それは単なる庇護欲に過ぎなかった。

あまりにも似ていたから。

後悔を感じていないとはいえ、それでも。

それでも負い目があることはどうしても否定できなかったから。

後悔ではないとはいえ、それでも。



それでもその金糸には、求めてはいけない何かを求めてしまう要素があるから。
恋うたところで届きはしない、そんな想いが。
酷い冒涜でしかない。
この金糸を、一人の人間としてすら見ていない。


失ったものが、あの時無くしてしまったものがあるような気がするから。


思ったところでどうする。
重ねてみたところでどうなる?





漆黒月夜






こんな裏切りを何度重ねれば、心は開放されるのだろう。
裏切りと呼ぶには浅はかで、それでも純然な背徳には間違いがない。
誉めようと、罵ろうと、出掛かるのはまず、別の名前だった。


この、短い金糸ではない。


英雄の子は、大衆の求める英雄にはなっていない。
誰もがその背に偉大なる父と母の偉業を見、重ね合わせ、期待する。

それがどれほど酷いことか、よくわかっている自分でさえも、その肩の向こうにいる英雄を見てしまう。
大衆の認める、偉大なる二人を。


個人としては、この小さな体も、英雄と言えなくは無い。
それだけの功績を残していながら、彼の名前は決して大衆に知れ渡ることはないのだけれど。
彼はそのことに悔やみはなかった。
ただ麗しい聖女のために、彼女のための英雄となろうと決意できたのだから。




そうなったことに、他の面々は素直に喜んだ。望みに望んだ展開が、ついに開けたのだから。
喜ばなくてはいけなかったはずなのに、僕は喜べなかった。
そのときほど、あいつに似ていた瞬間はなかったから。
背負うものができたからこその、りりしい顔つき、決然たる立ち姿。



その背が僕を見下ろせるほどあれば。
その手に意匠を施した、幻の剣があれば。


――――。


一人の人間として、見てやれない。
過去を断ち切ることが出来ない、いつまでも。
断ち切ることなんて出来ようか、こんなにもまだ心に残っているのに。
思いを寄せた記憶が、あまりにも鮮明に残っているから。




あいつはもういない。
また、守れなかった。




それなのに追いつづけるのは、つまるところ愚の骨頂に過ぎない。

それでも。

それでも思ってしまう、どうしても、面影を追い求めてしまう。










たった今まで微動だにしなかった小柄な体が、ふと小さく揺れる。
窓辺に預けた体は、この時間なら当に眠りこけているはずにも関わらず、しゃんとしている。

金糸は、短い。

肩に少しかかる程度で、腰まで伸びたあの髪とはまったく違う。
その姿を、もう何時間見つづけただろうか。
いつもなら、寝ている。
それが、いつまでも雲間に揺れる月を見つづけ、動かない。
眠くなる様子もなく、屹然と月を追っていた。
顔色からは何も読み取ることが出来ない。
呆然としているようでいて、その瞳には痛いほど張り詰めた何かを感じる。
声をかけることさえ憚れるような。
昼間の勇ましさはなりを潜め、どこか不確かな雰囲気がまとわりついていた。


カイルは、これでいて唐突に鋭い。

子供というのは、無邪気でありながら、人の心に常に敏感なものだ。
カイルはその最たるものといえる。決して人の心に鈍くは無い。
ただ微細な何かに気付いてしまったとしても、自分が不安をあおれば待つものは――。
そこまで考えられる、意外なまでの聡明さを兼ね備えていた。
なるほど、あの二人から譲り受けたのは、とてつもない力よりも何よりも、その純真な心なんだろう。



だからこそ、僕の心に気付いてしまった。

18年前、両親を裏切り、今ここにこうして生きている人間の、深層心理という奴が。
どんなに隠蔽していても、子供というのは容易に見つけ出してしまう。
それが本人にとって辛いことであったとしても。見つけてしまったのだろう。


