疑問は疑問として形のまま残り、消化という手段には移り変わらない。
早く解決してしまいたいのに、言葉を求めてしまえばきっと、疑問があったことすら消えてしまう。
君は決して答えをくれない、僕も決して、そして、貴方も。






昼下がり






全力で愛してしまうと、この子は壊れてしまうんじゃないか、と思う。
小さい体にからは想像もつかないほど、重くて黒い何かが、その背の向こうに見える気がして。
口に出して聞いたりはしない、この子はきっとそんなこと、語りはしない。
必要以上に構いたくなってしまうのは何でだろう、幼さが自分の仲間に似ているからだろうか。

あの人がこの子を構うのは何でだろう。

膝の上でゴロゴロと転がる姿は、年相応だけど、何を考えているのか、見当もつかない。
ただの深読みなだけならいいんだ、そう。
時折、この子と目が合う時に走る奇妙な感覚の正体すら、教えてはくれないだろう。

どうしてあの人はこの子を構うんだろう、疎ましがられていても、まったく聞き入れない。
かくいう僕も多少、疎ましがられてはいるんだろう。
けど、こうして膝を貸し与える権利をもらえたのだから、そんなに酷いものでもないんじゃないかと、思ってる。
何を考えて僕の膝の上に寝転がろうなんて考えついたのかは知らない。
うつらうつらと揺れる頭が、何を考えているのか。

憶測に、すぎないんだが。
僕が何を考えているのかは、この子に筒抜けている。
ぴくりと動く体が返答なら、間違いではないのかも、言葉での返答は存在しない。
力の由縁を聞いたことがない、だけど僕の持っている知識の似通うものは賢者か司祭。
しかしそのどちらでもないと、この子は言う、初めてくれた言葉。
もっと器用で、便利で、酷く疲れるもの。
彼らほどの手間はない、そうだろう?
思いつく言葉を並べてみたが、今度は反応がない。

その感覚は、僕の心を漁る君の力か、それとも僕の、恋心か。

ただ一方的に思うことを、僕は知らない。
恋は、お互いが自認するまで動かないものだと思っていた。
僕の知ってる恋は、とても幸せなものばかりで、一方通行な苦い味を知らない。
これが恋だと言うなら、少し残酷過ぎる、どうせずっとこうしてはいられないんだから。

黒く硬質に見える、実質は柔らかな髪に指を絡めて見ても、反応はない。
てっきり嫌がられるだろうと覚悟して触れたものの、ものの見事に無視。
無視、というよりは、無反応を装っているようなよそよそしさだった。

帰るところがある、救わなければならない命もある。
一度は失ってしまった命をまた、失わないために。

彼の言うことがどこまで本当かは知らないが、こっちが一段落したら、帰らなくては。
―――いつの間にか湧いてしまった変な情、初めて顔を合わせたときは、お互い殺気だらけだったというのに。
音に聞こえた隣国の王子と会うことになるとは思ってもみなかったし、対戦相手達がこんなにも人のいい方々だとも、思ってなかった。

ここは気が楽で、いい。
何よりも、心から愛しいと思う存在が出来た。
その気持ちは全否定されるし、受け入れてもらえる日も、来るとは思っていないけど。
こうして膝で甘えた素振りをしているのも、きっとただの、気の迷い。
昼下がりの陽光が気持ちよくて、台座を探していただけだ。

僕がこんな気持ちでいることも、知っているんだろうか。
だとしたら、笑い話だ。
馬鹿みたいに一人で切なくなって、気まぐれな態度に泣きそうになっている。
そんな滑稽な姿を知っていて、ネスは、答えをくれない。
僕が心の内で叫んだ言葉は全部全部聞こえているはずなのに。

ふわふわの髪はほんのりと温もりを含んで、僕の膝に無造作に投げ出されている。
時折指を絡めては弄んでも、ネスの反応はない。
寝てしまっているんだろうか、一瞬、腹の奥を掴まれるような感覚があったのに。
俯き加減に転がっているから、表情が見えない。
でも、寝てはいないだろう、こんな固い膝の上で安眠できるほど、ネスの神経は太くない。

