今この状態になってしまったことに対し、僕はどうしたらいいと言うのだろう?
「…おい、スタン。」
「んー?」
「僕はリオンじゃないんだぞ。」
「そんなの一目見ればわかるよ。」
見てわかるのか、すごいな。
ではなく。
「分かっているなら、なんで一緒に帰ってるんだ?」
「カイルもリオンも用事があるって二人で行っちゃったから。」
「それは知ってる。僕だってカイルにおいてきぼりをくらったんだ。」
「だったら一緒に帰るくらいいいじゃん、寂しいものどうし。」
「…寂しいとか言うな、不愉快だ。」
「つれないなぁ。」
よく言う。
一緒に帰ってやってるんだ、つれないなんて間違ってる。
日の沈むアスファルト舗装の道路を二人、ほぼ無言のまま歩いていく。
何か変なものでも食べたか、スタンの顔色は浮かない。
僕にしてみれば、普段はカイルが引っ切りなしに話しかけてくる分、静かなものは久しぶりで逆に落ち着かない。
こちらから何か話題でも振るべきかと口を開こうとした瞬間、ようやくスタンのほうから口を開く。
「…リオンさ、今年くらいチョコくれないかな…。」
「…。」
そういえば僕の片割れは、まともにチョコを渡したことがないな。
付き合い始めて(アイツは不本意というが、嬉しいのに間違いないだろう)もう3年は経つというのに。
毎年毎年、用意するだけして過ぎた頃にとてつもなく自己嫌悪に満ち満ちた表情で見つめて、自分で食べている。
コイツはそんな事情なんて知らないだろうから、落ち込みもするか。
少し伏せ気味に細められた視線は地面に向かって一直線、何事にも真剣そのものなコイツにとっては重大なことなのだろう。
正直に話してもいいが、そんなことをすればリオンは怒る。
別にリオンに怒られることは恐くないが、だいたいシャルにまでとばっちりが行くからそれはよくないだろう。
とはいえ、スタンが落ち込んでいるのは心苦しい。
カイルが心配する。
歩く足どりを緩めるでもなく僕は腕を組む、どう言えば納得するか。
「やっぱりさ、貰いたいもんじゃない?オレのが攻めなんだし…。」
そういう定義もどうかとは思うが。
自分が乙女的な思考でもしていない限り、自らチョコを渡すのが楽しいとは思えない。
その証拠にリオンは葛藤しているわけで。
僕もどちらかといえばスタンと同意見だ、貰えるほうが嬉しいに決まっている。
「…もう少し強くねだってみたらどうだ。お前、すぐに折れるだろう?」
「う〜ん、だって、リオンに対して強攻姿勢になんてなれないというか…。」
「だからだ、アイツには多少強くねだってみるくらいがちょうどいい。」
「えー…。」
「アイツのご機嫌をとりたいのなら、欲しい以前に、自分で用意すべきだがな。」
「いや、今年こそは欲しい、だってもう3年も…。」
「なら多少強情に行け。僕にはこれくらいしか言えん。」
柔らかな物言いこそ出来なかったが、スタンは納得したらしくようやく視線を上向きにかえる。
機嫌の直ったらしい表情からは決意が伺え、今年こそは何か進展がありそうな予感さえさせてくれた。
こういう表情にリオンは惹かれるんだろう、アイツの前だと甘ったるい笑顔しか浮かべないから。
真剣なほど―――。
似ているようで、やっぱりこの兄妹弟は似ていないこともある。
「やっぱり、ジューダスと帰れてよかったよ、たまには。」
「?」
「こんな相談、カイルには出来ないし。」
どうやら、カイルは話してないらしいな。
以前、リオンは毎年バレンタイン前に葛藤しているということを話してしまっていたから。
「…してみてもいいんじゃないか?お前の問題なら、真剣に考えるだろう。」
「いや、ほら、カイルはあの通りだから…恋愛には疎いというか。」
「僕もあまり変わらないと思うが。」
「ジューダスの意見は、的を得てるんだよ。それに、やっぱリオンと似てるし。」
「一卵性なんだから、似ていないとおかしい。」
「だからいい意見が聞けるんだよ。」
ご機嫌な様子で足取り軽く歩いていく、まぁ、たまにはこういうのも悪くはない。
「なぁなぁ、また一緒に帰ってもいい?」
「…こういう状況なら、考えてやらんこともない。」
「よっしゃ、いい相談相手ができた!」
そうしているうちに、もうじき分かれ道がやってくる。
学校から家まで、方向は同じだが、ここで別れなくては家に帰れない。
「じゃ、またな、ジューダス!お互い頑張ろうな〜!」
「…。」
手を振り駆け出すスタンに軽く手を上げて返すと、ようやく僕は一息つく。
そんなふうに言われては、なんとなく不安になる。
「カイルは…くれるんだろうか?」
甘い物は好きだ。
カイルに貰えればすごく嬉しい。
が、自信を持ってもらえるとは言い難い、カイルは――疎い。
葛藤はしばらく続き、帰路についたのは日が完全に沈む頃だった。
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