彼の父親に対する気持ちを。


それが、計らずとも重ね合わせる結果となっていたことを。


人に重ねるなと言っておきながら。
一番酷いことをしているのは、他ならぬ僕だろう。
隠しようがない、もう。


僕は失ってしまった心を、カイルに押し付けていたに過ぎない。

僕がリオン・マグナスであると知れてしまった以上、この感情を知らないでいれるはずがない。
あの銀髪の言うことのほうが、よっぽどカイルを思っているように聞こえた。







「ね、ジューダス。」


思いのほか、毅然とした声音だった。


「…なんだ?」

「父さんってさ、ジューダスから…いや、リオンっから見たらていうべきなのかな?とにかく、どんな人だった?」

「…そんなことを聞いてどうする。」

「なんとなく、だよ。あんまり深く考えなくていいからさ。」


ふいに振り返り浮かべる笑顔に、一部の揺るぎも無い。

鋼鉄の意志でもって塗り固めたような、それでいて、どこにも不自然などない、笑顔。


「18年も前だから覚えてない?」

「…そんなことはない、だが…。」



「渋ってる理由がオレのことだったら、別に気にしなくてもいいよ?」



「…。」



流すように言うから、言葉の意味さえわからない。笑顔は依然、変わらない。



「ジューダスの気持ちは、分かったからさ。だからジューダスから見た父さんってのが聞きたかったんだ、そんなに似てるかな?オレ、見た目とかも含めてさ。」




どうしてそんなに自分を追い込む。
聞かせたくないところはわざと流すように言うくせに、本当は聞きたくないところだけ強調して聞き出そうとする。
その顔はやっぱり笑顔でいる、本来の笑顔と、何も変わらない、無邪気な。



「…あぁ、そっくりだ。やることなすこと、話す事も何もかも。身長こそ差はあるが、あいつを知る人間なら誰もがお前の背にスタンを見るだろう。」



噛み締めるように、薄く目を伏せる。
カイルも同じように、首を少しだけ俯かせていた。
その様は、悲しんでいるようには見えない。
どこか冷たいものを感じながらも、笑顔は絶えていなかった。











「そっか、嬉しいな。」











「…っ…。」


「そんなに父さんと似てるのかぁ、ほら、オレさ、すっごく憧れてたから。」


「…カイル…。」


「嬉しいなって普通に思うよ?そんなもんじゃない?」



そう言って笑みを浮かべる姿が、痛々しくて。
僕に触れる権利なんてないけれど、胸が締め付けられるようだった。



「ジューダスが悩む必要はないと思うな、オレ。」


「…。」


「いろいろ考えちゃうことって、仕方ないと思うよ。18年前とはいえ、辛かったことはまだ鮮明に思い出せるんだろ?それで父さんそっくりのオレがいる、と。」



軽い調子で言うから。



「悩むよね、葛藤っていうのかな?難しいことわかんないけど。ジューダスは頭いいから、逆に悩んじゃうんだよね。」



少しも堪えてないみたいに笑うから。



「ジューダスも、たまには自分のこと見よう?ね?」











「…っそれじゃあお前はどうなる!!」



耐え切れなくて、感情のままに声にする。
少し驚いたような表情を見せたけれど、直ぐ様それは、少し困惑したような、それでも悪辣なまでに優しい笑みに変わる。



「オレのことで、悩まないでほしい、かな…ジューダスはいっぱい悩んでるんだし、オレの分くらい、軽くしてほしい。」



あまりにも純真に笑うから、抱きしめたい衝動に駆られてしまうけど。
きっとカイルはそれを許さないし、こんな気持ちで抱きしめて、カイルを傷つけるだけだった。



「オレなら大丈夫。」


「…。」


「今までたくさん守ってきてくれたから。」


「…。」


「ありがとう、ジューダス。」



ふ、と力が抜け、カイルの体が前のめりに倒れてくる。
さすがに何もしないわけにはいかない、悪いとは思いながらも抱きとめる。
寝ているだけのようで安心したけれど、それだけに重苦しい気持ちが残った。
こんな少年を傷つけてしまったのか。



18年前の何よりも、今この瞬間が後悔で染まる。
運命の女神に呪いの言葉を呟いて。
意識のないカイルに頭を寄せ、溢れてくる感情を塞き止めようと唇を噛み締める。



夜明けは遠い。



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ジュカイシリアスひゃっほうい。
ほのぼのも楽しいけど、スタリオ前提のあるジュカイはどうしてもシリアス向けだと思うね!
スタリオもまぁ、シリアスが似合うけどね。
でも障害となるのは裏切りだけで、根底の世界観さえなければ邪魔者はいないわけね。
それがジュカイはほら、パパンが強烈だからね。