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寝ている姿は安らかで、呼吸の音だけ静かに飛び交う。 いくらも変わらない歳なのに、どこか自分よりも大人びた姿。 道を重ねた数なんだろうか。 寝顔の幼さは、ぼくとそんなに変わらないのに。 Tribute 失ったものはいくつなんだろう。 ぼくは両手の指で数えられるか、それくらい。 この人はどうなんだろう、寝顔の安らかさは、その欠落をけして語らない。 どうしてなんだろう。 何を失ったんだろう、時々酷く切ない顔をするのに。 それでも、眠っている顔は安らかだなんて、ずるい。 可愛い顔、起きているときは、毒々しい言葉すら、時に平気で吐いたりするのに。 黙ってれば可愛いのに、いつもそう言われて、大体言った相手はバットのフルスイング。 ホントだよ、ぼくは何の特権か、乱闘以外で殴られたことないんだけど。 特別?ならすごくうれしい。 だけど冗談、この人の目には、ぼくは後輩、弟のようなもの。 ソウイウ意味の特別なんてありえない。 ネスさんは、何を失ったんですか? 答えは一度もない。 返事をくれるときに、質問したことなんてない。 聞く勇気はぼくにない、豚王の最後に居合わせた、僕には。 馬鹿なぼくにだって分かる、きっとすごく傷つけてしまうだろう。 ねぇ、何を失ったんですか? すぅすぅと静かに立つ寝息、ぼくだけが一人。 どうして、膝を折るんだろう。 広い広いシーツの中で、小さい体を、もっともっと小さくして。 だけど腕は、どこかを掴む。 空気を、過去を、飛び交う思いを、ぼくの、腕を。 すぐに離れていく、ほんの一瞬。 どんな夢を見てるんだろう、いつもいつも、何かを失う夢なんだろうか。 安らかな寝顔は、何も教えてくれない。 静かな音、呼吸のたびに、少しだけ髪が動く。 夢の中身なんて、見ようと思えば容易いこと。 ぼくにとっても、ネスさんにとっても。 人の心の壁なんてもの、ぼくらのような存在にとって、薄すぎる障害。 寝ていて無防備なら尚、きっと触れ合うことすら可能だと思う。 そうして覗いた夢の中に、何があるんだろう。 幾度となく挑戦しかけて、やめた。 きっとそんなことしたら、夢の中で彼はまた、笑って許してくれるだろう。 無理な笑顔が見たいわけじゃない。 どうしたの、リュカ、って。 仕方がないね、眠れないの?って。 ぼくを甘やかす、優しい言葉、だけどぼくの欲しい言葉じゃ、ないんです。 豚王の最後を知った時、ほんの一瞬、痛々しいまでの感情を広げて、すぐに収めた。 ただ感じてしまう、酷く心を痛めた、そんな色。 その後の言葉なんて全て枯れ葉の色のようで、ネスさんはそう、そう言って、笑った。 痛みの色すらも鳴りを潜めて、小さく小さく、だけど確かな切なさで。 その日から、ネスさんと目が合わない。 いや、合ってはいるのだ、目、そのもの自体は。 だけどぼくたちの感覚では、決してあってない。 彼はいつもどこか遠くを見ている、ここではない空間のどこかを。 ねぇ、あなたとアイツは、どういう―――? どうしてあなたは、アイツの姿を見たときに、心を崩したんですか? 果敢な緑の光が破裂する、その瞬間の強気な赤色は。 アイツ自身が現れた時、そういえば、豚王の最後を知ったときのような、そんな空気。 教えてほしいことはたくさんで、ぼくが教えられることはほんの少し。 アイツは今も生きている。 醜い姿に慣れ果てて、科学の粋に閉じ込められて。 哀れな姿になって、あなたを馬鹿と呼んだこと。 だけど、アイツを取り巻く環境の全てに、あなたがいたこと。 おもちゃ箱のような夢の空間に、大事に飾られたヨーヨー。 都会の箱の中で、静かに流れていくあなたの歴史。 満ちた水の上を流れていく、アイツとあなたの世界の時間。 あなたのことなんだって、ぼくはすぐにわかったんだ。 前に進む力をくれた、ねぇ、あの時のこと、覚えてるのかなぁ。 ぼくは今もまだ、あなたへの感謝の気持ちでいっぱいなのに。 溢れ返る言葉の羅列も、話の後では伝わらなくて。 ううん、伝える気にすら、なれない。 きっと上の空、伝えたってあなたの心はアイツのところに。 アイツは、憎み切れないほど、ぼくらを壊していったのに。 ぼくが感じるに、あなたもアイツに、酷く傷つけられているはずなのに。 ねぇ、それでもあなたは、悲しむんですね。 静かな吐息、時々寝言のようなつぶやき。 