きみはもう、ここにいない。
きみはもう、ここにいない。
きみと過ごしたこの街の、大事な記憶、それすらも。
全部全部、きみは馬鹿にしながら消えてしまった。




方向音痴




お前なんか大嫌いだよ。
なんて、ぼくだってお前なんて大嫌いだったよ、卑怯者。
自分では何もしないくせに、今までも、これからも。
知ってた、知ってたよ、ぼくの言葉、一つも信じてなかったこと。
でも信じたいって思ってくれてたこと。

オネットの道路を踏むのは、相当久しぶり。
マスターにお願いして、しばらくオネットには振られないようにしていた。
そっくりな世界、だけどそこは本当のぼくの街じゃない。
ここはまるで鏡の中で、ここにきたって、ここで探したって、ぼくの探しものは見つからない。

本当のお前は、どこにいるんだろう。

リュカの話じゃ、最後にどうなってしまったのか、わからなくて。
馬鹿な、やつ。
保身ばかりにとらわれ過ぎて、ぼくの言葉は届かなかった。
わかってる、ぼくの力が足りなかった、それだけだ。
今となってようやく冷えている頭は、アイツがぼくにしたことと、ぼくがアイツにしたこととを、繰り返し思い出させる。

それでも、ぼくはずっと友達だと思っていたから。

その言葉も結局届かなかったの、知ってる。
最後に伸ばした手も、アイツは叩いてしまった。
ただ失いたくなくて、大事な友達を、守りたくて伸ばした手。
思いは空回り、アイツはぼくの手に悪意を感じて、振りはらった。
ただ守りたかった、それだけの気持ちすらも届かないほど。
開いてしまった亀裂、届かない指と言葉に出来ない傷だらけの感情。
だけど、だけどぼくの傷なんて。

いつからだったんだろう、あんな風になってしまったの。

小さい頃は、それこそ本当に、頼れるお兄ちゃんだった。
さほど年が変わるわけでもなかったけれど、いつもぼくと遊んでくれた。
弟が出来てからも、一緒にいてくれた。
アイツと歩く街は楽しくて、毎日がとても、とても―――。

風の抜ける音以外、街には何一つ音がない。
乱闘のないステージは観客が入らなければ、人はいない。
生活に使っているわけでもないオネットは、ただの闘うためのステージ。
大丈夫、ぼくの思い出はちゃんとある、別にここがどうなっても、関係はない。
そうと、わかっていても。



「やっぱり、うん、ちょっとはヤダなぁ、って思うんだよね…。」



別にここが壊れても、そう、問題はないんだけど。
壊れたら、マスターがすぐ直してくれる。
どんなに暴れて回っても、何が起きても、この空間では許される。
ぼくの知ってるオネットでそんなことしたら、すぐにうるさい警察達が現れて、事情聴取に5人抜きだろうけれど。

ここはホントは、ぼくのオネットじゃない。
そんなこと、知ってるつもりだったけど。
ここにいても、何も思わない、ここにあるのは無機質な模型。

ぼくの思い出はどこにもない。

アイツと歩いたこの街の、思い出はどこにも。
不良に絡まれたら、助けてくれた。
同級生に絡まれたら、ぼくが助けた。
楽しいことは分け合った、辛いことも、わけあっていた、つもりだった。

いつから変わってしまったんだろう。

静かなオネットの街、思い出を探して歩いても、目的地は見つからない。
アイツと過ごしたこの街を、一人じゃ、歩けないよ。

変わり果てた姿に、涙よりも先に。
わかってる、わかってるんだ、これはぼくの友達じゃない。
可哀想、可哀想、どうか助けて―――!
だけどその姿は、ぼくの甘さを嘲笑って、だけど、そこにいたのはアイツじゃない。
どこにいったの、ねえ。

一人じゃ、歩けないよ。
前に進む道はどこにでも溢れているけれど、ぼくは今、前なんて見れない。

救い出したくて、必死で壊す。
その姿をきっとお前は笑うだろうけど、ぼくはどうか、どうか。
信じてほしくて。
ぼくの言葉を、信じてよ、大事な友達だと言ったこと。
ねぇ、いつから変わっちゃったんだろうね。
どんなに何か言われても、何をされても、ぼくは―――。
助けに行っていた、そう思っていた、ねぇ、いつからそんなに卑屈になってしまったの?

ねぇ、何がお前を迷わせたの?

