殊の外世界は狭く、しかし広いことを知った。
ある日唐突に、ある日痛烈に。
狭い世界は手厳しく、広い世界はあまりにも無感動でいて。
ただ澄み渡る空の青さが、無意味に網膜を刺激する。





Gravestone




青く、突き抜けるような晴天。
温暖な空気でありながら、その空はどこか寒々しさを演出しているような、冷たさ。
抜ける風は荒ぶこともなく、そうまるで、停滞しているような。

そこは、小さな小島だった。

18年前に抉られた大地も、この島からは目視できる。
そう遠くない先には、厳しい戦災の最中、立ち直りを見せる自身の故郷も見えるほど。

島には何もない。

少なくとも、つい今し方この小さな島に降り立ったカイルにとって、この島はただの島だった。
荒れたささやかな草原、見渡す限りの海。

そして、崩れ果てた、建物。



イクシフォスラーを海岸に停めて、その建物の前まで移動することはまったく造作もないこと。
さして大きくもないこの島は、一周してもキロに及ぶか分からない。
カイルは何も言わない。
否、言えることは何もない、ただ一点を凝視する。

黒衣がはためく様を、ぼんやりと、しかし一瞬たりとも離さないように。




ついて来てほしいところがある。



簡潔に彼は言った。
神の眼を砕き、自分たちのいる時限に戻ってきた、その直後に。
さして聡くもない自信のあるカイルには、ただ、シャルティエを失ったことに関連している、としか察することはできなかった。

歯がゆくもある。
彼は決して弱みを見せないし、まして、カイルに弱音を吐くことなどありえない。

だから、理由はわからない。
直感的に悟ったとしても、カイルにはそれが正しいと言いきれる自信はどこにもない。
話してくれるまで待つだけだ。
ジューダスはただ、慣れたような、しかし一歩を確かめる緩やかな足取りで島の奥へと向かった。


イクシフォスラーを使わなければならない場所であることを聞き、みんなにはクレスタで待ってもらっている。
笑顔で承諾してくれた仲間には感謝の念を忘れない。
皆、少なからずジューダスの背に、沈んだ何かを感じ取っていたのだろう。

何が出来なくとも、せめて隣にいることくらいは。


けもの道を越え、より近くにその建物を見据えたとき、ジューダスはその仮面を外した。
はらりと揺れる髪の、面は一体どんな表情をしているのか。
背を見つめていることしか出来ないカイルには、想像すら出来もしない。

歯がゆい。



冷たい真実。
突きつけられた真実だけが真理でないことくらい、カイルにはわかる。
それでも、それでも。




「…地面より下は、水没してしまっている。」

「それは…18年前の、こと?」

「あぁ…そうだ。」

「…前行った、オベロン社の廃坑とよく、似てる。」

「…珍しく鋭いな。」



振り返りもせず、彼は告げる。
軽口ですら覇気もなく、心はここにはない。
無表情で、そこにいるのだろう。
無感動に、ただ見つめているのだろう。



「今の僕が、はじまった場所だ。」




ざわり、風がざわめく。





詳しい経緯など、誰が知っているのだろうか。
彼はここで一度終わりを迎え、また不本意に始まりを告げられた。
たったそれだけのことだと、言えばそうなのかもしれない。
それでもカイルは、ようやく理解した現実に眩暈さえ起こしそうな痛みを感じた。

彼は一向に表情を見せない。
ただ、抜けていく。



「本来なら、ここですべて終わって、僕も消えてしまうはずだった。」





輪廻し、続いてしまった。
告げる声は、震えもしない。






「…そしてまた、ここにいる。今度は…シャルもいないのに、な。」





きっと彼は、カイルよりもずっとジューダスのことを知っている。
ずっとずっと、深く繋がっていた。
その言葉の、切ないこと。

どうしたら?

噛み締めた唇が限界を訴えようとも、そんなことしか出来なくて。
あぁ、歯がゆい。
握りしめた拳の、力の抜き方でさえ分からなくて。



「また、始まる。」


「…ジューダス…。」


「泣いているのか?」


「…うぅん、まだ泣いてはない。」


「…そうか。」




ほんの一滴でも。
涙を流すことはなかった。
ジューダスは泣いていない。

踏み出して、その背に触れる。
冷めた色のまま背は冷たく、触れることによる反応は微塵もない。
吐息ほどの制動もなければ、まるで―――。



「…カイル、大丈夫だ。」


「ジューダスが平気でも…いや、平気なわけ、ないし…。」


「お前が嫌、か?」


「…うん。」


「付き合わせてすまないな…。」


「ぜん、ぜん。」


















そうか、ここは。



















抜けていく風はどこまでも、ただ、静かで。









「…まだ、骨は埋まらない。」


「…まだ?」




「…あぁ、まだ、だ。」



















浸透、していく。

馴染む声が届ききらず、零れていくようで。

響く前に、落ちていく。





ただ力なく黒衣を握り、未だ振り返りもしない彼の背中を呆然と。





























網膜に焼きつく鮮烈な青の下、悠然とそこに佇むその礎、それは。

いつの日かを経て、そこに骨身を埋めるGravestone。














END







うぅぅぅん、すげぇ鬱になってしまった;;
補足の難しい書き方をするなぁ私はっはぁ!(何コイツ
18年前神の眼から帰ってきた直後くらいかなぁとか思いつつ執筆。
ワールドマップやフィールドでは跡形もないですが、ちこーっとくらい残っててもおかしくないんじゃない?
という意思のもと(何や
オベロン社ですね、はい。
ジューダスは最後、ここに戻ってくるんではないかなーとか思いつつ。
狽ヘっ、捏造EDの布石に使えるんではないか!?←馬鹿
なんてことも考えつつ。