単語にすらならない音が、たびたびぼくの耳を打っていく、けれど無機質な音。 寝ているときくらい、素直になればいいのに。 言葉を噛み砕くような仕草、誰にも伝えてはいけない、まるで秘め言葉。 ぼくのことを気遣ってるんだろうか、聞かれていたらいやだろうな、とか。 そういうことを、考える人だから。 あなたの唇が、アイツの名前を呼ぶところなんて見たく無い。 当然のことだと、思うけれど。 それでもあなたが呼びたいと思うとき、ぼくが枷になるなんて不名誉この上ない。 呼びたいのなら呼んで、ありったけの愛を込めて。 嫉妬心なんて、そんなに汚いものじゃない。 感謝の気持ちが尊敬に変わって、そう、綺麗なものを汚される、ただそんな意識。 だから、 「ね、ぇ…。あなたとアイツは…どんな仲だったんですか…?」 どうせならばぼくが口を挟むことができないような、それくらいの深い仲だったら、いいのに。 震える声で精一杯に紡いだ音、眠り姫には届かないことを祈って。 聞いてほしくなんてない、知りたくても、ぼくには差し出すものがなにもない。 わたすだけではきっとまた、この人を失わせてしまうから。 差し出すものがなにもない、だから聞いちゃ、ダメ。 「―――…ともだち、だよ…。」 「えっ…。」 「ぼくの大事な、ともだち。」 「ネスさ、ん、起きて…っ…。」 「毎晩毎晩そんなことされてたら、さすがに気づいちゃうよ。」 不意に、唐突に、突然に、シーツの隙間から双眸が薄らと開く。 目を細めたまま、小さく微笑む。 顔の前で畳んだ腕をちょっとだけ伸ばして、にこりと。 「聞きたかったんなら、すぐ聞いてくれたらいいのに。」 「それはっ…その…。」 「聞けない理由は?」 「………。」 布の端を抜けて、腕が伸びてくる。 少し身を起こした彼の瞳がじっとぼくを覗きこむ、そらせない薄紫色の光。 右の指が、僕の頬を撫でるようにして添えられて、さらに笑む。 瞬間、心の奥底を鷲掴みにされるような、言い知れない不安定な感触が襲いかかった。 ネスさんの手が、指が、ぼくの心に触れている。 「黙っててもダメだよ、わかるでしょ?」 「…ずるい、です。」 「リュカだって出来るだろ、覗けばよかったのに、ぼくのなか。」 溢れ返る思い出を勝手に盗んで行け、と? そんなこと出来ないのに、こんな動揺すら、今は伝わっていることだろう。 心が揺れれば、たとえ触れ合っていなくても彼は読んでしまうだろう。 ぼくとあなたじゃ、サイキッカーとしての力が根本的に違うっていうのに。 あなたに勝てる気はしないのに。 「真面目に練習しないからだって、ちゃんと練習したら、痕跡も残さずにぼくのなかくらい見れるようになるよ。」 「…ネスさんだから出来るんです、ぼくは…やりたくない、もん…。」 「それは正解なんだけどね、リュカ。」 もぞもぞ、とシーツを剥いで、ネスさんは本格的に体を起こす。 頬の手はぴたりとも動かず、ぼくを脅す姿勢は変わらない。 「ぼくだって別に好きでダイブしてるわけじゃないんだけど、だよ。」 「…でも今だって…。」 「話してくれないじゃん、リュカが。」 「………。」 「気になることは聞いて、隠し事は無意味。辛いだけ。」 「だけど…!ぼくは!!」 「…リュカが何で言わないか、あててあげようか?」 ふ、と圧力が消えていく。 頬の手が離れて、顔が遠のいた。 「何もないから、とか言うんでしょ?」 「…っ!」 「ねぇリュカ、ここはきみがきみを擦り減らした世界じゃないよ。」 差し出すものがなければ生きていけない世界。 何時の間にか世界の法則が変わっていて、生きるために必要なことは何でもやらないといけなかった。 身にしみついた習慣、非現実がいつのまにか当然になって、ぼくらはかわった。 いつのまにかそれが世界の真実なんだと思わざるを得ない、そんな。 渡すものがなければ奪うまで。 いつしか、そう、思っていた。 それは決して変わらない掟なんだと、変えられないと。 「大丈夫だよ、リュカ。ぼくは失くすこと自体は怖くない、何も。」 「どうして…?」 「失くすことを悲しむのは、もう飽きたよ。」 「………。」 「後悔はいっぱいした、どうして失くさないといけなかったのか。」 あの人をどうして助けられなかったのか。 後悔という言葉の端に乗る、小さな小さな思い出達。 旅の中で失うものは形あるものだけではないと、そうと色に乗せる。 