしまう。
小中学校でそれを学んだカイルは、幼馴染と一緒の園芸部に所属していた。
部活に入らなければいけない義務さえなければ、きっと帰宅部だったと思う。
特別面倒くさがりでもないし、目立つのが嫌だったわけでもない。
「待てっつってんだろぉがぁっ!!」
「うはー…動物みたいな連中だなぁ…。」
舌を噛むから今まで口を開いてなかったけれど、さすがにこれくらい言ってしまいたくなる。
まるで肉食獣のようにひたすら獲物を追い続けるとは、彼らは暇なのだろうか?
狭い路地をうまくくぐり、転がるようにして別の道へ。
彼らも図体は大きかったが、意外とすばしっこいらしい。
軽く、舌打ち。
「っしゃ!おいつめたぞテメェ!!」
「うっ、わ!」
曲がり角を左へ、曲がった直後、目の前にはさっきの男の一人が。
背に気を取られすぎて前のほうが抜けていたらしい。
背後には確実に別の男達が迫っている。
「おいコラ、ナメやがって…!わかってんだろうな。」
「いや、ほら、まず落ち着いて…。」
「落ち着いていられるか馬鹿やろうが!!ぶん殴ってやる!!」
急停止して、とりあえず説得。
まぁ、無駄だろうとは思ったのだが、それでも一応。
説得空しく、男の拳は一直線にカイルの顔面に向けられる。
さすがに、拳をもらいたくはないので、手に持ったカバンで顔を抑える。
どす、と鈍い音を軽い手の痺れ。見てくれどおりというか、結構力はあるらしい。
面倒くさい、もう一度心中で呟いた。
「すばしっこく逃げ回りやがって、体力だけは褒めてやるよ。」
「それはどうも、でもさぁ、ホント、穏便にすまそうとか思わない…?」
「思わねぇなぁ、こっちはプライド傷つけられたんだ。」
交渉の余地はないらしい。
深々とため息をもらしてみる。
どうやらこれも逆鱗らしく、不良らしい男をまた苛立たせてしまったと見える。
そうこうしているうちに、今度は後ろから追ってきていた男達が追いついてしまったらしい。
多少のドンパチは仕方ない、か。
「んがっ!?」
「え?」
決心したその矢先、目の前の大男がぐらりと前のめりに倒れてきた。
その後ろから、黒く素早い何かが、今度はカイルの背後に回りこんできた。
続いて鈍い音、どさ、どさと次々に男達が倒れこんでいった。
「…誰?」
「大丈夫か?」
「へ?あ、うん。」
黒いと思ったのは、どうやら制服らしい。
月光を浴びて尚輝くような、黒い―――。
「惚けているな、さっさと行け。」
「…あ、助けてくれてありがとう!」
「礼を言われるようなことは…見ていられなかっただけだ。」
「いやいや、あのままだったらボコボコにされちゃってたよ、はは。」
「…いつもこの調子なのか?」
「いつも?」
「コイツらに殴りかかるところから見ていた。」
カイルは渋面を作ると、少年から顔をそらした。
あんなところから見られていたとは恥ずかしい。
無愛想なほど鋭い視線と、黒い髪。白い肌。
声音からして男なのだろうが、華奢な美少年がこれだけの男を瞬時に殴り潰したのに、自分はひたすら逃げていて、それを見られていたとは。
「困ってる人、放っとけないんだよね。」
「…馬鹿か?」
「よく言われる〜。」
耳にタコだ、と笑ってみせれば、彼は呆れたらしい。
ごく綺麗な子だな、とカイルは正直に思ってしまった。
黒作りな制服がよく似合うほど、冷淡でありながら、綺麗。
「ねぇ、オレ、カイルって言うんだ。カイル・デュナミス。」
「―――…そうか。」
「?―――、君はなんて言うの?」
それは少し無邪気な問いかけだったのかもしれないけど、聞かずにはいられなかった。
あまりにも無意識な行動だったけれど、この場の離れ難さがそうさせる。
彼は少し、困ったように顔をしかめさせたが、すぐにため息をつき、ためらう様な様子で口を開いた。
「…ジューダス。」
「ジューダス?ふぅん、カッコいい名前。」
会話が途切れてしまった。
初対面なのだから、そうなってしまうのは当然だったのだが。
「…帰らないのか?」
「あ、あぁ、駅からちょっと離れちゃったから…。」
最寄の駅から自宅のある付近の駅までは、電車で5分の距離。
電車ならば苦ではなくとも、歩きでは少々面倒くさい。
大分走ってしまったし、ここまで来たのなら歩いて帰ってもいいだろうとタカはくくっていたのだが。
「送ろう。またこんなことがあっては敵わない。」
「え!?そんな、悪いよ!!」
「いいから、行くぞ。」
「え?えぇ!?」
正直なところ、もっと彼のことを知ってみたいと言う気持ちはあったから、その申し出は嬉しい。
とはいえ、その言葉に甘えるわけにもいかないだろう。
カイルの心境など気にも留めず、彼はてくてくと歩いて行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよジューダス!」
「…なんだ?」
「なんだって…ジューダスの家はどこなのさ。」
「気にするな、近い。」
どういう意味で近いのだろうか、聞いても答えてくれないだろう、漠然とした結論。
その背はなんの迷いもなく歩いて行く。
彼は一体、なんなんだろう?
色んな疑問が渦巻いていて、しかしどんな質問も場違いなような気がして。
「お前は、何も気にしなくていい。」
「…え?」
「…僕の自己満足だ。」
そういう彼の声は切なくて、何故か少し、胸が焼け付くような感じがした。
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長編第一段、涙の夜です。
いきなり現パロ設定で長編なんぞ書くなって自分でツッコミ入れつつガリガリ。
結構突発的に思いついたので、かなり設定荒い…。
というか、携帯サイトのほうは携帯で打ったのをのまま載せてたせいで、かなり痛い文章になってるんですよね。
激しく加筆修正です、携帯のほうは見てられな(ry
ちなみにここのカイルには多少の落ち着きと大人っぽさを持たせてます、高校生なので( ゚д゚ )ニ゙ッ!!!!
…え?カイルにそんなものは必要ない?すみません、私の好みでs(ry
話は進むだけ進んでるので、随時加筆修正しつつ先に進めていきます( ゚д゚ )ニ゙ッ!!!!
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