と。



「…暇だね。」

「え、あ、うん、そうだね、起きてたんだ?」

「ずっと起きてるよ?ねぇ、そんな髪触ってて楽しい?」



ころん、と頭が回る、半分蕩けたような眼と眼があって、意図せずとも心が躍る。
我ながら現金というか、やっぱり、表情が見えている方が嬉しい。
ネスの声にまぁ、そこそこ楽しいよ、と返したものの、目的があって弄っているわけではない。
ただ、触り心地のいい質感に取りつかれて、指が離せなくなっているだけ。
そこはかとなく気持ちがいいのだ、この髪は。
僕の返答にふぅん、と何の気なしに答えたネスは、ぼんやりとした声で続ける。



「マルス、今、乱闘なのかな。」

「―――っ、うん、そう、じゃないかな、確かそう。」

「…ロイ?」

「…うん?」



ネスの口から飛び出した王子の、マルスの名前に、つい息が詰まる。
恋した子の口から、ライバルと言い切れる人間の名前が出てくれば、心臓は勝手にはねるものだ。
―――聞きたくないけど、その答えは分かってる。
僕にとっては、負け戦なんだから。
声色が変わってしまったんだろう、途端に眉をひそめるネスにあまり不安がられないよう笑顔を作ってみる。
せめてこうしていられる時間だけは、至福だ。
マルスが後で知ればきっとまた厭味の一つでも言われそうだが、これくらいのこと、許してほしい。

どうせこの子は、マルスのものになってしまうんだから。

胸の内で反芻する言葉が自分にとっては重すぎる。
変わらない事実の前にどれだけ泣き言を叫べば終わりが来るのか。
勝ち目のない戦をしたのは初めてだ、こんなに苦しいのは初めてだ。

覗きこんでくるネスの瞳が、苦しい。



「―――ねぇ、ロイ、何考えてるの…?」

「…何も、何も考えてないよ…。」

「嘘だ、悲しそう、すごく辛い顔してる。」



「じゃぁ、何考えてるのか、読んでみたらいいだろ?いつもみたいに。」



息を詰める音が、鮮明に聞こえてくるようだった。
僕の言葉をどう受け取ったのかは、僕には分からないけれど。
それでも突きつけてみた事実に、ネスは何も言わず、顔を背けた。

それから。



「いくら、いくら覗いてみたって、何にも分からないよ。」

「…え。」

「ロイの心を覗いても、ロイが苦しいことしかわからない。」

「…っ。」

「マルスの心を覗いても、マルスが迷うことしかわからない。」

「…それ、は。」

「ぼくの欲しい答えじゃない、ぼくは、ぼく自身が、どうやったら二人に答えを上げれるのか、それが知りたいんだよ…。」

「ネス、それは…。」



「今考えてることは、ほんとの答えには、ならないよ。」



その通りだと、頷く。
この子がいくら僕の心を覗いても、ここにあるのは一つだけだ。

きみが好き。

僕の思いを口にするまでもなく、ネスは少しだけ顔を歪めて、目を逸らす。
率直過ぎる思いはネスを惑わせてしまうだけ、マルスだって同じはずなのに。
あの人はいつも、分かったような言葉で僕たちを混乱させるんだ。



「ロイ、あのね、ぼく、もう自分で自分がよくわかんない。」

「…うん。」

「二人とも、好き、なんだよ。おかしいのかな、おかしいよね?」

「………。」



こんなとき、貴方ならどうやって、この子に答えを上げるんだろう。
僕の中に沸々と沸き上がってくる感情の整理も出来ず、ただ不安げな顔で俯く小さな体をぎゅ、と抱きしめた。






昼下がり―――ありあまる時間の中で失う答えと浮かぶ疑問。








DX時代、ロイ→←ネス→←マルスな話。
自分の優柔不断さに自分がわからなくなってくるネス。
ネスの辛辣な態度に若干傷ついてくるロイ様、理解済みのマルス。
おマルスはネスとロイ様が二人してぐるぐるしてるのが面白いだけ。
でも本気でネスが好きらしい。
ロイ様は本当ネスが好きなんだけど、結構鋭いところついてくる子なので、傷心気味のヤケクソ気味になっています。
おマルスだけが達観仕様、いわゆるこれからが大変です。
ちなみにおマルスはこの時代から自分たちが意図的に作られた存在であることに薄々感づいています。
だから何周もしてればいつか救える日がくるよ☆とか言いやがる。







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