「助けられなかったのか、痛いのも、慣れちゃったよ。」 「…っ…。」 「それにね、リュカ、失くしたら、埋めればいいんだよ。」 「…え…?」 「悲しいことを忘れろって言うんじゃなくてね、光が見えたら、辛いことはお墓に埋めてしまうんだ。」 「………。」 「墓標は消えない、悲しいことを忘れたりすることは、絶対にないけれど。」 失うことは必ず起こる現実、現実を拒否する心は停滞。 傷ついてなお進もうとする姿勢、あぁだからぼくはこの人を尊敬していて。 「それに、リュカの小さな疑問くらい、ぼくには痛くもかゆくもないよ。」 「…やっぱりずるい。」 「ずるくないよ、ねぇ、ぼくは答えたよ、アイツはぼくの友達。」 「…とも、だち…。」 アイツもそう、言っていた気がする。 「幼馴染だったんだ、家が隣でさ。ホントはね、いい奴だったんだよ、面倒見もよくて。」 「っうそ…!」 「ホント。」 「だってアイツはクラウスを…!!」 「あんな風になっちゃったのは、きっとぼくのせいだから…。」 あぁ、また。 あの色が浮かぶ。 痛々しいまでの強い思い、ほんの一瞬。 青色の負い目を全部詰め込んで、自己嫌悪のリボンで留めた、袋詰めの感情。 だから、言葉は続く。 「ぼくが、終わらせないと―――。」 そして、重い言葉が―――。 ダメ、ダメ、この人にこんな言葉を言わせちゃ、ダメだ。 ダメ、だ―――。 気付くと僕は、制御を失った自分の力で彼の体を押し倒していた。 むしろ、そんな可愛げのある圧力ではなく、言葉を放つ身体自体を壊しかねないほどの力で。 呻き声すら上げられない、苦しそうな顔が飛び込んできて、ようやくぼくの眼は醒める。 なにを、した、いまぼくはなにを、なにを。 戻った意識はコンセントレーションを乱して、すぐに拘束は消える。 途端に彼は大きく息を吐き出して、続いてげほ、と咳き込んでしまった。 数度咳込んで、何も出来ないままただ震える手を見下ろした。 秒か分か時なのかも判別がつかない時間が流れて、ようやく身を起こしたネスさんは、 今にも泣きだしそうな顔で、ぼくを抱きしめる。 「ご、めんリュカ、ごめんね、重かったね、苦しかったね…っ。」 「ね、す、さん…?」 「ごめんね、こんなこと口にしなくても伝えられるのに…ごめん、ごめんリュカ…っ。」 「ネスさんは、何も…ぼくが…っ…。」 「ごめん…ごめん…こんなだからダメなんだ…!ぼくのこころは…!!」 暗くて歪んでしまってる―――!! 声にならない声はそう叫んで、彼はぼくを抱きしめたまま、泣きそうな声で謝り続ける。 ―――あぁ、愛しいな、なんて不謹慎。 「ネスさん、…どうか、あの…もう、謝らないで、ください…。」 「やだ…ごめんリュカ…だって、あんな苦しいもの…制御できなくて…。」 「…ぼくこそ、ごめんなさい…自分の力も制御できない未熟者で…っ。」 「リュカ…!」 「ねぇ、ネスさんも、もっと話して…。」 する、と離れていく体を、今度はぼくが抱きしめる。 全部伝わってしまえばいいのに、ずるい、心の奥底まで見せてくれないんだから。 ぼくに求めるのなら、同じように話して。 その苦しいものも全部、ぼくにください。 「あのときとは、逆です、ね。」 「…幻惑の島のこと…?」 「!―――覚えて…。」 「忘れるわけないだろ、その後もずっと心配してた、こっち来たら元気そうだから、安心したんだけど…。」 「…なんだ…。」 出会った直後は、話す余裕なんてなかったけれど。 忘れられているんじゃないかと思って、ぼくは不安で仕方なかった。 だけどよかった、よかった。 ねぇ、だったら。 「苦しいもの、話してよ、ぼくも聞きたい。」 ちゃんと落ち着いて聞くから、ぼくはもう、弱いままでいたくない。 全部全部伝われ、ぼくの思い全部、この人を助けたい気持ち、全部。 拒まないで、どうか。 抱きしめた体の頬を探して、触れる、黒い髪にもたれて、目を閉じる。 変わらないはずの体格も今だけ何故か、小さく感じた。 少しだけ震える体に抵抗はなくて、すんなりと、ぼくは心に触れる。 びくん、と跳ねる、慣れてないだけだろう、この人の心の壁は人よりももっと固いものだ。 ぼくには練習と言って時々開けてくれるけれど、知ってる、ホントの奥は見せてくれない。 だから拒まないで、今だけ。 ほんの一瞬でいい、負担はかけたくない。 心に潜られる圧力はわかっているから、すぐに終わるから、どうかほんの少し。 