ぜんぶが原因に決まってんだろ、ばーか。
お前はきっと、そう言うよね。
みんながお前を追い詰めていた、知ってるよ。
どうにか救い出したくて、でも、折れたこころに、届かなかった。

なんでもできんならしてみせろよ、なんて。
頷いてしまったから、なんだろうか。
求められていたのは、そんな言葉じゃなかったんだろうな。
今思っても、もう遅いけれど。
もう何年前の話になるんだろう、いつからアイツは、おかしかったんだろう。

それでも。
ぼくはお前と一緒に、この街を歩きたかったんだよ。
ひとりじゃ、歩けないんだもの。

考えても考えても、堂々めぐり。
街は静か、答えはない。
終わらない、いつまでも、ぼくがアイツに会うまでは。



「―――行きたく、ない。」



 
だってまた、迷うから。
いつまでも終わらない、方向音痴。
どれだけ待っても、叫んでも、泣いても、喚いても。
アイツはここにはいないから。

ここにぼくの家はない、遠めに見える崖の上
。 形ばかりに添えられた、小さな家はただの模型。
はじまりの場所すらどこにもなくて、どこにいけばいいのか、それすらわからない。

―――探したって、見つからない。

ねぇ、ねぇ。誰か。
この手を引いてくれないと、もう、歩けないよ。
一人で街を歩いても、何も見つからない。
一人で行くのは、ホントはとてもいやだけど。

だけど放ってはおけない、助けに行かないと、ぼくの大事な友達。
ここにはいない、ぼくの友達。
迷子のぼくは、きっと頼りないだろうけれど。

でも、本当に怖くて。
あの時、拒絶の言葉を叫んだことも。
いつだったか、憐みの目で見つめてしまったことも。
きっと全部、覚えているから。

迷う、何もない、からっぽの世界で方向音痴。
アイツと過ごしたこの街が、今でも、ひとりじゃ歩けない。
この街のどこを探しても、アイツと出会った場所はない。
取り戻しに。

大事な思い出を、取り戻しに。
ぼくだけの音で、取り返す。

怖くて怖くて、仕方ないんだけど。
だけどもう、一人で迷うのはいやだから。



かたん。
後ろで物音、敏感な神経が音を感じ取って、だけど思考が追い付かない。
反射だけで振りかえることが精一杯で、いつもなら、ステージに来たところで誰かわかるはずなのに。
振りかえるなり、ぼくの腕は思い切り引かれて、あぁ、これは。
引かれるままに、青い海に飛び込むように、腕の中に引き込まれる。
強い力、冷たい色を感じない、あったかい音。



「…どこ、行ったのかと思ったよ…。」

「…別に、どこだってぼくの勝手だろ…。」



触れている指がとても冷えている、まるで冷たい、青い髪の色みたいに。
リュカの話を聞いたときに一緒にいたから、いらない心配をかけてしまったんだろうか。
―――マルスが、ここまで取り乱すのは珍しい。
触れた時に巡る心の動悸が、酷く落ち着きなく揺れている。
超能力者の特権っていうのは、ときどきホントに便利で。
熱を持ち始めていた思考回路が順々に落ち付いていって、強い力に多少息苦しさを感じながら、身を任せる。
腑に落ちないけれど、マルスが来なかったら、たぶんこのまま行っていた。
昂った意識がまともな考えを引き裂いていく、きっとまた、苦しくなっている。



「急にいなくなっちゃうんだから…リュカも、探してたよ?」

「…うん、ごめん、気になっちゃって…。」

「話のことだよね、僕にはついていけないことだったけど…。」

「内輪の話だから、当然でしょ、ほっといてくれたら…。」

「―――ほっとかなくたって、君は行ってしまうだろ?」



当然だ。
マルスがこうしてぼくを抱きしめていても、ぼくはそれを振りほどいて、行く。
アイツを助けないといけないから、何より大事な、ぼくの友達。



「でも、さ、ほっとけないよ、やっぱり。」



ぼくの肩に頭をのせて、だけど強く、言葉が響く。
ひしひしと伝わる思いの強さがでも、あぁ、道が見えてしまう。
まだダメ、まだ、もう少し待って。
もう少し、迷わせて。

ぼくはまだ何も解決していないから、どうかもう少し。
アイツを手向ける、その時まで。



「―――ね、マルス。」

「…うん?」

「ちゃんと帰ってくるから、待ってて。」

「…。」

「迷ったりしないで、ちゃんと帰ってくるから。」

「うん。」

「そしたら、ロイとさ、歌ってほしい歌があるんだ。」

「―――うん。」

「だから、行ってくるね。」

「―――…うん、行っておいで。」



冷たい指が、少しだけ名残惜しげに離れていく。
ぼくの頬を撫でた指は、すぐに引っ込んで。

もう少しだけ、前は見ないけれど。
少しだけ地図から、逸れていくけれど。
一人ではまだ、歩けないだろうけれど。




「行ってきます。」




アイツと過ごしたこの街が、たとえ一人で歩けなくても。
ねぇ、なら、一緒に歩こう。
手向けの歌を、大声で。

地面を蹴る。
とてもとても暗い時空を思い描いて、走る。
超えた先に、どうか―――。




方向音痴―――初めて出会ったあの場所を、探して歩いた方向音痴。





名曲インスパイア。
妄想してるときにかぶってしまって、うわ、これしかない…と思ってしまったが故に出来てしまいました。
若干ポキネス描写アリのでもマルネス、そしてロイネス。
亜空が終わった直後くらい、落ち着いてリュカの話を聞いて動転しちゃったネスさんのお話。
ポキネスの切なさは異常。
王子がなんか珍しくカッコ良くなった気がする^^









Back