静寂に満ちた夜半、闇を飾る月光さえも青白く、凍てつくような空気。
火に焼べられた枯れ枝の爆ぜる音が時折小さく小さく響くが、仲間の寝息さえもこの静寂は消してしまっている。


寒い夜だった。
旅のどの過程であっても、こんなに冷え込む夜は初めてだったかもしれない。
心許ない薄い毛布をかけた仲間達は薄手の者も多く、寒い思いをして毛布にくるまっているのだろう。
一様に手足を丸め、まるで胎児のような体勢で。




珍しいことに、スタンは起きていた。
おおよそ彼に夜の警戒は向いてない、必ず寝てしまうから。
それが珍しく、皆が寝静まる中で彼はぼんやりと起き、ぱちぱちと爆ぜる焚火を見つめていた。
交代にあわせてか、スタンの隣にはリオンが眠っている。
冷たく固まった土の上に薄い敷布団を引いて、マントと毛布を体巻いて縮こまっていた。


彼がスタンに心を許すようになったのは、いつからだったか、いまいち覚えていない。
でもスタンは嬉しかった、こうして何も言わず寄り添ってくれることが。
ぼんやりと焚火を眺めていた目を、リオンのほうへと移した。
普段は決して見れない、あどけなさの残る端麗な顔。
細く色白な顔は焚火に照らされ、表情もなく寝息を立てる。


まるで、死んでしまっているような―――。


ありえないことだと思い込みたかったが、一度意識してしまうと恐ろしくなった。
体を預けていた石から腰をあげ、膝をつきリオンの顔を覗き込む。
触れても、温もりを感じないんじゃないか。
胸は上下しているのに、何故こんなことを思ってしまうのだろう。

そ、と手を伸ばして、白い頬に触れる。

それはまるで幼児のような温もり。白く冷たい見てくれとは違う、柔らかな温度。
死んでなどいない。ちゃんとここに。


「スタン…?何を、して…。」
「あっ…ごめん…起こしちゃったか…。」


閉じた瞼が薄く震え、虚ろな視線がスタンに絡む。
紫藍に染まる瞳が、だんだんと区切りをもち、焦点を合わせていく。
触れていた手を離せば、リオンはゆっくりと身を起こした。

「なんだ…?眠いのか…?なら交代を…。」
「え!?いや、そうじゃないよっ。」







君がまるで死人のようだったから。







口に出かかった言葉を喉元に押し込み、声をつまらせる。
リオンが訝しむような視線を向けて来たが、スタンは返答に困ってしまい、まごつくことしか出来なかった。
常に鋭い視線を、き、とさらに細めながら見つめてくる様にスタンは縮み上がりそうな気持ちだったが、そうもいかない。



「どうしたのかと聞いている。」
「それは…。」
「話せないのか。」
「…聞いたらきっと、不愉快になるから…!」
「なおのこと、話せ。そうやって抱えるな。」
「…。」



リオンの強硬的な姿勢を崩せるほど、スタンは賢くない。
渋々口にする、ほんの数分前に感じたあのこと。


君がまるで死人のようで―――。


スタンの独白を聞いたリオンは、呆れ返るようにため息をついた。
恐る恐る彼を見返すスタンは、まるで蛇に睨まれた蛙のようで。
変なことをいって、嫌われてしまったのではないだろうか。

そんな不安が過ぎる。

しかしそんな思いとは裏腹に、リオンは布団から体を離すと、縮まるスタンの胸にしな垂れかかるように体を預けた。
唐突な行動にスタンは抱きしめ返すこともなく、ぽかん、と惚けてしまっている。
が、すぐに変な状況に気付くと、はっとしてリオンの肩に手を置き、赤面を始めた。



「わ、あわ、リオン、何を…!」
「こんなことするのはこれきりだからな、よく聞いていろ。ーーー僕の体は冷たいか?」

「―――…。」



「お前に触れている肌も、鼓動も。冷えているか?生を感じないか?」




「僕は死なない。こうしている限り、絶対に。」



「お前のために、呼吸をする。鼓動する。」




「リオン…。」

「わかったか?」

「うん…ごめん…。」

「ならいい。見張りは代わってやる、寝てい…っこの馬鹿!何を…!」

「一緒に起きてる、オレも。」

「…途中で寝ても知らんからな…。」

「大丈夫、起きてるから。」



細い体を抱きしめる。
外気に曝され、冷えてしまわないように。



あぁ、君がために。





END




DC発売まであと4日、ということでスタリオ。

珍しくスタンを甘やかす坊ちゃんが見たかった。
時間軸はよく分かりませんが、たぶん、アクアヴェイルについたあたりくらいかと思われ。