思っていたよりも簡単に、扉は開いた。 * たくさんの思い出が、そこにはあった。 ぼくにはないような思い出もたくさん。 楽しい思い出の中に、辛いだろう思い出もたくさん。 折り重なったその奥にある、暗く歪んだ、その場所も。 どうしてそうなっているのか、“彼”自身も分からないと、そう言った。 消えることのない歪みの塊、思い出の中に潜んだ、―――だけど小さな悪意。 ぼくは思わず、泣いていた。 なんでかわからないけれど、たくさんの思い出を一度に見て感情的になってるんだろうか。 ただぼくの目からは間違いなく涙が流れていた。 ぼくの知る豚王とはかけ離れた姿と、その末路と、変わり果てた今をぼくは知っている。 この人の大切な人、何があったかも全部全部知ってしまった。 ―――剣士さんたち、へこむかな。 そんなことは今は、どうでもいいことか。 向けたかった言葉、向けかけた悪意。 淀んだ気持ちはすごく苦しかったはずだ、なのに彼は、一度たりとも口にしなかった。 それどころか笑顔で、ぼくの前にいた。 初めて会ったときもそうだ。 この人はどこからか現れて、ぼくの幻惑を抱きしめてくれた。 2度目に、再会したときもそうだった。 颯爽と現れて、辛いはずの過去を目の前にしてほんの一瞬だけ顔を歪めて、 その後も笑っていた。 苦しかったはずだ、誰にも話さないでいることは。 辛かったはずだ、一人で豚王のことを心配し続けるのは。 「…なにか、言ってた…?」 「…いえ、なにも…。」 マルスさんたちには絶対に言わないこと、と口止めされたことは、言わない。 心の奥の―――悪魔はそう言った。 何が彼を生み出したのか、深いところこそ分からなかった。 だけど確かにアイツのせいであること、ネスさんの辛いものの塊であることは理解できた。 それだけで十分だ、ネスさんはぼくに見せてくれた、それだけでいい。 「失うのも…怖いんじゃないですか…。」 「………。」 「ホントは怖くて怖くて、だからそんなに辛いのに。」 「そうだよ…守るものがたくさんあるんだ…だけどぼくは守れなかった…。」 「だから、こわいんですね…?」 「守れなかったら、どうしよう、怖いよ、ホントはすごく怖い。」 表情はうかがえないけれど、言葉にウソはない。 ぼくと同じ、失うものはたくさんあった。 指折り数えられるものでもない、お互い変わらない数の、喪失感。 怖いよね、怖いよ。 辛くて辛くて仕方ない。 ぼくもまだ、乗り越えられていないけど。 「ネスさんが何かを失くしたら、ぼくが、埋めます…。」 「リュカ…。」 「マルスさんたちには出来ない、でしょ…?」 「…出来るわけない、よ。」 「なら、やらせてください。」 あなたに捧げる感謝の言葉じゃ、語りつくせない。 尊敬の言葉も賛辞もきっと聞き飽きてるなら、ぼく自身を捧げます。 あなたの欠落も全部、ぼくで埋めるから。 どうか心から、笑って。 翌日の夜、彼はぼくの世界へと旅立った。 Tribute―――あなたに捧げるためにこの場所を選んだんです。 ひとつ前に書いた方向音痴の前後話、時間的には前。 亜空終了直後くらいで、段々乱闘なんかが再開され始めるころのお話。 リュカはこの時までネスのあくまの存在を知りません。 てゆかネスのあくまの存在は現時点で誰ひとり知りません、母2組とケンパパだけ。 1.リュカとネスはXが初対面ではない 2.ネスは強く呼ばれたりすると心だけで飛んでったり出来る 3.タネヒネリ島で一度呼ばれている 4.ネスもリュカも人の心が読める、ある程度まで記憶や精神的なものに入り込める 5.ネスのあくまは表面上には出てこない 6.マルネス・ロイネス、クラリュが前提 笑顔の理由が知りたかった、という結論、リュカは理由がないと笑えない。 そしてとにかくポキネス色が強いという。 リュカはキングP様よりもヨクバが嫌いという前提があります。 実感が湧かなかっただけなんだけど、いきなりラスボス黒幕って言われても、悪意が向けられなかったと思う。 ネスとあくまは時々シンクロします、これはもう強制イベント。 ちなみに、どっちも心に潜られるのは苦手です、どちらも神経質なので、下手すると卑猥なシーンになりかねない。 鈍感な人間ほど心を探られてもあまり不快感がない設定。 ネスがロイやマルスの心を覗いたり出来ないのがこの理由、二人が結構神経質なのが分かってる。 何かって言うとリュカが悲しすぎるくらい片思い。 |